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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
間のお話「冬の蜃気楼」
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結果を出す後輩は皆銀髪である


かくして唐突に始まった新入生(仮)部活見学会。有夢も附属生なのでそのまま大学にあがれるクチだが、このまじめな妹様は二学期中間テストを終えたこの時期になっても未だ進学先で悩んでいるようなので、せっかくだから良い機会だ。


「へえ、必修科目と選択科目があるんですね」

「そう。他にも教職課程とか資格を取りたい人は必要な科目が増えるの」


 コミック館を出るまで、アオイが有夢に大学の授業の取り方について教えていた。俺と円城からするとため口のアオイというのは珍しい光景である。有夢の方が背が高く、アオイの方が動作が子供(常に身振り手振りで表現する)なのでより異彩を放っている。


「可愛いなあ僕の妹たちは」

「……って顔をしているね」

「よせよ。書店員が見ている」


 こちらはこちらで円城の致死性の高いネタフリを冷や汗だらだらで何とかいなしていてスリル満点。構造上どこ歩いても書店員(=同僚)だらけなので色々なところで爆弾落としていっている気分。

 そもそも脛に傷有り浪人生の俺はともかく、スーツ姿の本部出向女に、俺らは慣れちゃったけど冗談みたいな銀髪小公女に高身長美少女(兄補正)(目つき悪)を伴った一行なんてのは、もう奈留の書く創作世界の領分ではないだろうか。


「各出版社の代表漫画のキャラクターを召喚して戦わせる伝奇ものなんてどうだろう?」

「アルファポリスとエンターブレイン(角川)の勢力が無双して古参勢から大ブーイング。ネット上は声のでかいアンチに占領されて終了だろ」


 まったく非実在青少年たちも生きづらい世の中になったものである。

 後ろでアオイが大人アピールで胸を張った頃に、ようやく一つ目の見学先に到着。

 先ほどのコミック館と違って落ち着いた雰囲気。ビジネス・社会館だ。三階までのスペースに延べ750坪分の売り場がある。きっつ……。


「主なジャンルは経済・経営・自己啓発・歴史・オピニオン・投資・金融などだな」

「ご覧のとおりほぼ大人のコーナーだね。そっち系の学部や法学・社学の科目を専攻でもしない限りなかなか足を運ぶこともないんじゃないかな」


 相手がアオイと有夢だったので円城も簡潔にそう割り切って説明してくれたが、実際は少し違う。例えばサッカー選手に学ぶ集中の仕方だとかPCメーカーの革命的プレゼンだとか、SNSが全盛の昨今の影響で若い世代もイノベーションをより意識するようになった。政治や社会に関しても、若い世代の発言的集団やネットでの討論会も増えてきたのである程度の論理武装を備えた若者は少なくない。その正当性はともかくとして。


「こういう本も書店部の方々が注文してお店に並べているのですか?」

「まあそうだな。でも並べるのは結構簡単なんだよ。人気の版元、旬なワード、注目されてる人物とかを把握していれば、その分野に疎くてもポンポン売れるもんだよ」

「あとウチはとってもこの分野に強いお嬢様がいるからね」


 苦笑いする円城。有夢の知らない二乃舞というその女性部員は、実はお前が寝静まった年始の夜に俺の部屋に来て一晩中「日本の論点」などという堅苦しくて分厚い本を読みふけっていたこともあるのだが、まあ色々と面倒なので語らないでおこう。


「あとはこの館は実用的な側面もあるぞ。落ち込んだ時の気の持ち方とか、そういう心理学的な本とか」

「そうですね」


 ナチュラルにアオイが俺の説明に相槌を打ってきたので少し瞠目してしまう。が、すぐに別の話題へ。


「あとは上の方の階にある貯蓄・投資とかだね。大学生なたアルバイトとか一人暮らしとかするだろうし、今から考えておいた方がいい部分だと思う」

「おお……」

「こういうこと言えるのが大人だぞアオイ……あ」

「……」


 思わず、言葉が口をついて出てしまった。アオイが昔と変わらない憧れの感嘆符なんか口にするから……いや、こいつに罪は無いな。


「……」

「……」


 元々静かだったビジネス館内から一層音が消えた気がした。

 ああ、やっぱり俺はついてこない方が良かった。


「でも、兄様もこういう本はお読みになりませんよね?」

「え、ああ、まあな」

「店長はむしろ読まなきゃだめでしょ。もう法を犯したらお縄の年頃なんだからさ」

「かつて犯したかのような発言やめろよな」


 気まずい空気が妹によって救われるとは。うう、情けない。

 アオイは少し拗ねたような顔のままだったが、俺はあえて視界に入れないようにして三階までを苦労話満載で説明して回った。


 そうして最後に訪れたのは先ほど話題に出たマネープランの売り場である。ここは付随して暮らしの法律や制度についても展開しており、年金やら各種保険やらとにかくめんどくさいけど軽視できない事柄が敷き詰められている。


「擬人化したらメガネ委員長キャラだと思ってるよ僕はここ」

「またこの面子では伝わりにくいことを」


 今更語るでもないが、高校時代もこういうスペースは学校の職員や当時の副店長(・・・)が受け持っていたので、アオイも有夢と同様に見学気分である。

 そういえば高校でアオイが入部してきたばっかの頃に、この分野の売り場で研修してたら眠り込みやがったことがあったな。棚見ただけで眠くなるとかほんとこいつは……って思ったものだ。


「……なんですか」

「なんでもない」


 もう今日何度目かのフラッシュバックに歯がゆい思いをしながら、若干やけくそ気味に会話を続けてみた。


「……。まあ株とかは怖いところあるから手を出すなよな」

「……、カブですか? うんとこしょ、の?」


 ……一体大学生にもなってカブと聞いて絵本の「おおきなかぶ」を連想する奴がどれくらいいることだろう。まさか未だに寝る前に読んでもらってるとか、有り得るのか?


 ……俺は異文化について理解を深めなければという気持ちになりながら、三人を引き連れてビジネス館を後にした。



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