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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
間のお話「冬の蜃気楼」
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冬の蜃気楼⑪


「アオイ」


 当然、声をかけたのは俺ではない。店の奥へ逃げるようにして移動中なので。


「円城先輩?」


 どうしてここに、というニュアンスで応答するアオイ。どうやらあいつも円城の状況を知らなかったようだ。

 附属で二年間仲良くしていた二人の再会に、今の俺は居ない方が良い。円城たちが止めないのは彼女らも承知だからだ。


 足早に三人の視界の外に移動する俺を、奈留だけが目で追っていた。




 アオイがこちらにいるならば、と。

 俺はコミック館に足を運んでいた。いきなり何かのキャラクターの等身大パネルがお出迎えだ。


「あ、瀬名じゃん」


 部員の一人に声をかけられる。黒縁メガネの細身の彼は同学年の渡辺君だ。

 両手にはしおりやらポストカードやら、おそらく今日発売の漫画の購入特典だろう小物を携えている。

 お互い白シャツにエプロンという部員の共通スタイルだが、あちらのポケットには限界量ともいえる色ペンが仕込まれており、何より胸元の名札の横に鎮座する美少女キャラの缶バッチが眩しい。


「おつかれ。至流いる?」

「和佐先輩なら映像化コーナーじゃん?」


 あれ、と指さすところに、エプロンを外した長身の部員が腕を組んで立っていた。

 彼の目の前には肩ほどまでの高さの透明なアクリル棚がずらりと並び、その中心には大きな、確か40型とか言ってたかな、液晶モニターが設置されていた。

 そこはコミック館の目抜き通り。これからテレビや映画で公開予定の映像作品の原作漫画をまとめた映像化コーナーと呼ばれる場所だ。

 そういえばこっちに配属されてから着ないようにしたんだっけか。見落としてた。流れてる映像の魔法少女にばかり目がいってたぜ。


「ありがとう。良いPOPだねそれ」


 そう告げて渡辺君の言う先輩のところに駆け寄る。悪評が付きまとう俺もコミック館の部員たちは気にせず接してくれるのでありがたい。

 ……まあ、そのことを堅物の女部員の子に告げたら「興味無いだけなので」と言われてちょっとショックだったが。


「コミックお詳しそうですね」

「ああ、ユーリンか」


 この空間で唯一サブカルかぶれしていない男には皮肉に聞こえてしまったかな。

 俺のジョークに中央高校元店長の和佐至流(かずさいたる)は、心底困ったような表情でこちらの肩を小突いてきた。


「なんか、わっかんないんだよなー」


 お手上げのポーズを作り、目線で正面の大きなディスプレイを見るよう促される。この売り場ではお馴染みの少年漫画のPVが流れていた。先ほどの魔法少女が何だったのかは気になり続けているところだが、やはり少年が成長していく王道展開も見ていて飽きないな。

 そろそろ出発しなきゃ。


「待ってなんで帰るのさ」

「ああ、悪い」


 至流は基本頭の中が非現実で満たされているが、漫画・アニメや特撮が好きというわけではない。神話やら伝記やらに傾倒している、どちらかというと歴史家タイプだ。「アニメのキャラって目が大きすぎて宇宙人みたいで怖い」という発言は奈留の目をクワっとさせたものだ。


「冬にやる映像化原作は一通り調べたんだろ?」

「うん。でもどれをどう並べたものか……選択しが膨大過ぎて」


 今や漫画原作の映像作品(アニメ・映画・ドラマ・あるいは舞台まで)は毎シーズン溢れかえっている。そこにさらに、例えば原作の売り上げと映像制作側の面子(具体的にはキャスト・監督)など、あらゆる要素が掛け合わさるので慎重な選別を要するのである。


「割とポスターとか拡材も重要だぞ。映える宣伝物は客を引き寄せる」

「ん、なるほど」


 他には、と図体の割に子犬のような目線でこちらを見下ろしてくる至流。別に俺も漫画担当だったわけではないし漫画が大好きってほどではないのだが……。


「あとはSBOOKは毎日チェックしよう。映像化作品は下手したら放送開始前に版元が在庫尽きる場合もあるからな」

「あれね、了解」

「あとは……やっぱ読んでみる、だな」


 予測していたであろう至流が、そうか、と天を仰いだ。

 たとえば10月からの秋の映像化原作漫画はおよそ18本。一冊590円だか463円だかする漫画を20冊(とりあえず一巻のみ)ほど買って、講義中なり電車の中なり風呂場なりで読み進めれば一週間足らずでコンプリートだ。お金はご自身でご負担いただくかたちになりますがそれで面子が保てるならオッケーだよね。


「いや体面とかは気にしないけど。逆にユーリンはもっと気にした方がいいよ」

「……してるから今ここにいるんだけどな」


 とりあえず、俺は俺で児童なんていう漫画以上に取っつきにくい分野を任されているので至流にはアドバイスをするぐらいしかしてやれない。とにかく読んでみろと、学研の漫画日本の歴史しかろくにMANGAに触れたことのない希少種こと至流には言うしかないのである。


 結局、俺がその場を去る時も至流は同じ格好で映し出される美少女なり美少年なりを眺めていた。




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