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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
間のお話「冬の蜃気楼」
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冬の蜃気楼⑦

お久しぶりです。

始めに、レビューを書いて頂いたひょろ様とメッセージを送って頂いた方々、そして閲覧頂いたすべての方々に感謝致します。

自分語りも下手なので続きを書き続けることで生存確認の証明としていきたいと思います。


よろしくお願いします。





円城と奈留との相談を済ませた後、俺は通常業務に戻らなくてはならなかったため、そのまま解散することになった。

円城は「また後で」といって姿をくらまし、奈留は引き続き児童書売り場を足跡でも探すかのようにくまなく歩いて回っており、たまに部員にいくつか質問をしているようだった。客や部員からも少し不審がられるくらいにがっつり捜査態勢な彼女の表情に恥じらいなどなく、視線を忙しく走らせては脳内で何かしらの反応を起こしているようだった。


……。

かつては人見知りで、身内にしかろくに口もきけなかったクラスメート。

今は訝しまれるのも気にせずに相手に声をかけ、刑事よろしくメモを取り会釈などしている。年相応、大人になったのだとかつての声の大きかったクラスメートは彼女の成長を祝福した。

でも、俺だけはそれを通過儀礼だと認めるわけにはいかない。奈留の変化は自己犠牲なのだから。矮小で底意地が悪く、改善することもかなぐり捨てることもできなくて変化を拒否した俺の傍で支えられるように、均衡を保てるように適応した馴れの果てなのだ。

そうした彼女の献身に救われて、今の俺はこうしてここに立っている。その恩への回答の仕方を保留したまま……。


「あの」


俺が自らの処し方を考えながら奈留を目で追っていると、眼鏡をかけた女性部員に声をかけられた。


「すみません。あなたが本部から児童を任されたのは聞いているのですが、まだ慣れていない子が何人かいて……」


言われて彼女が気にしている方向に目をやると、カウンターの隅で動けなくなっている二人の女子学生がいた。俺が見ていることに気づいて更に萎縮してしまっているようだった。


「あ……すみません。すぐに出ていきます」

「いえ、私も事情はよく知らないけど、お願いね」


自らが軽率な行動を取っていたことに気づき、俺は逃げるようにして児童館を後にした。附属高校から上がってきた生徒にとって瀬名悠里という存在は触れてはいけない禁忌のような扱いと化している。噂が一人歩きしたうえに訳あってその伝播を助長した組織があったため、もはや当の本人でも把握しきれないレベルの汚名を拝借しているのだが、どれも「不純」「薄情」といった属性のものなのだろう。当然噂を信じる女子からはもれなく線を引かれている。

この件も含めてすべてをノーガードで受け止めた当時高校生の俺は、一人を残してあらゆる交友関係を断ち切り卒業までを幽霊のようにして過ごした。しかし三年生の後半についに精神に不調を来してしまい不登校になった。幸い出席日数は部活の兼ね合いもあったのでぎりぎり卒業できる条件を満たしていたものの、心は既に進学や就職など考える余地もないほどに摩耗しており、都合一年くらいは、家の窓に吹きすさぶ風にすら怯えながら身を縮こまらせていた。


そこからどのようにして、ふてぶてしくもかつての系列大学に入学した挙句、後ろ指をさされながらも同じ部活動に勤しんでいるのかはいつか語ることができればと思う。



奈留には先ほど文芸館の方に戻るとメッセージを送ったので、後で合流できるだろう。こちらから誘っておいて礼を欠いた対応だが、事情と勝手を知る間柄なので許してもらおう。

一方の円城は……。


「やあ、お帰り。ルーティンワークに帰還かい?」

「ああ。昔と変わらず常にやることに追われてるからな書店部は」


文芸館内の座り読みスペースで手帳を眺めていた円城に声をかけられた。エプロン部員らの先を行くスーツスタイルの着こなしの彼女は背丈の高さもあってやはり同年代には見えない。ついでにパンツスーツに短髪で中性的な見た目と言動なので、なんというかモテるんだろうな、こいつ。


「それにしても、予想以上だね」

「うん?」

「僕が思っていた以上に肩身の狭い環境で働いてるみたいだからさ、店長」


そう言って立ち上がると、彼女は改めて店の内部をぐるりと見渡した。ああ、そういうことか。


「自業自得だしな。籍を置かせてもらえることには感謝してるよ」

「うーん」


この文芸館は先ほどの児童館と違って俺が普段部活をする拠点の一つなのだが、それでも既存の部員とは多少の距離を置いている現状だ。

その点コミック館の連中は他人の過去その他諸々に無頓着な奴らしかいないため気が楽だが、かといって仲良くしては他の場所で迷惑なのでやはりそこでもある程度のソードラインを設置している。


「……まあ、今の僕には役不足かな」


そんなことは、と言おうと思ったが、口を切る前に円城の携帯に着信が入った。

途端にビジネスモードに切り替わった彼女を見やり、俺は部活の通常作業の切り崩しにかかることにした。



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