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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
最終章『いくつかの真実を隠したまま迎える終幕』
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過去編~孤高の花こと深千代玲菜~






春真っ盛りな4月の第三週。

1年1組の教室は、ようやく慣れてきたクラスメート同士の会話によって終始賑やかだった。


日頃から幼なじみに『中学生はもう大人。バスも大人料金だし、みんなゲームなんてしなくなるのよ』と脅され続けてきた俺としては、こうして新しい友人らとゲーム談議ができることに一安心していた。


「えぇ? あのゲームってPS2で出てた奴だろ? なんかCMでひたすら狩り狩り叫んでたやつ」

「そうそう。あれが今度PSPで出るんだってよ」

「絶対売れないよ。何でも携帯ゲーム化すればいいってもんじゃなくね?」


そんなありふれた話を揚々と教室で語らいつつ、俺は会話の合間に教室の隅をチラチラと窺う。

相変わらず、あいつは一人、本に記された文章を目で追い続けていた。

流れる黒髪に黒縁の眼鏡、そして整った顔立ちながらもややキツめに見える双眸。生来の幼なじみである深千代玲菜は、今日も教室の孤高の花として片隅で一人咲いていた。


新しい学校生活が始まって三週間。俺も玲菜も小学校の頃と変わらない生活を続けている。俺はまあいいのだが、玲菜が結局誰ともツルまないスタンスを継続させる気らしいことは問題だ。いつの事だったか、『中学生になったらちゃんと友達作るから』と恥ずかしげに彼女が呟いた夜があったが、結局その勇気は出てこなかったようである。


……。


「おい、聞いてんのかよ瀬名?」

「ん、悪い」


俺は友人との会話を再開させながらも、頭の中では引き続き玲菜のことを考えていた。



「深千代さん、この後みんなでバレーやるんだけど一緒にやらない?」


給食を終えた昼休み。数人の男女グループが玲菜を遊びに誘っていた。玲菜が暇そうに読書しているので声をかけてくれたのだろう。


「悪いけど、今日はそんな気分じゃないの」


しかし、せっかくの遊びの誘いを玲菜は一言顔を上げて話しただけで断ってしまった。

クラスメート達は残念そうにしながらもすぐに切り替えて校庭へと飛び出して行った。

一緒に出ていかなかった俺は、読書を再開した玲菜の方へと歩み寄り、彼女の前の席にどかっと腰掛ける。


「…なんで断ったんだよ。バレー嫌いじゃないだろ?」


俺の言葉に玲菜は本から顔を上げ、まだクラスに生徒が残っていることを確認すると、おもむろに姿勢を戻した。


「読書の方が面白いもの。あたしは気にせず一緒に遊んできたら?」


相変わらず、俺以外の生徒との関わりに消極的なようだ。玲菜はかなり人間関係の構築に不器用で、小さい頃から他人と距離を置きがちだった。


「じゃあ俺もバレーしてこようかなぁ」


玲菜の眉がハの字になる。何も言わなくとも内心が透けて見えた。そんな彼女の素直さには思わず笑ってしまう。


「……」


結局、その昼休みは玲菜と一緒にいた。

窓から吹く春の風は心地よく、放課後はどこか寄り道したいと思わされた。




そして放課後。俺と玲菜は部活に入っていない為、二人揃って帰宅の途についていた。


「この後どこか寄っていかないか?」

「…とか言って、またマックとか意味もなく居座って話し続ける気でしょ」


玲菜の顔から、一日強張っていた緊張感が消え去っていた。あまり見た目や言動に違いはないが、本来のこいつは遠慮しない物言いに極端な正義感を心に秘めた文学少女である。


「じゃあやっぱカラオケだな。真っ暗にして怖い映像を延々と流してやる!」

「え、ええ?! そんなの嫌よ…」


そして、不安になるとテンパって物腰がひ弱になる。最近はそのギャップとやらが可愛く思えてきた。

…素の玲菜をみんなに知ってもらえば絶対にクラスの輪に溶け込めると思うんだけどな。なんか今の玲菜は凄くもったいない気がする。


「じゃあウチでマリカかなぁ」

「それなら付き合うわよ。スーファミでもいいし」

「三世代が現役で動くからこそできる対決だな」


そんないつもの放課後の提案をしていると、背後から俺たちを呼ぶ気さくな声が聞こえてきた。


「篠井先生、こんちわ」

「……」

「こんにちは、瀬名君と深千代さん」


呼びかけに対して挨拶する俺とやんわり無視の玲菜。

篠井香世しのい かよ先生は、先週からウチのクラスに配属となった教育実習生だ。頑張り屋だが少しおっちょこちょいとはウチの担任の評だが、性格は割とさばけていて俺たちも

話しやすい。スーツを着込んだ見た目は先生というよりも就活生である。


「先生も帰りですか?」

「うん。たまには日の落ちる前に帰れって言われちゃったから」


てへへ、と可愛らしく笑う先生。最初の頃は誰と話してもガチガチに緊張していたので、こうやって表情豊かな一面を見るとこちらも安心する。


「二人はよく一瞬にいるね。もしかしてもしかする?」

「…なんですかそれ?」

「そんなわけないじゃないですな」


俺が先生の言った意味を分かりかねていると、隣の玲菜が即答で拒否した。こいつが話しかけられた訳でもないのに発言するなんてよほどのことだ。


「そうなんだ。変なこと聞いてゴメンね」

「んん? 先生今のどういう意味だったんです…」

「お子様は気にしないでいいの、後で教えてあげるから」


俺の言葉を左手で制してくる玲菜。子ども扱いするなと散々言っているのに嫌な奴!


「ふふ、瀬名君は深千代さんに主導権握られているのね」


篠井先生にまで誤解されてしまったので俺は必死の弁解を試みるも、若干12歳の俺にとって、相手を納得させるには語彙力が不足過ぎた。


結局、誤解(だと思う)されたままの状態で先生とは別れた。

玲菜は少し機嫌を良くしていたようだった。



そうして、いつものように帰宅して私服に着替えた玲菜を自宅に招き入れる。

最近のこいつは妙に服にこだわりを見せており、今日なんかも割と短いスカートを履いてきたものだから少しドキッとしてしまった。


そのせいか、この日の俺の走りにはキレがなく、結局玲菜の操る軽量級キャラに三世代負けを喫してしまった。


罰ゲームとして週末に買い物へ付き合わされるハメになったが、玲菜が上機嫌になってくれたようなのでまあ良しとした。








すみません。これから先は更新が隔日ペースになります。

実習が近くなって精神が不安定です…

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