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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
第三章『期間限定イチャラブキャンペーン(死)』
39/103

Lord of Aria galaxy.




結局、何故奈留があんな行動に及び、玲菜が数年ぶりに我が家を訪れたのか分からず終いのままその日は解散した。


なんでも、意識を失った俺の代わりに玲菜が家から駅まで見送ったらしい。


ついでに、俺の胸ポケットに入っていたアオイの髪留め(何故か鞄の中に入っていた)が無くなっていた。

どこで落としたんだろう、弱ったな…。


目を閉じると分厚い灰色の六法がフラッシュバックしてきて、その夜はなかなか寝つけなかった。


眠れない間に色々考えた気がするが、この日の俺はとても疲れていた。そのせいか、一度深く眠りについて、翌朝目覚めたら何もかも忘れてしまっていた。





「はあ、超ねむ…」


登校した俺は挨拶もそこそこに机に伏せる。

今朝は玲菜の待ち伏せもなく、少しのひやかしと質問責めに会うだけで登校することができた。

俺の登校後、間もなくして奈留が後ろの席に座る音が聞こえたが、昨日の今日でやはり声をかけ辛いようである。結局この日は一言も言葉を交わさなかった。


昨日は色々あってうやむやになってしまったが、今日俺は一つの決意を固めていた。


ーーやはり、公の場以外で玲菜と口をきくのはやめよう。


いい加減認めざるを得ない。俺は口や内心では大人ぶって余裕語っているが、実際のところまだまだ精神的に未熟なのだ。

だから、俺は早く大人になりたい。大人の余裕を手に入れて何事にも動じなくなりたい。

そうすれば玲菜とも対等に渡り合える。そしていつの日かあいつを打ち負かす事ができるようになるのだ。


「そもそも、こちらから突き放すってのはやはり大人っぽいよな」


先日の放送室前でのやりとりに手応えを感じた俺。客観的に見ればとんでもない小物なわけだが、アレは玲菜にとって不意打ちであったに違いない。

その後のいくつかの行動であの無関心宣言が台無しになったかもしれないが、とりあえず言っておくことで牽制にはなったはずだ。

あとはちょっとした喧嘩を理由に今度こそ完全なる絶縁宣言をしてやればいい。

…別に、子どもっぽくはないはず、だ。


……。





そして、本日最後、4時間目の授業の終業ベルが鳴る。

意外なことに、玲菜は今日学校を休んだ。

休み時間のたびに「嫁はどうした?」という類の質問を受けるハメになったが、これくらいならもう慣れたので適当にあしらって事なきを得た。


さて、土曜の午後をどう過ごすかな。

奈留は気づけば教室から消えており、圭太も部活動に行ってしまったのでノープランだ。


俺も部活に顔を出してもよいのだが、今日は副部長が出ている日だからやめておこう。俺はあの人が玲菜の次に苦手だからな…。


とある先輩にビニール紐で縛られたあの事件を思い起こし、俺が廊下で一人身震いしていたら…。


「ごきげんよう、瀬名店長」


……。


ん? なんか貴重な休日にヒビが入る音が聞こえた気がするけど、空耳だよな。

俺は特に振り向きもせず、そのまま校門を目指す。

そういえば奈留とは話さず終いだったな。なんか気まずいんだよなあ。


「聞こえていませんの? 悠里?」


周囲の生徒が、後ろで輝きを放っているであろう他校の副会長に気づき、俄かに歓声をあげ始めていた。

…俺にとっては最早呪文の類いに等しい。


「……はあ。何か用ですか二乃舞店長?」


振り向いた先にいたのは、日本人離れしたブロンドの長髪なびく、第二附属の書店部店長 二乃舞亜理亜だった。


「っていうかまた来たのか。前回からほとんど日にち経ってないぞ?」

「懇意にしている附属高校ですもの。週に一度は通いつめたいぐらいだわ」


それはやめろ。我が校が崩壊してしまう。


「…で? 前回は散々かき回してくれたけれど、今回は何が目的?」

「私、悠里といくつか話したいことがありますの。学校代表として来ると前回みたいに会談の機会がありませんから、今回は個人的な訪問ですわ」

「キャー」

「キャー」


例によって、生じた嬌声は男どもの悲鳴も混じっている世紀末仕様。

亜理亜が現れるだけで学校の法則が乱されているかのような感覚だ。いつからウチはこんなに下民みたいなキャラが増えたのだろう。


「…わざわざ来てもらっておいて悪いけど、今日の俺は大事な用事があるんだよ」


こいつとは何が何でも関わりを持ってはいけない。こちらのどんな秘密を握っているかも分からないし、玲菜との恋人作戦がバレたりしたらそれはそれでめんどいことになりそうだ。

という訳で、俺は薄情にも一言だけ亜理亜に詫びを入れ、そそくさとその場を去ろうとする。


しかし、亜理亜も食いついた獲物をタダで帰す気はないようである。


「ええ、そうでしょうね。聞いたところによると、今日は玲菜さんがお休みのようですものね」

「ん?」

「お見舞いと称して彼女の持て余した身体を余すところなく」

「ちょ! おま!」


ざわめきが一層激しくなった。いや、ホントに亜理亜はギャラリーを沸かせる術に長けている。死ねばいいのに。


「根も葉もない事言うなよ亜理亜!」

「あら、私との会合をキャンセルしてまで優先するような緊急事態なんて、それしか考えられませんわ?」


…ぐっ。こいつ。

元々予定すらしていないのに。

しかしこれで、こいつの誘いを断れば俺は玲菜のお見舞い(にかまけて何かしらの行為)に行くという図式になってしまった。

いや、本来のイチャラブキャンペーンの要旨に則っているからお見舞いの選択肢でもアリなのだろうが、亜理亜の余計な一言がその判断を踏み止まらせている。


「く、変態扱いだけは嫌だ…」


そう小さく吐き捨てる俺。

どれだけ心を偽っても、どうしても越えられない一線というものは俺にだってある。


「はあ、分かった。何処へなりとも付き合うよ亜理亜」


結局、俺は一人で苦しむ道を選んだ。別に、この上さらに淫行疑惑までかけられかねない玲菜を哀れんでのことなんかじゃないんだからな。


「それでこそ私の悠里ですわ」


亜理亜は髪の毛をたなびかせながらクールに微笑む。

こいつこそ人格破綻者と言える危険人物だが、それを知っていても時々、こいつの魔的な魅力に騙されそうになる。


表向きに見れば内面・外面共にハイスペック。しかし実際は軍事用CPU搭載。二乃舞亜理亜はそんな存在である。多分こいつも戦乙女系だ。


「それで、話したいことって何なんだ?」

「ふふ、焦らないで。内容については二人だけになってから話しましょう?」

「はあ、お前は上品なのか下品なのか分からない奴だな」

「……今のは、玲菜さんの真似をしてみただけですわ」


驚くことに、あの亜理亜が少し恥ずかしそうにしているではないか。頬を膨らませたこいつもなかなか可愛…。


「っと、じゃあどこか移動しようぜ。二人だけっていうなら駅前のカフェとかでいいか?」

「もっと密室な所がいいですわ」

「じゃあ、カラオケ?」

「もっと静かな所がいいですわ」


むむ。こいつやっぱり見た目通りのお嬢様だな。

個室で落ち着ける場所なんて俺の放課後スポット検索じゃあほとんどヒットしないぜよー。


「貴方の思考の中にあるのは誠実な選択肢? それとも淫らな選択肢?」

「いや、そもそも選択肢すらまだ出てないから。っていうか二つも候補が挙がっているなら提案してくれよ。俺に一任とかお前は俺の彼女かっての」

「…ふ、ふふ。焦らないで。恋人かどうかについては」

「それはもういい!」


調子狂うぜ。仕方ないから俺は最近友人たちと行った遊び場をいくつか思い出して調べることにした。


えっと、スタバに映画館にアウトレットに…。



「…本当に分かりませんの?」

「分からない。東京にはそんな手軽に入れるくつろぎスポットがあるのか?」

「はあ、分かりました。私が場所を指定いたしますわ」


お、ついに亜理亜が折れてくれた。というか提案することを渋る行為自体謎だったのだが、まあ何か彼女なりの理由があったんだろう。


少し口をつぐんだ後、亜理亜は軽く背伸びをし、その会談場所を宣言した。


「悠里、貴方の家ですわ」

「は!?」


何、今俺の家って言った?!

瞬間、蘇る昨日の光景。

…個室で落ち着ける場所ね。はは、忘れてた。っていうかひっかけ問題だわー。


…いやいや、何この偶然?

俺の部屋は何か人間関係のブラックホールでも発生しちまってるのか?


…はあ。ため息が絶えない。

かくして今日は、亜理亜ギャラクシーを我が家へと招待する運びとなった。


抵抗しても全く暖簾に腕押しで、俺は連行される囚人が如く、肩を落として学校を後にするのだった。





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