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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
第三章『期間限定イチャラブキャンペーン(死)』
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心を閉ざす





その後、放送室に放置されていた奈留に謝ってから、俺たちは教室へと戻った。


…ふう、なんか色々あってドッと疲れたな。


昼休みという、一日の中のちょっとした休憩時間での一幕だったが、俺にとっては大きな変化があった時間だった。


そう、俺はついに玲菜との因縁から解き放たれたのだ。これからはそのリハビリに努めなければならない。


正直、今まで散々意識していたものを急に意識するなと言われても難しいだろう。

何せ、玲菜への関心はまったくの無意識だったのだから。


しかし、俺が全うな人間になる為には、これが最善の策なのだ。恐らく、これから先の俺は心の中で何千回と「無意識」と唱えることだろう。


…ふん、やりきってみせるさ。

もちろん、恋愛労働もな!


俺は無意識に右手を天高く突き上げていた。





……そんなこんなで午後の授業も滞りなく消化し、自然な流れで部活動の時間へ。

そして俺・玲菜・アオイの三人で夕礼を行い、店は特に問題もないままに夜を迎えた。


「…先輩」

「ん?」


カウンター横のパソコンの前で、俺は書類に目を通すフリをして読書に集中していた。

そこへ、レジ当番をしていたアオイが横からジト目で話しかけてくる。


「仕事しないでいいんですか?」

「今日は大体やることやったからな。まだ小さい仕事がいくつか残っているけど、まあそれは夜やるさ」

「…もう夜ですよ? 私、あと一時間で帰ってしまいますよ?」


「大丈夫。ちょっと今は早急に学ばなければいけない分野が…いや、経営に関する知識があってな」


俺が読んでいる本は「メンタルアウト~心を悟られない方法~」という心理学関係の書物だ。先ほど店頭で見つけ、誰も見ていぬ内に自分で会計して購入したものだ。


玲菜にああ言った手前、俺は最低限、表面上はあいつに関して無関心でいなければならない。

…まるで本当は凄く関心があるかのような言い方だが、先ほど言ったように無意識の関心である。

この無意識を克服するまでは、少なくとも表面の感情を殺そうた、そう思ったわけだ。

ある意味で俺は玲菜以上の演技力を要求されている。


「とにかく、今日ばかりは見逃してくれないか? 代わりに、今度の日曜日はどこか買い物にでも行こうぜ」

「何の対価でそんなお誘いに繋がるのか理解できませんが……まあ、いいですよ?」

「よーし決まりだ。残り一時間しっかり頼むぜ」

「……」


しばらく店の天井をぼんやり眺めていたアオイだが、カウンターに客がやってくると慌てて佇まいを直して応対するのだった。


…と、いかんいかん。さっさと閉心の術を身につけなければ。


「ふむふむ。相手に心を悟らせない為には、あらかじめ行動や事柄を予測しておくことが大切、か」


なるほど、一理あるな。要は予期せぬアクションやシチュエーションの前では、人は焦らずとも自然な感情が表情なり動作なりに表れてしまう、と。


…うん、めっちゃ思い当たる節があるわ。あり過ぎる。


「人間は結局のところ、何かを心がけていても元来の性格が圧倒して素のリアクションが漏れ出てしまうもの、と」


要はこうしよう、という心がけ程度では心は殺せないってことか。何か目的から少しズレている気がするが、とりあえずこの「事象を予測して心を閉ざす」っていう方法を試してみるかな。


そんなわけで、俺はアオイとレジを交代するまでの一時間を、生まれてこの方した事がないほどの恥ずかしい妄想を繰り返すことに費やした。





……。


そうしてあっという間に一時間が経ち、カウンターに入っている間も必死にシミュレーションを繰り返していたところ、玲菜がこちらにやって来て「作戦会議をしましょう」と提案してきて、今に至る。


…うん、俺が『玲菜への気持ちが代わるなんて…』と、完全に閉心はおろか、昼に交わした新たな条約(無関心条約)すら忘れていたあの冒頭に戻るのだ。


我ながら油断し過ぎである。初日ということで見逃してほしい。


「悪い、ぼーっとしてた」

「疲れてるなら明日にする?」

「いや、もう大丈夫。で、何の本だっけ?」


確か、何かお互いによく分かっていない分野があるから本で勉強しようということになったのだ。先ほどまでの俺の心理学講習と同じ要領だ。えっと、内容は…。


俺はカウンターに置かれた本の表紙を確認する。


そこには。

『恋するキモチ~ピュアなオンナノコ達のヒミツ~』

と記されていた。





…俺は、哲学的な気持ちになった。







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