帰ろう!
帰りの電車、私たちはとても静かだった。
「このメンツでこの電車乗るのって、私の初日のあの日以来じゃないすか」
とりあえず思ったことを口に出してみる。
「そういえばそうですね。もう遥か昔のようです」
「一、二か月前じゃないですか」
「いきなり白部先輩が私を八つ裂きにしたの、忘れてませんからね」
「してないだろ」
「申し訳ありませんでしたほんとにもう」
「冗談ですよ」
「わかってますよ」
窓の外を見る。日が暮れ始めて、夜の準備をしている。
「しっかし、生徒会長と2年の委員長が無断外出なんてねえ。世も末ですよ」
「うるせえなあ」
「生徒会長は茶野さんがいるので」
「あいつに任せるんですか!?あいつ私に2回ビンタしてますからね」
「えっ」
「え、大問題では…?」
須和っちが白部先輩を見る。
「いや、まあ、精神的余裕が無かったのは考慮できますね。それはそれとして大問題ですね」
「いやいやいや、私もやり返しましたって。同じくビンタ2回」
何故だか私が焦る。
「先に手を出したのは?」
尋問のように須和っちが聞いてくる。
「茶野兄ですけども…」
須和っちは頭を抱えた。
「いやいや、大丈夫ですって」
何故私は嫌いな人間の弁護をしているのだろう。
「私もほら、態度くそ悪いですし」
「そういうお話でもないんですよ~」
白部先輩が怖い。話を逸らさなければ。
「あ!アイちゃんに呪われた時って、お二人ともキスされました!?」
「は?」
「え?」
一語しか話していないのに二人ともキレている。
舵の取り方を間違えたことは分かった。どんどんドツボにはまっていく。
「…本当にお二人とも、あと学校のみんなもありがとうございました」
しんみりさせようとする。二人とも黙ったのでいい感じだろう。
「皆さんが居なければ、何も私は出来なかった。最初にお二人に出会えて、私は最高に幸運でした」
しんみりした空気はそれはそれで気まずいのだと知った。
「ああもう!」
私は両脇の二人を両腕で抱きしめた。それから頭をわしゃわしゃに撫でる。
「アイちゃんにしてもらった分のお返しです!」
学校に着いた私たちを待っていたのは現実だった。
校長に、私とその友達たちは詰められた。何が駄目でどこが無謀でどうしてそのような行動に至ったのか、全てを説明させられた。全部私が悪いと何度か口を挟むと、そんなことは聞いていないと言われる。2週間外出禁止、経緯説明文と反省文を10枚以上。今回の呪いについての考察文10枚以上。
委員長以上はさらに自分の立場と行動の責任についての文を10枚以上。
私は詳細な経緯説明文でさらに10枚。
「こんなことして意味あります?」
もう開き直ってしまった私は校長に聞く。
「それはやってみて自分で気付きなさい」
生徒愛に満ち満ちた人じゃ無かったのかよ。
「他に選択肢はありませんでした!最善をつくしたんです!」
さらに食い下がってみる。
「ではそれを文章にしたためなさい。話は以上。いや、首藤さん」
「はい」
「電話とテレビ電話であれば向こうの世界と繋がるようになった」
「まっっっっっじですか」
「まじです」
「帰ってよろしい」
「はいっ!!!!!」
私は皆に礼をして走り去る。
部屋に戻って、母にテレビ電話を掛ける。
すぐに出た。
「相!!!!」
「お゛か゛あ゛さ゛ん゛!!!!」
私は大泣きした。わーっと泣く。
父もいる。やはりこちらの世界の父より肥えていて、見慣れた姿だ。
三つ子もくる。みんな泣いて収集がつかなくなる。
「顔見れてよかったあああああ」
「こっちのセリフ!!!あとなんなのお金送ってきて」
「私こっちで働いてるの」
「聞いたけど働ける年齢じゃないだろ!」
「いろいろあってえ!!!」
「お姉ちゃんだああああ」「お姉ちゃん泣かないでえええ」「お姉ちゃああああん」
一応事前に学校の方から説明があったらしい。一度落ち着こうという話になって、でも誰かが泣いて、また皆で泣き始めるというやりとりを複数回行った。
そしてやっと話が出来る状態になり、こちらの世界の事を話す。学校に行き、頼られている、友達も多い。そんなことを伝えると両親は少しホッとしていた。
弟妹はそれでも不満気ではあった。気持ちは痛いほど分かる。今すぐ弟妹を抱きしめたいのは私も同じだ。
散々話してから寝る。久しぶりにゆっくり眠れた。
胸を触って深呼吸をする。私は生きている。
久しぶりのランニング。緑島は私を目視してにやりと笑った。
「お久しぶりですねえ」
「もう久しぶりじゃなくなる予定だから」
「嘘。走ろ」
ゆっくり走る。呼吸に集中する。吸って、吐いてを一定のリズムで行う。体をそれに付き添わせる。
緑島はやはり前を走る。時折私の方を見る。そこに厭らしい笑顔はなく、いるかどうか確認しているような顔つきだった。何度も私を見てから、私の横に並んで走る。
「最初っからこうすりゃ良かったんだ」
そう言い放つ。言葉は荒いが、優しい響きだった。
ランニングを負え、彼と別れる。
「じゃ、後で。ランニングはまた明日」
部屋に戻りシャワーを浴びて、朝食のため食堂に行く。
委員長3人組は揃っていた。
「おはようございます」
そういうと、三人も応えてくれる。
定食を持ってから三人の座るテーブルに私も座る。
「てか委員長的に昨日の事大丈夫だったの?」
水を飲みながら聞いてみる。
「意外と怒られなかったな、っていう印象だな」
「僕もです。てっきり解任されるとばかり」
「私もまだ会長らしいですよ」
「みんななんか他人事だなあ。白部先輩と紫苑は、茶野兄と春日井弟が復帰したわけだけど、役職はどうなんの?」
「私は…当面まだ会長みたいですね」
「僕も。さっさと健吾に譲りたいんだけど、まだ本調子じゃないとか言ってあいつ」
「へえ。そうなんだ」
「ところで、もうすぐ夏休みですね」
白部先輩が言う。
「夏休み!?…皆帰省するのか…そうか…」
私は皆を恨みがましい目で見る。
「呪いになるなよ。俺は実家と折り合い悪いから帰らないし」
「私も帰りますが、お盆くらいですね」
「僕もそんな感じです」
「そんなもんなのか」
「はい。あの、なので…その、りょ、旅行など、海など、山などへ馳せ参じませんか」
白部先輩がにやにやとらしくない顔で私たちから視線を外して言う。
「友達と…旅行…」
「そんなっ!そんなイベント本当に存在するんですか!!あり得るんですか!!?どうなんですか首藤先輩!!!」
須和っちは呆然とし、紫苑は私にキレている。理不尽だが可愛いものだ。
「BBQとかやってもいいな」
「「「BBQ!?」」」
私は彼らをからかって遊ぶ。いつも通りだ。
授業が始まり、演習で4年の授業の手伝いをする。4年ともなると倒れたり吐いたりする生徒は少ない。パニックを起こす人はいるが。
すぐに呪いの何たるかを見破られる。悔しいのでもうちょっと強いのを出すと、私への呪いが発生した。茶野兄からのものが一番強かった。これも回収して私の生命力に変換する。
昼食はみんなで食べる。夏休みの予定を話し合う。コテージを借りて、山へ行こうか。民宿に泊まって海へ行こうか。そんな話でわいわい盛り上がる。
「海鮮もいいけど、お肉もいいなあ」
「川釣りしようぜ川釣り」
「日に焼けそうだな。完全防備しないと」
「キャンプとかもいいよな」
「熊怖いから山で」
「海はサメが出ますよ」
「どっちも虫が出るのが嫌です」
「じゃあナイトプールに行くか!」
「行かねえよ」
まだいつ帰れるか分からない。けれど私はこの日常も悩んだり楽しんだりしたい。




