連携
二十二階層・リーディア領。
坑道の空気は薄い。炭鉱のように掘り進められた洞窟を、無数の木の支柱が支えている。天井は低く、道は広い。灯りの魔石が吊るされていなければ、闇はすぐそこまで迫ってきそうだった。床には板が敷かれ、踏みしめるたびに乾いた軋みが響く。
先頭に立つのは、金の巻き髪を肩で跳ねさせた少女だった。
「いくよ!」
自信に満ちた笑み。軽装の鎧は動きやすさと華やかさを両立し、短いスカートの裾に取り付けられた装飾が歩くたびに揺れる。配信映えを意識した、計算された見せ方だった。
星月の旅団のリーダー、ミレイ。
その正面に、コボルトが四体並んでいた。犬のような顔をした人型モンスター。粗末な盾と剣を持ち、遠吠えを上げながらじりじりと距離を詰めてくる。
ミレイが踏み込んだ。
ロングソードが横一閃に振るわれる。コボルトの盾が切り裂かれ、木片が飛び散った。間髪入れずに二撃目。斬撃が胸元を抉る。
すぐ横に、黒髪の少女が割り込む。
大盾を構えたルーファだった。迫る剣を受け止め、体を滑らせるようにしていなす。盾に衝撃が伝わり、金属音が坑道に反響した。
後方では、紫の長髪を腰まで垂らしたリザが杖を掲げる。
「ファイアボール」
小さく呟くと、火球が生まれた。広い通路を滑るように飛び、コボルトの足元で炸裂する。爆炎は直撃を狙うものではない。注意を引き、標的を自分に固定させるための牽制だった。
そして、そのさらに後ろ。
最後尾に、新しく加入したヒーラーのケイトがいた。
黒髪の長髪。まだ制服に慣れていないのか、短いスカートを気にして歩幅が小さい。片手で裾を押さえながら、ぎこちなく位置取りをしていた。視線は落ち着かず、周囲を警戒している。
配信画面の向こうでは、視聴者のコメントが流れ始めていた。
:おっ、やってる!
:ボス討伐頑張って
:新しい子可愛い
:コボルト強い
:頑張れ〜
ルナ追放後、最初の配信。
この階層の最奥には、ミノタウルスが待っている。人型の巨体に牛の頭。三メートルを超える体躯。自分の背丈以上の大斧を振り回す、典型的なパワー型ボスだ。
だが。
そこまで辿り着く前に、足止めを食らっていた。
ミレイが前に出る。
その瞬間、横穴から小型のコボルトが飛び出した。
「っ、待ってミレイ!」
ルーファが叫ぶ。
だが、遅い。
ミレイは躊躇なく突っ込んでいた。被弾を考えない強引な前進。
剣が肩口を浅く裂く。
さらに二体が同時に襲いかかる。
「くっ……!」
ルーファが盾で割り込む。だが体勢が崩れていた。完全には防げず、横腹を切られた。
「回復……回復……!」
ケイトが慌てて詠唱を始める。声が震えている。
ミレイがさらに前進する。
ルーファが庇う。
二人同時に傷が増えていく。
光が発動する頃には、もう次の攻撃が来ていた。回復量も、タイミングも足りない。
連携はとっくに崩れていた。
ケイトの手が震える。
ミレイとルーファは目の前しか見ていない。後ろからの隙を突かれ、また被弾する。
最後の一体を倒し切った頃には、全員が肩で息をしていた。誰も無傷ではない。ボスモンスターを討伐しに来たパーティーの戦闘後とは思えないほどの消耗だった。
「今回は新しく入った子との連携の合わせもあったし、今日はここまで。次はミノタウルスまで行っちゃうよ」
ミレイが笑顔を作る。だが、呼吸は荒いままだった。
ルナがいた頃なら、ここは通過点だった。それを口にする者はいない。
配信画面の端に、アンケートウィンドウが浮かび上がる。
【今回いちばん活躍しているのは?】
毎回恒例の人気投票。
【1位 ミレイ 61%】
その結果に、ミレイの口元がわずかに緩む。
だが、同時にコメント欄が荒れ始めていた。
:え、弱くない?
:ルナいなくなったらこんなもん?
:回復遅い
:前のヒーラーどこいった
:なんでルナ抜けたの?
:ルナ抜けたってマジ?
:ルナの方が上手かった
:回復間に合ってない
ミレイは一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐに笑顔を作る。
「えっとね。私たちにも分からないの。ルナは……男ができたみたいでね。パーティーもその男と組むとか言って、私たちの方が捨てられたの」
まだ最初の配信だ。
追放してから、ほとんど時間は経っていない。
それなのに、もう知られていた。
:え〜酷い
:ケイトちゃん応援してる
:さっき確かに男と個人配信してたわ
:62階の男が恋人!
:ルナちゃんが裏切るはずねぇだろ!
ミレイはさらに言葉を重ねる。
「新メンバーを紹介するね。このケイトさんは30階層経験者なんだよ。やっぱり神様は見てるんだね。ヒーラーがいなくて困っていた私たちに手を差し伸べてくれたんだ」
コメントの流れが加速する。
:は?
:ルナちゃんの方がよかった
:誰?
:ケイトさ〜んここでも応援します!
:ルナが裏切った?
話題は、ほとんどルナのままだった。
画面端の登録者数が、静かに減り続けている。
31万。
30万。
28万。
25万。
瞬く間に、数字が落ちていく。
このままの勢いなら、20万もすぐに割りそうだ。
「なんでよ。なにが悪いのよ」
ミレイの笑顔が歪んだ。
楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!




