第19話 潜入!『ダンジョン』へ
ポタン—―。
薄暗い空間。
石煉瓦の穴から、水が音を立てて落ちる。
その最下層には、一人の男が玉座に座っていた。
特徴的な黒いローブを身にまとい、足を組む。
冷徹な目で、首を垂れる三人の幹部を見下ろした。
「二人はとらえられ、お前たちは逃げてきたと?」
ズンッ。
言葉が、まるで重力帯びたかのようにのしかかる。
とっさに、額を冷たい地面にこすりつけた。
「は...はい。けど、私たちは一生懸命...!」
「黙れ」
幹部の反論を、低い声で制止する。
乾いた笑いが、あたりに響いた。
「これじゃあ幹部の意味が分からん」
玉座から肘を離し、手をかざす。
その手には、禍々しい紫の光が収束していく。
ドクンッ。
心臓の鼓動が、徐々に早くなっていった。
「やめてください...!私たちは、まだ。まだやれます!」
「ほう?」
男は手を止め、彼女に耳を傾けた。
「続けろ」
「は...はい!おそらく、学園側は私たちの居場所を突き止めたはずです!ですので、返り討ちをするのです!それならきっと...!」
フンッ。と、鼻を鳴らす。
冷徹な目は、いつもの冷静な目へと戻っていた。
「よし。それじゃあ、今度こそ逃すなよ」
にやりと。口角を上げる。
「今度こそ、皆殺しにしろ」
『はっ!』
心の中で、男は笑う。
その笑いには、喜びと渇望が混じっていた。
(千年を超えて、ようやく果たせますよ)
ぽきぽきと、手を鳴らす。
(...魔王様)
!
太陽が顔を出す頃。
国を出て、生い茂る平原へ向かう。
苔で覆われた石煉瓦の入り口に、ダリアたちは立っていた。
ヒュウゥン。と、生ぬるい風が、頬を撫でる。
まるで口を開けて待つ獣のように、入り口がそびえたっていた。
「ついに、来ましたね。先生」
「ああ。ここが、ジーノルタスの本拠地...『ダンジョン』だ」
ディエールの視線が鋭くなる。
まるで目の敵にするような勢いで、睨んでいた。
「千年も前だから、もう崩壊しているのかと思っていたけれど...」
オリベルが手を顎に置きながら言う。
「まあ、任せろって。このディエーゴ様が守ってやるよ。なあ、アルゼーヌ?」
「え?まあ...ね。何か危険があれば、僕が安全なところへ送りますよ」
ほぉ。とアローネは感心する。
かなりの戦力が、ダンジョンの入り口に集結していた。
「さあ、こっからが地獄だ。お前ら、進む勇気はあるか?」
ディエールは拳を強く握る。
その拳には、覚悟が見え隠れしていた。
『はい!』
「それじゃあ、行くぞ」
ディエール先導の元、ダリアたちはダンジョンに足を踏み入れる。
その時、なぜか死のにおいがダリアの鼻腔をくすぐった。
!
薄暗い道を、恐る恐る進んでいく。
冷たい空気が、やけに冷たく感じる。
しかし着実に、前に進んではいた。
「先生、道に詳しいですね」
ディエールの後ろにいたダリアが、静寂を打ち破る。
少し間を置き、へっ。と笑った。
「俺は歴史に興味があるんでな。マニアックな知識もあるんだよ」
全員の足音が、大きくなってダンジョン内に響く。
次第に、腐敗集が強くなっていった。
――ポタンッ。
水が落ちる音とともに、ディエールの足が止まった。
目の前には、死体。
その骸骨の周りには、赤黒い固形物が散らばっている。
ディエールは、その場で立ち尽くしていた。
「先生、どうしたんですか?」
ダリアが尋ねる。
ふと、ディエールの手元に視線を飛ばす。
彼の拳は、強く握りしめられていた。
「...なんでもない。行くぞ」
そこからは静寂。
日常音のように、足の音だけが耳を刺激する。
「キャッ...!」
ズルッ。
短い悲鳴が、ダリアの耳に入った。
慌てて視線を飛ばす。
そこには、転んで仰向けになっているヘルメスの姿があった。
「すいません...皆さんを驚かせてしまって」
起き上がって、小恥ずかしそうに手をいじる。
「驚かせるなって...このディエーゴですら、心臓がバックンバックン言ってるんだからな。な、ゼーラ?」
「うん」
平坦な声で、短く返す。
ディエーゴは少しうつむき、目を細めた。
「よかった。敵がいなくて...」
瞬間、明確な殺意を感じ取る。
風が切り裂くように肌に触れた。
それと同時に、ダリアの視界に黒い何かが映りこんむ。
「敵襲だ...!」
ディエールが叫ぶが、もう遅い。
視界が、ぐにゃりとゆがむ。
胃が浮くような感覚とともに、ダリアたちはその場から消えた。
「ちっ...転移魔法か。...してやられた」
廊下に取り残されたのは一人、ディエールだけだった。
眉を顰め、思考を巡らせる。
「おそらく敵は三人。三人と二人、そして二人で分断させたのか...こうなったら」
言葉よりも、ディエールの体は動いていた。
最悪の状況が、頭を駆け巡る。
救えなかった、一人の少年のことを。
!
ダリアの視界が定かになる。
先ほどとは打って変わって、開けた空間に出ていた。
「ダリアか?」
後ろにいたディエーゴが、尋ねる。
その隣には、ゼーラもいた。
「うん。どうやら、『転移』させられたみたいだ」
目の前には、フードをかぶった男。
タラリと冷汗が、頬を伝う。
「『転移魔法』ほんとうに便利だよね」
男が、しゃべり始めた。
手を広げ、余裕しゃくしゃくと語る。
「どんなに大勢で来ても、簡単に分断できる。しかも場所を知らないと効果はいまひとつというのも、面白い」
ニタリ。と、気味の悪い笑みを浮かべる。
その笑顔には嘲笑が混ざっていた。
気持ちの悪い何かが、背中を駆けあがってくような気分。
「さて、魔法の説明はおしまいだ」
杖を構える。
彼の視線が、鋭くなった。
「お仲間が助けに来ない状況で、君たちはどう僕を倒すのかな?」
瞬間、閃光がダリアの視界を覆った。
ほんの一瞬。
ダリアはただ茫然と立ち尽くしていた。
「あぶねぇ...!」
横から割って入り、爆破魔法で相殺する。
唖然とするダリア。
「ぼーっとしてんじゃねぇ!あいつは、俺たちを殺す気だ!」
「っ...!」
喝を入れられ、ダリアはようやく戦闘態勢に入った。
敵を見据え、拳を強く握る。
「ディエーゴ、一緒に戦ってくれるかい?」
「ああ...!お前となら喜んで!」
ディエーゴは杖を構える。
二人は並び、そして――
ズドンッ!
ダリアが地面を踏みつける。
「おっと!」
ビユンッ!と、拳が空振る。
転移した男の視界。
そこには、火があった。
ズドンッ!
轟くような爆発音とともに、煙が立ち込める。
「やったな...ダリア」
「うん。僕たち、案外相性がいいみたいだね」
二人の顔に、笑みがこぼれる。
煙の中から、影が現れるまでは。
男は服についた汚れを取り払いながら、前に出る。
傷一つない姿で、薄ら笑いを浮かべた。
「ひどいなぁ。そんなに急がなくてもいいのに」
男は杖を構えた。
ドムッ!
爆破音とともに、ダリアたちは吹き飛ばされた。
「だって、死ぬことに変わりはないんだから」
と。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
読者様には主人公が最強に成り上がっていく、そのさまを長い目で見守ってくれたらなと思います!
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