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ガラクタ倉庫のランプの精は、ランプの中へ戻れない  作者: 碧衣 奈美
第二章 魔性の魔力

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忘れ物

 それから、数日が経った。

 これと言って、何事も起こらない。トイフェールがまたハズィランに対して言いがかりをつける、ということもなかった。

 それ以前に、ハズィランを完全に無視している。そこには存在していないかのように。職員間での連絡事項も、別の魔法使いを介している。一切関わることのないように、見事なまでにハズィランを避けていた。

 ハズィランに文句を言っても仕方なく、ギルデント校長は彼を追い出すつもりがないらしい。

 そうとわかり、この学校で新参者の自分ができる最良の方法として、ハズィランはいない、と思い込むようにしたのだろう。

 ハズィランも、何かにつけて突っかかって来られるよりはいい、と気にしていない。あんな疲れる会話はもうしたくなかった。今の状態が、お互いにとって一番平安だ。

 ルルナとココナが用事でトイフェールと話をする機会があったが、その時は普通に会話が成立していた。やはり、彼にとっての問題はハズィランの存在であり、人間で魔法使いを志望している生徒に特別なものは何もないのだ。

 ルルナは「ハズのことをもっと知ってもらえば、少しは違う態度になるかも」などと言って、トイフェールに話をしようとしたのだが、校長先生にまかせておきなさい、とココナに止められた。

 多少なりともデリケートな問題に、ルルナが首を突っ込んでますますこじれる、ということが予想できたからだ。たとえルルナにそんな気がなくても、状況が悪化することはよくあるので、ココナの経験からくる正しい行動である。

 そんな感じで、日々が過ぎていた。

「いたっ」

 ふいにルルナが右目を押さえた。

「どうしたの、ルルナ」

 友人の声に、ココナがそばへ寄る。

「んー、目にほこりが入ったみたい」

 今は掃除の時間だ。

 ルルナやココナを含め、当番にあたっている八人の生徒が技術教室を掃除していた。

 普段は魔法を使って掃除をするのだが、時々自分達の手で掃除をする日がある。今日は魔法なしの日だ。

 いつもならホーキやゾーキンに触れることなく、教室はすぐきれいになるのだが、今日はそうもいかない。掃除は毎日されているから大量のほこりがもうもうと舞い上がることはないが、それでもある程度のほこりはたつ。

 そのほこりが、ルルナの目に入ってしまったらしい。

「もう、魔法使いのたまごらしく、いつも魔法で掃除させればいいのにぃ」

 魔法に依存しすぎないため。魔法が使えなくなった時に、道具の使い方を忘れないため……とか何とかいう理由があるらしいが、する方にとっては面倒には違いない。

「あ、鏡があるわ。ルルナ、これで見たら?」

 教卓の上に小さな手鏡が置かれているのを見つけ、ココナはそれをルルナに渡した。

 ルルナが鏡を受け取り、覗き込む頃にはルルナの目にかなりの涙がたまっている。自分の目を映した時には、その涙でほこりも洗い流されたらしい。

 ゴミらしいものは見えず、目もすっきりしていた。

「……取れたみたい。ありがと、ココナ」

「これ、私のじゃないんだけど……忘れ物かしら」

 鏡はルルナの小さな手の中にも入るくらい、小さくて薄い。本当の手のひらサイズだ。

 裏は銀色だが、本物の銀かどうかはわからない。裏にも(ふち)にもこれという細工はなく、いたってシンプルな鏡だ。

「学校の物なら、マークが入ってるはずよね。何もないみたいだから、個人の物かな」

 ルルナが鏡を何度もひっくり返し、裏表を調べてみた。

 学校の備品なら、ガーヘンディッシャン魔法学校の校章が小さくてもどこかに刻印されているはず。しかし、それらしいものは見当たらない。

 刻印が消えかかる程に古い物ではなさそうだし、これは個人の所有物とみるべきだろう。

「それ、ここへ入って来た時からあったぞ」

 同じく当番のレッシュが言った。彼は一番にこの教室へ来ていて、その時に鏡があることに気付いていたという。

 この教室は薬草を調合したり、魔法道具の使い方をマスターするための場所で、棚には色々な道具が置かれている。だから、レッシュはこれもその一つだろうと思っていたのだ。掃除の時に片付ければいい、とそのままにして。

 学校の物でなければ、教室のどこかに置き忘れられていた物を誰かが見付け、教卓の上に置いたのかも知れない。忘れた人が気付いて取りに戻ったらすぐにわかるように、と。

「鏡だから、女の子の物かなぁ」

「そうとは限らないぜ。魔法によっては、鏡を使用することもあるだろ。相手の攻撃を跳ね返す時も有効だし。ちょっと小さすぎだけど」

「そうね。それに、これが単に身だしなみを整える時に見る用途しかなくても、女の子の持ち物にしてはシンプルすぎるわ」

 ココナに言われ、ルルナはもう一度鏡を見る。

 確かに、鏡の裏は細工がないからのっぺりしているだけで、この鏡そのものはちっともおしゃれじゃなかった。ポケットに楽々入るサイズだから、持ち歩く分には便利かも知れないが……もしルルナがこの鏡をプレゼントされたとしても、あまり嬉しくない。

 どっちにしろ、この鏡から持ち主の情報は得られそうになかった。

「適当に先生達にでも尋ねてみる。わからなかったら、事務局に預けるわ。忘れた人が気付いて、紛失届を出してるかも知れないし」

 ということで、鏡はルルナが預かった。

 掃除もようやく終わり、当番達は教室を出てそれぞれの方向へ散る。

「さーて、誰に聞こっかなー」

「手がかりはゼロだから、見かけた先生から順番に聞くしかないわね」

 ルルナとココナは、適当に敷地内を歩いた。それから、目についた魔法使い、つまり先生を掴まえると、鏡を見せて誰の物か知らないかを尋ねる。

 しかし、誰もが首を傾げるばかりで、有効な情報は得られない。

「ルルナ、もう事務局へ届ければ? こんな薄い手鏡じゃ、使っていても周りの人があまり気付かないんじゃないかしら。だから、誰も知らないんじゃないの?」

「んー、そうかもね」

 探し回るのはやめて、ルルナはココナの言葉に従うことにした。

 二人が事務局へ向かう途中、図書室の前を通りかかる。

「ねぇ、ココナ。最後に司書の先生に聞いてみようよ。図書室なら、先生や生徒もたくさん出入りするし」

「まぁ、ついでだものね」

 二人は図書室の扉を開けた。本の貸し出しカウンターには、図書委員の生徒と司書のメイムがいる。

「こんにちは、メイム先生」

「あら、こんにちは。ルルナ、ココナ」

 にっこり笑いながら応えるメイムは、半年程前にこの学校へ来た先生だ。

 淡い金の髪を一つにまとめ、丸い金縁眼鏡の奥にある紫の瞳は少し下がり気味。二十代後半だというメイムは、ややぽっちゃりな女性だ。

 一応、彼女も魔法使いなのだが、魔法を使うより魔法書を読むことの方が好きで、こうして普通の本や魔法書に囲まれているのが幸せらしい。

 彼女を見ていると、魔法使いと一口に言っても本当に色々だな、などとルルナは思うのだった。

「先生、南棟の技術教室に鏡の忘れ物があったの。これ、誰かが持っているの、見たことないですか?」

 ルルナは鏡を見せながら、メイムに尋ねた。

「まぁ、小さな鏡。誰がどんな本を借りたかはわかるんだけど、鏡はねぇ。図書室で鏡を使う人はあまりいないから……ごめんなさい、私にはわからないわ」

 言われてみれば、本を読みながら鏡を見る人もいないだろう。使いもしない鏡をむき出しで持ち歩く人もあまり見掛けないから、メイムが知らないのも当たり前だ。

「そうですか。ありがとう、先生。他の先生にも聞いてみたけど、誰も知らなかったの。事務局に届けて来るわ」

「その方がいいわね。あ、さっきハズィラン先生が入っていらしたから、尋ねてみたらどう? もしかしたら、ご存じかも」

 ハズィランがこんな小さな鏡を気に留めているか知らないが、せっかく近くにいるなら尋ねてみる価値はあるだろう。

 メイムに教えられ、二人は魔物や魔女について書かれた本が並ぶコーナーへ向かった。

 本棚がずらりと並ぶ空間のとある列に、二人はハズィランの姿を見付ける。

「ハズ」

 ルルナが声をかけると、ハズィランがこちらを向いた。

「珍しいな、こんな場所へ来るなんて。この辺りに絵本は置いてないぜ」

 ハズィランに掴みかかろうとするルルナを、ココナがすぐに制止する。

「なによぉ。ハズだって、図書室にいるなんて珍しいじゃないの」

「授業の参考になる本がないか、探してるんだ」

「ええっ、そんな先生みたいなこと、してるの?」

 ルルナが、わざとらしいまでに驚いた表情を浮かべる。

「……みたいなって何だ」

 ハズィランも口が悪いが、ルルナだって負けていない。

「俺がこういう魔物や魔性がいるって口で説明しても、見たことのない奴にはよくわからないだろ。初めて俺に会った時のお前みたいに、呆けた(ツラ)して授業を受けられたんじゃ、こっちもやる気が失せるからな」

「呆けたって、何よっ」

 手近にあった本を棚から取り出し、ハズィランに投げつけようとしたところを、ココナが後ろからその本を取り上げて棚へ戻す。

「本は飛び道具じゃないのよ。それと、声が大きいわ」

「う……だってぇ」

 確かに、ハズィランに会った時、二人は初めて本物の魔性というものを見た。

 授業で召喚魔法を習った時、妖精や弱い魔物を呼び出したことはあるが、魔力のレベルが高く、まして千年以上も生きている魔性を見るのは、ハズィランが最初だったのだ。

 その時のことを言われれば、びっくりして「呆けた顔」になっていたかも知れないが、そういう言い方をされると腹が立つ。

「図書室まで来て、口ゲンカしないの。聞くことがあったんでしょ」

「あ、そうだった」

 ココナに言われて思い出す。もう少しで本来の目的を忘れてしまうところだった。

「あのね、忘れ物を見付けたの。誰の持ち物か、ハズは見たことないかなって」

「忘れ物?」

「うん。さっき、南棟の実技教室を掃除してた時にね。誰か心当たりがないかを聞いてから、事務局へ届けようと思って」

 言いながら、ルルナはポケットに入れていた鏡を取り出した。

 その途端、図書室の窓は全部閉まっているはずなのに風が流れ、ルルナとココナの前髪をふわりと揺らす。

「お前……何……持って……」

「え? ハズ……?」

 持っていた本を床に落とし、ハズィランの膝が折れた。棚に手を伸ばすがその手に力が全く入らず、自分の身体が床に崩れていくのを止められない。手はただ、本の背をなでるだけ。

「ど、どうしたの、ハズ!」

 持っていた鏡も放り出し、ルルナはハズィランを支えようとした。床に落ちた鏡が重い物でも落ちたかのような、ずしっという音をさせたことに誰も気付かない。気にとめる余裕がなかった。

 手を出したものの、ルルナの腕力で長身のハズィランの身体を支えることは無理だ。

「ハズってば……」

 結局、ハズィランに半ば押し倒されるようにして、ルルナもその場に座り込んでしまった。

 支えようとするルルナに寄りかかったまま、ハズィランは動かない。その腕に力はなく、まるで糸の切れた操り人形のようにだらんとしている。

 ルルナの肩には、彼の頭。彼がこんな場所でこんな悪ふざけをするはずがなく、実際にハズィランは目を閉じて苦しげな表情をしていた。

「ハズィラン? 私の声が聞こえる? わかる?」

「……ん……」

 ココナに声をかけられ、かすかな声でハズィランはどうにか返事する。

 だが、どこまで意識があるのかは怪しい。返事ではなく、苦しくて出たうめき声だったのでは、とも思えた。

「ど、どうしよう、ココナ」

 何が起きたのだろう。今の今まで、ハズィランは普通に話をしていたのに。まるで魔女キッカの城から戻って来た時の再現みたいだ。

 いきなり崩れ落ちたハズィランに、ルルナが泣きそうな顔でココナを見る。見られたココナだって、事情がさっぱりわからない。

「とにかく、誰か呼んで来るわ。状況がわからないから、ルルナはそのままでいて」

 ココナは立ち上がると、助けを呼びに行くべく走り出した。

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