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第23話 魔王軍<馬鹿>のグンガルガ。


 今日は早々に朝食を済ませて作戦会議をしている。

 朝方から(かす)かに壁を攻撃している音が聞こえてきて、着実に音が大きくなっている。確かに魔王軍がいるのだ。


「昨日40階層を制圧して、俺達がフロアボスとして迎え撃とうって話になったけど、今のここもそうしよう」

 

 みんなにも確実に音が聞こえているので、みんな真剣に頷く。



「では、どうするのじゃ?」

「そうだな、まず蓋を開放するだろ? そうしたら俺は1人で下の38階層の奥に飛んで行って、スロープに蓋をする」

「たしか……24階層じゃったかの? あれをやるつもりか!」

「そう! 《ロックウォール》で蓋をして《インダクション》で37階層に誘導をかける。名付けて……」


「「「一網打尽作戦!」」――じゃな!」


「スロープを出て来た所を狙うと、狩りやすいけど時間がかかるし、誘導が解けると逃げられてしまう。だから――」

 

 スッと37階層の入り口方向を示す。


「あっちに潜んで、下にいる魔王軍が粗方入ってきたところで一網打尽だ」


 敵の正確な数が把握できれば尚良かったが、俺の《ディテクトマジック》の探索範囲がそこまで広くなっていない。


「ユウトよ、お主は下の魔王軍の殿(しんがり)を攻めるのか?」

「そうだ、粗方上がってきたところでもう一度蓋をして、閉じ込めてから本格参戦だ。変更があれば《テレパシー》で報せる」


 テレパシーも届くか心配だが、まあ大丈夫だろう。


「もし、数が多いとか、アニカとアニタが手こずるようなら、ミケがやってしまってもいいぞ」

「ああ、解っておる」


 

 

 37階層入り口の上の壁に《ロックドーム》を作り、大半を壊してさながらツバメの巣の様な形にして、そこに3人を潜ませる。


「よし! じゃあ行って来る。みんなも頼むぞ!」

「ここは任せるのじゃ」

「お気をつけて、ユウトさん」

「いってらっしゃ~い!」




 《フライ》も慣れたもので、制動は安定し、スピードも出せるようになった。

 岩壁は、魔法を消す《デリートマジック》がまだ使えないので物理で壊すしかない。

 向こうからも壊しているので、こちらはある程度を壊したら様子を見る。



 しばらくすると、ガラガラと音を立てて開通した。

 勢いをつけて通り抜けようとしたら、向こうから角持ちの青髪野郎がたった一人で瓦礫の山を飛び跳ねながらやってきて、危うく衝突しそうになった。


「オラオラァー! お前らしっかりついて来い! 遅れたら罰だぞ~~! ヒャッホ~!」


 そいつは自分の足元に夢中で俺に気付きもしなかった。


「何だ? アイツ馬鹿なのか? 俺にその気があれば死んでたぞ?」



 目に付いたコンドル共やホーク共を斬り倒しつつ、38階層奥へ向かう。


「おいおい、かなりいるぞ」


 眼下の荒野には1,000ではきかない位の軍勢がいた。


 

 38階層出口に蓋をして、地上の軍勢に《インダクション》をかけて、37階層へ向かうように誘導する。

 途中で、魔法にかかった奴らに向けてモールが攻撃したり、ワームが捕食するという光景が目に付いた。


「魔王軍には手を出さないはずだよな……。――! 待てよ?」


 モールやワームは俺達の魔力を捉えて攻撃してくる……ってことは、俺の魔法の魔力を感じ取っているのか……


「良い事を思いついた!」



 《インダクション》を前に飛ばしつつ、すでに誘導されている魔王軍には《ファイアボール》を適当に放つ。

 当たっても当たらなくても地中のモンスターは、そこに敵である俺の魔力を認識し、襲いかかってくる。

 魔王軍には俺の誘導が最優先で掛かっているので、成す術なく襲われるってことだ。


「これでそれなりに数を減らせるだろう」



 38階層にいる魔王軍には粗方誘導を掛けた。

 こいつ等は大きな波となって37階層へと進むので、誘導をかけていない連中もこの波には逆らえまい。


「よし、一度あいつらの所へ戻るか」



******グンガルガ



「ハァハァハァ……グンガルガ様ー、お待ちをー!」


 遥か後ろからノロマ共が叫んでいやがる。


「誰が待ってやるかっつーの! 俺様よりノロくて弱っちい存在が指図するな!」


 おっ、上への“入り口”が見えてきやがったぞ! ……また塞がってやがる! ここら辺からは全部塞がっているもんなんだろうな。


「面倒くせぇダンジョンだなぁ! 俺様の一撃で砕けやがれ!」


 俺の全身を纏っている魔力を拳に集め、一撃で砕いてやる!!


 ピカッ! ドーーーン!! ビリビリビリッ!


「ぎやぁぁぁぁあやあやあやああああああ!」


 な、何だ? 上が光ったと思ったらこの衝撃!

 ……ダメージがデカイし、痺れて動けねぇ。目もチカチカしやがる。

 

 ――ん? ……上から影が2つ落ちてくる? ……ヒトか?


「にとーりゅううううれんげきー!」


 シュパシュパシュパシュパシュパ――――


「ぐうぇぁぇぁぇぁあ~!」



「燕返し!」


 グハァ!


 効いた、効き過ぎだぜ、こりゃ。なんなんだこの攻撃力は……あ、兄者すまねぇ、こんな所で、何に、やられたのか、も分から、ずに死、ぬなん、て……



「ぐ、グンガルガ様ーー……(ピシャーン!)ギャーー! ……」



******ユウト



 俺が戻ると、もう掃討戦が始まっていた。

 ミケが“巣の上”に陣取り、雷を飛ばしている。


「おう、ユウトよ。何しに来た? お主にも当てる所じゃったぞ。念話はどうした?」

「いや、案外しっかり誘導が掛かったから、一旦来てみた。数が多いぞ……2000近いんじゃないかな?」

「ほう、まだまだ来るという事か」


「下の連中はモールやワームにも襲わせたから5~600は減ると思うけどな。……でもなんで始まってるんだ?」

「ふむ、馬鹿が一匹突っ込んで来おってな……仕方なくじゃ。ほれ、あそこに転がっておるが、ちょっと強めに雷を撃ったが死ななんだ」


 “馬鹿”で薄々そうじゃないかと思ったが、あの馬鹿か。


「それにしてもじゃ、こ奴ら元気、覇気が無い。疲れ切っておるようじゃ」

「ああ、恐らく“あの馬鹿”が率いていたんだろう。何も考えずに強行軍を決行したんだろうな」

「まあ、こちらとしては余計やり易くなったのじゃがの」



 俺はもう一度最後尾まで戻り、地中のモンスター共を煽って魔王軍を襲わせて、37階層に蓋をしてから戦闘に加わる。

 アニカとアニタを適度に休憩させつつ、2人が手こずりそうな魔人族やオーガを狩って間引きしていった。


 2人も疲労の色が出ていたが、泣き言を言わずに狩り続ける。

 こうやって第二回一網打尽作戦は一時間程で終了した。


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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