人類の継承者 前編
二人を乗せた時空機の前に正円が現れた。
白い正円だ。
正円の中に正円が現れた。
そして、その正円の中にも正円が現れ、多重丸をつくった。
飛は見たことがあった。
「これは時空の扉だよ」
飛が幻に言った。
「時空の扉?」
幻が訊く。
「時空の扉はタイムスリップできるワームホール、トンネルみたいなものだよ」
多重丸は渦を巻き始めた。
中心から水色の光が差した。
窓が水色一色になった。
避けるように念じた。
時空機が一条の水色の光から離れると、目の前に巨大な時空の扉が開通していた。
時空の扉の中央には黒い宇宙がのぞいていた。
「飛びこむかい?」
「タイムスリップしてみたい!」
二人は時空の扉に飛びこむよう念じた。
二人を乗せた時空機は、時空の扉に近づいていった。
ビューン。
ビュビュビュビュビューン。
時空機の大群が時空の扉から現れては、突進してきた。
スズメバチの猛攻にまさる迫力だった。
「人間が乗っているわ!!」
幻が驚きの声をあげた。
時空機の大群には人間が乗っていたのだ。
エイリアンでもなく、超人間でもない。
人間だ。
時空機は途切れなく突進してくる。
時空の扉の孔が小さくなってきた。
一か八かだ。
「突っ込め!」
飛は声を張り上げて、念じ、時空機を前進させた。
二人を乗せた時空機はスズメバチの大群のようなものに突っこんだ。
時空機の逆流に抗い、突き進む。
時空の扉が閉まりかけた。
二人を乗せた時空機は孔に飛びこんだ。
まさに、針に糸を通すようだった。
飛は再び「生と死を繰り返すような過激な衝撃」が襲うのではないかとビクビクしていた。
しかし、それはピクリとも起こらなかった。
あの時、飛は人間だったから、衝撃を吸収できなかった。
今は超人間だ。
全身が金属で中まで金属が詰まっている状態だ。
だから、魂にダメージはなかったのだろう。
時空機は見慣れた黒い宇宙にやってきていた。
太陽系だ。
遠くに小さく、惑星が見える。
その前には小惑星が無数に点在していた。
隕石と一言でいえば伝わるような、不格好な岩石のかたまりだ。
それが宇宙空間に多量に浮いている。
飛と幻は「かわしながら前へ」と念じた。
「タイムスリップした感動」にひたる隙を与えてくれない。
衝突して、スペースデブリ(宇宙ゴミ)になりたくない気持ちのほうが強かった。
時空機は小惑星の隙間を縫うように、前進していた。
飛と幻はスリルを満喫していた。
アトラクションのような気分だ。
二人は時空の扉で、時を超えていた。
2045年の未来の宇宙に来ていた。
視界が開けた。
小惑星地獄を突破したようだった。
さっき見えていた惑星がすぐそこまで来ていた。
大気が青く光っている。
しかし、地球よりもかなり小さかった。
地球の半径くらいしかなかった。
海まであった。
蒼海だ。
雲までたゆたっている。
遠くには地球が見えていた。
地球の前ということは・・・。
「火星が第二の地球になってる!」
幻が興奮の声をあげた。
飛も心底驚いていた。
火星は赤茶けた大地がどこまでも続いているイメージだった。
火星には「巨大な氷塊」が眠っていた。
これは真実である。
人間はこの氷塊を溶かして、海ができないかと、試行錯誤していた。
ある人間は「地球温暖化」に着目した。
「二酸化炭素を氷塊の中に送りこめば、温室効果により融解するのではないか」
そう考えたのだ。
そして、そう遠くない未来。
火星に海が誕生し、大気を発生させる時がくる。
人類は「第二の地球」を火星に創世するのだ。
この一大プロジェクトは現在進行中だそうだ。
新世界を開拓する時が、まもなくやってくる。
飛は地球に帰還したかった。
けれども、幻は新しい未来の火星をもっと見たかった。
二人は別々の方向に念じた。
飛は地球へと。
幻は火星へと。
時空機は左右に引っ張られるように動いた。
綱引きのようだった。
「火星がどうなっているか、飛君は気にならないわけ?」
幻は怒っていた。
自由の楽園から脱出していた。
怒る自由も、病に苦しむ自由も、痛む自由も。
そして、「死」ぬ自由も復権したのだった。
自由の楽園は人類の文明が進展し続けた未来をイメージしている。
「自由」がいつの間にか「束縛」に変わっている。
そんな未来を皮肉った仮空の設定である。
医療が発展して、さらに発展していく。
その最果てには、「死」をも治療することが出来るようになるのではないか。
このようにして、一切怒らない人間が誕生したり。
痛点を麻痺させる治療が流行したり。
全ての病を治療できる時代になったりしていく。
そうすると、自由の権利がどんどん失われていくのではないか。
自由が奪われ、束縛に苦しむ時代が到来するのではないか。
そう思い、自由の楽園を設定したのである。
結局、飛はゆずった。
火星を旅行してから、地球に帰還しよう。
そう決まった。
二人を乗せた時空機は火星に向かっていった。




