14.修羅道
「ドラフェン王国の国王自らおいでになりました!」
「え? 生きてたの?」
「一応使者を立てておいでですが、いま現在この時、シュタイン城前で、我らが王に面会を求められています」
「え?」
我々が祝宴を堪能していた同時間。ドラフェン王国をさらなる不幸が襲っていた。
自分の脚で帰り着いた兵士の数は2千を切っていたそうな。
暴動が起こる前に、ドラフェン王は夜間外出禁止令を発令。
国を守る兵の剣が国民に向けられた。
さらに、ガイヤベルト王国に北の地域を奪われ、さらに南下する様相を呈している。
もう一つ。
コーブロック王国が北上。炎の勢いでブルク湖まで進出。南部に出っ張った領域を切り取っていく。
さらに北上に備え、軍を再編している最中。
……そういや、そういう事、仕向けたよな。
シュタイン魔王国と西で領土を接するホーエン王国も、国境に兵を集めている情報も上がってきてるし。
そう言った知らせに、魔族共は「ふーん」で済ませる。だれだって「ふーん」だ。私だって「ふーん」だ。
「何しに来たのか理解に苦しむところだが、まあよいわ。こちらから殺しに行く手間が省けたというもの。ビンネブルクよ、謁見の間に引きずってこい!」
「はいっ!」
また、ととととと、と足音を立て、走っていく。今度は一発カウンター。幻の多角形コーナリングか。腕を上げたな。
そんなこんなで、謁見の間へ足を運ぶ。
不快感を隠そうともしない魔族六部衆が揃う前で、ドラフェンの王が、頭を下げて待っていた。
斜め後ろに10に満たない少年と、髭の従者を従えている。寸鉄も帯びてないその姿に、なにやら必死さを感じる。
ここは高飛車に出ておかねばならないな。
「敗北の王という汚れた体で、よくもおめおめと私の前に現れたな。恥を知れ!」
えーと、異世界の破壊王の台詞でこんなのがあったと記憶している。
ちょいと威圧系の魔眼を使いつつ、ドラフェン王を怒鳴りつけた。
ドラフェン王は、頭を絨毯の製造が間に合わなかった石の床に擦りつけた。異世界でも土下座ってあったんだ。
よし、ビビってるビビってる。
「魔王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう、恐悦至極に――」
「魔王でなくて王な。ごちゃごちゃとうるさいぞ! 貴様、なにか順番を間違っておらぬか?」
悲鳴を上げつつ、さらに額を擦りつけている。もはやそこに王であった権威は存在しない。
魔族どもも、邪眼の余波で威圧酔いを始めだした。
「此度の、シュタイン魔王国侵略の件、深くお詫びいたします。全て私の責任! 私の過ちで御座いまする!」
おお、謝ったか。馬鹿ではなさそうだな、この王。
「殺す前に、せめてもの手向け。話だけは聞いてやろう。そこで小さくなっているのはお前の息子だろう? 何しに来た?」
ひいぃ! と汚い悲鳴を上げたあと、唾を飛ばして一気に話し出す。
「我がドラフェンは偉大なるシュタイン魔王国のお情けを頂戴し、その偉大なる領土の一部に加えていただきたくまかりこしました。後ろに控えておりますのは、私めの正妃の子にして長男、次期正当国王のヨアンで御座いまする! この者を魔王陛下のお側に置いていただければ幸いに御座いまする!」
ゴンゴンと頭を打ち付けるドラフェン王。
茶色がかった金髪の少年が、この王の息子か。母親似だったんだ。良かったな、少年。
つーか、面倒くさそうな予感がハンパない。
「魔王じゃなくて、王な。ずいぶんせこい手を使う男よな? 人質か?」
「滅相も御座いません! 魔王陛下はいずれこの世界に覇を唱えるお方。戦ってみて初めて理解いたしました。これよりノイ・シュヴァイン・シュタイン(新しいブタの石)帝国とお名乗り下され!」
くっ! 私は大ダメージを喰らった。
ノイ・シュヴァイン・シュタイン(新しいブタの石)を知っていたか! ……私が広めよと言ったからな。
落ち着け私。この世界の連中はドイツ語なんか知らないはずだ。意味は伝わらない!
落ち着いてみると、私の国にとって、致命的な問題に気づく事ができた。
この恥ずかしい名前。国内は押さえつけられても、国外まで情報統制できない。って事だ。
考えろ私!
よし考えた!
「帝国か……それもよかろう。シュタイン帝国。よい響きである」
謁見の間に集う者達から感嘆の声がこぼれ出た。
国の格付けがアップしそうな空気に、目を輝かせている。
……絶滅の危機から、数日で隣国を吸収し、大国へ至る道が目の前に。
そんな所だろうが、私としては国の改名が一番である。
そんな心の中の暗黒面を知らず、ドラフェンの王は、言葉を紡ぐ。
「我が国は、魔皇帝陛下と馬を揃え、その覇業の一翼を担うことでありましょう。その偉大なる覇王、魔皇帝陛下のお側で、儂の息子に、次期国王に、その偉業並びに政治のあり方、その一端でも学べればと思った次第で御座います!」
「魔皇帝じゃなくて、王な!」
一世一代の大芝居なのだろうが、こちらとしてもそれに乗る理由がある。
威圧の邪眼を引っ込めた。
「私は正直者を好み、虚言を吐く者を嫌う習性をもっている。もっとも、輝かしい未来においても、虚言癖持ちを殺せることに変わりはないがな」
盛大におののいているドラフェンの王。
この手で殺そうが、寿命で死のうが、王国で終わろうが、帝国を名乗ろうが、私にとってさほど差はない。
そして、この人間が、これから話をどの方向へ持って行こうとしているのか。
私はそれを読んでいる。読まれている事をこの人間は感じ取っている。
主導権を渡したままにするつもりは無いのだよ。
ドラフェン王は脂汗にまみれていた。
これは勝率の悪すぎる賭け。少しでも勝率を上げたい。迷っている。
ここは用意してきた嘘をつくべきか、それとも真の要望を吐き出すべきか、ってね。
無音の時間が過ぎる。
1秒。
2秒。
3秒。
さて、殺すか。
「わ、ワシの代で300年続いた国を滅ぼしとうない!」
ぎりぎりで真の言葉が出た。
「愚民共を押さえてくだされ! ガイヤベルトとコーブロックとの戦争に割く兵力がないんじゃ! 助けてくだされ! ドラフェンはシュタイン魔王国を主と崇め、属国となるっ! このとうりじゃぁーっ!」
泣きが入った。
鼻水も入った。
絨毯、敷いてなくて良かった。
全世界による包囲殲滅戦だもんな。
しかし、この男、泣きを入れながらも国としての態勢を維持させて欲しいと言っている。
こいつは懲りないタイプだ。
「キサマ! あのようなことをしでかしておいて、都合が悪くなったら庇護を求めるか?」
ベレシュの目が赤く色づく。髪が勝手にうねり出す。檄おこ状態。
そりゃそうだろう。魔族は、今回の戦争が原因で、私に見限られそうになったのだから。
「今すぐお前を殺し、その勢いでお前の国を蹂躙してくれん!」
うおぅ! ベレシュさんのお背中から蝙蝠の翼が飛び出した。
残りの魔族六部衆(相変わらずいいネーミングだ)も、都合のいい話に怒りの色を表している。
「ドラフェン王国の次は、あなた方シュタイン帝国で御座いますぞ!」
……騒いでいた魔族共が静かになる。
そりゃそうだろう。
そうだよな。
戦争で国力を消耗しきった2国。
今がチャンス。弱い方を刈り取った後で、残りを刈り取る。
領土が増えれば国力が増す。力を付けたら、隣国を刈り取って領土を増やし、また国力を増す。
やらなきゃやられる
私だってそうするよな。
私が何を考えているのか? 魔族共や人間共は気になっているだろう?
教えてやろう……
内政チートがいつになっても始まらねぇって事だよ!
うおおぉーっ!




