13.邪なる戦い(魔族的大団円)
三日の後、戦いの火ぶたが切って落とされた。
火ぶたと言っても、そうそう燃えさかるほどではなかったが。
ドラフェン軍が集結地たるノーマンズ大迷宮より、1日の距離に旧ライエン城、現シュタイン城が位置する。
この距離は、前国王による負の遺産だ。
意気込んで進軍するドラフェン軍だが、その歩みは意外な物で邪魔されることとなる。
進行方向に、粘着質の糸が無造作に張られていたのだ。
蜘蛛の糸は火に弱い。それを知らぬドラフェン王ではないのだが、4万の大部隊だ。下手に引火して大火事。そして自滅、の流れは避けたい。
迂回に迂回を重ね、さほど進まぬうちに野営の時間となった。
恐れていた夜襲もなく、夜が明けたのは僥倖。
軍の半数以上が精気を吸われ、体力と気力を大幅に下げていた。
人知れず、夢魔の攻撃を受けていたのだ。
快楽を伴わない攻撃は、タチが悪い。
そして知ることになる魔族の恐怖。
正面から戦えば、臆することもない人間の戦士達も、特殊能力戦には弱い。
半数の2万で進むか、1日を体力の回復日に当てるか。首脳部は悩んだが、弱みを見せるわけにいかず、残りで進軍することとなった。
いかにも4万の軍勢を維持しているとのフェイクを装いつつ、進軍。
迷路のように張り巡らされた蜘蛛の糸を処理しつつ、夕方には、シュタイン城を肉眼で捕らえられる地点まで到達。
翌朝、日の出と共に攻撃を開始する旨、全軍に通達。
夜に入ると、見張りを大量に増員。
篝火を増設し、火を絶やさず、昼間のように明々と陣を照らした。
その明かりを目標として、上空より漆黒のガーゴイルが攻撃を開始した。
闇の中からぬっと現れ、一撃を与えて飛び去るガーゴイル。陣は大混乱に陥った。
続く不幸は吸血鬼による被害。吸血鬼により二次吸血鬼となったドラフェンの兵士が、味方兵士を襲うという惨劇。
散々に陣が乱されたまま、夜が白み始める。
目の前には整列した重力級リザードマンと獣人化した人狼の部隊。
その先頭には、巨大な戦斧を振り回す黒き巨体、ミノタウロス。
魔物の突撃に、ドラフェン軍の一角が吹き飛ぶ。
たちまちの内に瓦解するドラフェン軍。
そして、だめ押しに、城門の前に出現する、元の大きさの私。
統率も取れず、下級兵士より敗走を開始。
いや、魔族が逃げてきたら殺して寄るつもりで顔を出しただけで、戦争に手を出すつもりは無い。
魔族による攻撃よりも、味方に踏み殺された数の方が多い結果を残し、この戦いは終了。
シュタイン魔王国の勝利に終わる。
そして……。
戦後のゴタゴタも片付けた。
これだけで5日が過ぎた。戦争の後片付けって時間がかかる。
……主に蜘蛛の巣除去だったけど。
さて――、
私の国と西で領土を接するホーエン王国も、国境に兵を集めているという情報も上がってきた。
図に乗りだしたホーエンをぼちぼちシメなきゃならない。
しかし、その前に日を選んでやることがある。
それが今日。
「終わってみれば楽勝だったな。私も可愛い部下を殺さずに済んだわけだ。まずは目出度い」
シュタイン城謁見の間で祝宴を開いていた。
魔族六部衆、並びに主だった魔族の現場リーダー達が、所狭しと並んでいる。
何故か六部衆の強い推薦があって、女騎士エリザーベトと彼女が敬愛するアマンダ元王妃、並びにブリュンヒルデ元王女も、出席させた。
魔族の要人達のグラスに酒を注ぐホステス役だ。
綺麗なドレスを着せているので、華やぐことこの上ない。
なんにしろ、賑やかなのは好むところ。ウエルカムである。
「みな、よくやった。頼もしかったぞ!」
褒めてやったら、みんな恐縮していた。
「ぶもっ!」
私の左で立つミノタウロスが、自分も褒めて、と鼻息声で喋ってきた。
「おお、ミノタウロスの……長いから略してミノタウロ君もよくやった」
「略してねぇし!」
ヴァルディックより、わきまえのない突っ込みが入る。
「ステーキ食うか」
「ぶもーっ!」
「共食いはやめてあげて」
こいつの脊椎反射は、いつか身を滅ぼすと思う。
「まずは乾杯といこう。諸君らの勝利に乾杯!」
「乾杯!」
王である、私がグラス半分くらいを一気にあおる。
続いて魔族共がそれぞれ、お気に入りの液体が入った器を空ける。
ミノタウロ君は飲めないのか?
……バンパイアの赤ワインが、なんとも生々しい。
あ、ちなみに、私は飲めるぞ。飲み食いしなくてもいい体を持っているだけで、飲み食いが出来ないんじゃない。
ただちょっと、味覚が鈍くなっている気は認めよう。
「……毒、入ってるよね?」
舌先に、こう、ピリリと感じるこれは、アルカロイド系だな。
ちらりとブリュンヒルデを見る。なんか青い顔をして震えている。
「確かに毒ですな」
ベレシュが唇をなめながら、グラスの透過光を目に映している。
「舌が痺れるぜ」
ヴァルディックが長くて赤い舌を出してレロレロさせている。
「出所はトリカブトでしょうか?」
口の中で転がすアーラス老。
「なかなかの高濃度ですわね」
ミラベルは香りを嗅ぐタイプか。
アーラスはジョッキ飲みか。
「アマンダとブリュンヒルデが一生懸命入れていた」
ビンネブルクがアマンダとブリュンヒルデの後ろに立っていた。
王女と王妃のコンビは、真っ青な顔に汗をだらだらと流している。
くわわっ! 私は口を大きく空けた。
「毒で腹をこわすような魔族はいないだろ? がはははは!」
「対毒性スキルをカンストしてない者はここに居りませんて!」
大爆笑。
「よしよし、今夜は無礼講だ。誰が先に毒でぶっ倒れるか、勝負しよう! 王妃と王女は罰ゲームとしてエッチィなドレス着用な。ビンネブルクよ、今こそその力を我に示せ!」
さっそく採寸を始めるビンネブルク。初めて見る真剣な眼差し。
こうして、魔物共の陽気な宴会が始まった。
次は内政チートだ。
現代知識を生かして、農業生産改革に乗りだそう。
山の木を切り倒して作った段々畑にトウモロコシを沢山植えるぞ!
米を密集して植える取れ高倍増計画!
害獣である雀を絶滅して生産性アップ!
よし!
いける!
私にとって、家族は魔狼一族だけだ。
でも、いつの間にか、こいつらも仲間認定していたみたいだ。
流され感ハンパないが、これもまた一つの人生だ。
よろしく行こう!
魔なる者のミレニアムは今宵よりスタートしたのであった。
とととと。軽い足音と共に、ビンネブルクが脚を8本ともドリフトさせつつ、駆け込んできた。見事な8脚ドリフトである。
「我らが王よ! 王に面会を求めておられるお方が、門の前に!」
「誰、それ?」
「お耳を」
ビンネブルクは、小声で囁いた。
……。
「え?」




