表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

捕まえた!

「………で、なんでこんな状態になっているんでしょうね?」

「捕まえた!」

「私が追いかけていたんですがね?」

アニータは、芝生に倒れ込んだリアム様の背中に乗って、腕をひねりあげている。

ちょっと息が切れているが、近衛騎士団長を押さえつけたのだ!上出来だ!

「こうなったら最終手段よ!既成事実を作ればいいんだわ!」

そう。

どうしてもリアム様がいいと言う私に兄たちが教えてくれた奥義。既成事実。

「はっ?アニータ嬢!?」

「おとなしくして!男性は痛くないって兄様が言っていたから!」

「何を教えているんだ、あの馬鹿どもは!」

ええと、まずはズボンを脱がすのだっけ?

私がスカートをまくりあげるのが先だったかしら?

ああ、違う違う。それは最後でまずは……

「キスマークね!」

リアム様の腕を押さえつけたまま、目をむく彼の耳の下に口づけてみる。

ちゅ、ちゅ…ちゅ。

「……つかない。お化粧をもう少し濃くしてくるべきだった?」

「それは違う……」

疲れたように呟く彼の言葉はとりあえず無視をして、もうズボンを脱がす方に行ってしまおうと思う。

今、口紅持っていないし。

片手で腕を押さえたままズボンに手をかけると、「よっ」という軽い声と共に、リアム様が起き上がった。

「ふえ?」

あっという間に、アニータは芝生の上に座って、リアム様は正面に胡坐をかいて座っていた。

開いた口が塞がらない。

あまりに簡単で、軽く拘束を逃れられてしまった。

最初からアニータはただリアム様をこかすことができただけだったのだ。


馬鹿にされていた!


それに気がついて、涙をこらえながら睨み付けると、困ったように首を撫でながら、リアム様が言った。

「アニータ嬢、あなたは兄が好きだったはずだろう?」

悪気のなさそうな顔に、涙が堪えられずに、涙腺が決壊する。

「兄に押し付けようったって無駄ですからね!私、ライアン殿下に嫌われるために、一番嫌いなタイプの女性を演じきったんですからっ!彼の中で私は最低最悪の女性ですからね!」

アニータの泣きっぷりに驚いているリアム様に、今がチャンスとばかりにとびかかって押し倒した。

「私の調査は完璧です。私はリアム様を手に入れたのです!」

もう一度、首筋にキスをしてみる。

やっぱりキスマークはつかない。

この状態でズボンを脱がしにかかっても、きっと無理だろう。

だったら……他に打てる手は持っていなかった。


呆然と見上げてくる瞳に、自分がどんな顔で映っているかなんて考えたくない。

「もうあきらめてっ…ひくっ結婚してくださああぁい」

うわあああぁぁん。

小さな子みたいに、リアム様の首に縋り付いて泣いた。

「嫌いになっちゃやだあぁ」


泣いている間に、また抱き上げられていた。

リアム様の首筋に顔をうずめたまま、泣き止んでみたけれど、顔をあげられない。

色々な液体が顔を濡らしてぐっちゃぐちゃだ。

「アニータ?泣き止んだ?」

「今から逃げるので、次は追って来ないでください」

「いきなりなんだっ?―――じゃあ、離さないことにしよう」

くすくすと笑い声がした。

本気で逃がさないようにしているようで、この腕からすんなり逃げられる気がしない。

「いろいろ、服で拭きますよっ?離してください」

乙女のプライドを一部分捨てて自己申告してみた。

見られるよりは幾分かましなはず。

さっき大泣きしている顔を見られてはいるが、それとこれとは別だ。

「ああ、なるほど。……どうぞ?」

背中から回ってきた腕が、スカーフを握っていた。

「……高そうです」

「洗えばいいんじゃないか?」

「……返しませんよ?」

「ふっ、どうぞ?」

では、お言葉に甘えまして。

やった。リアム様のスカーフを手に入れてしまった。

使うのがもったいない。……なんて、乙女心を出せる状態ではないことは一応理解してる。

一生懸命ふきふきしていると、すりっと頬ずりされてしまった。

「……リアム様?」

「うん?」

「そんなことをしたら、襲います」

ぶはっと盛大にリアム様が噴き出した。

「それは困るな。結婚前の令嬢を傷ものにしては、信用にかかわる」

心底面白そうなリアム様を、顔を拭き終わったアニータは睨んだ。

「傷になんかなりません」

そういうアニータの頬を優しく撫でながら、リアム様は言った。


「アニータ、私はあなたが好きだよ」


「………ふへ?」

思ってもみないことを言われて、変な声が出た。

驚くアニータの顔を見て、リアム様は呆れたようにため息を吐いた。

「元々、私はあなたが好きだった。だから、兄に願い出て、私があなたと結婚することになっていた」

「は?」

「まあ、周りの思惑は知らないが。ところが、あなたに結婚を申し込もうと思ったら、アニータは兄を一生懸命誘惑しているじゃないか」

「へ?」

「しかも、マンフィニットの屋敷で見るアニータとはずいぶん違う姿で。ああ、あんなに頑張るほど兄のことが好きなんだなと思ったよ」

「えええ!?」

元から結婚相手はリアム様?

聞いてない!聞いてないどころか、逆だった。

「なのに、頑張りが行き過ぎて、兄に嫌われてしまって可愛そうだと思っていたんだけど」

「ふにゃあ」

両頬をつままれて、情けない声が出た。

「そんな、明後日の方向に頑張っているとは知らなかったよ」

情けなさに、またにじんできた涙を舐めとられた。


「アニータ」

こつんと、おでこをぶつけて顔を覗き込まれた。

「私と結婚して欲しい」

見上げると、アニータを愛おしそうに見るリアム様がいた。

アニータは、震えそうになる声を、必死で押さえつけて、大きく返事をした。


「はい!」


「キスマークの付け方は、また今度教えてあげよう」

「口紅使いますか?」

「……使わない」



「お父様、アニータが、どうやら妙な暴走をしているようですね」

「兄さん、だけど待ってください。アニータには一度しっかりと分からせる必要があるのでは?」

「そうだな。弟の言う通りだと私も思います。いつまでも自分の行動に責任を持てないようでは困りまから」

「ええ。侯爵家に泥を塗る真似であっても、アニータが成長できるなら、いいではないですか」

「そうだなこのまま、何をするつもりなのかを…ぶふっ、いや、失礼しました。…ぶぶっ、おもしろくなりそう…いえ、なんでも。もうしばらく様子を見ましょう」

「ぶはっ。兄さん、オレ、すげえ我慢してんのに!」

「無理無理!無理だって!アニータの顔思い出せよ!」

「ぶはははははははは!」

「………お前たち………」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ