第21話 メイズの攻略法
「あと1分くらいか?もうほとんど水見えないな。」
コウちゃんが上からメイズを見てそう言った。他のみんなも同じようにメイズを眺めている。メイズの部屋に入り廊下を抜けた先、迷路の入り口に続く階段の手前に僕たちは立っていた。
「水に濡れる覚悟があったとしても、時間にならないとスタートできなかったんだね。」
僕は階段の下を見ながらつぶやいた。
「キュウちゃ~ん、ずるはいけませんよ~。ちゃ~んと時間になるまで待ちましょうね~。」
ユウちゃんが幼稚園の先生みたいな言い方で僕にそう言った。「は~い。」と明るく答えるとみんなは笑った。
メイズに溢れていた水は迷路の入り口にある排水溝へ流れている。迷路自体に傾斜があるからか迷路の壁が1センチくらい浮いているのかはわからない。ただその排水溝の水がある限り迷路の入り口のドアが開かないようになっていた。ケンちゃんに聞くと、たぶん水圧がドアにかかっているからだと説明してくれた。
「とりあえず開いたらケンが説明した攻略法をやってみよう。ケンのこの方法ならクリアできるはずだ。」
コウちゃんのその言葉に全員がうなずいた。確かにこの方法がこの迷路を抜ける一番の方法だと思う。
「そうだね~。見事な攻略法だね~。さすがケンちゃん。」
「その言葉はクリアしてからでいいよ。ユウちゃん。でも、絶対いけるはずだから。そうだろ?キュウ?」
ケンちゃんにそう言われ僕もうなずいた。僕の考えていた方法もこれだったから。
今から少し前、みんなでこの場所に立ったとき、ケンちゃんはみんなに説明した。迷路の攻略法、「左手法」について。
「みんな。説明するよ。といってもすごく簡単なことなんだけど。」
「ああ、迷路の攻略法のことか。あたしにも理解できるのか?」
「これが理解できなかったら幼稚園からやり直してもらうよ。」
「まじで?それは困るな。」
ケンちゃんとセイちゃんの漫才のような会話は変わらない。でも僕の目にはさっきまでとは違うように見えてしまう。
「左手法、または右手法はその名前の通りで片手で迷路の壁をさわりながら進む方法なんだ。」
「それだけ?本当にそれだけなのか?」
セイちゃんが驚いている。
「だから『できなかったら幼稚園に』って言っただろ?セイでもできる。そして確実にクリアできるはずだよ。」
「何でだ?何でクリアできるんだ?」
セイちゃんが興奮しながら聞いた。ケンちゃんは苦笑いで僕を見た。僕はうなずく。
「セイちゃん。これを見て。」
僕はメイちゃんにノートを借りてやや大きめに簡単な迷路を描いた。
「まず、これを解いてみて。」
「なんだよ。こんなの簡単だろ?」
セイちゃんは指で迷路をなぞる。
「こっちに行くと行き止まりだからこっちで…。こう行って、こっち行って~、クリアだ。」
さすがにあっさりクリアした。
「うん。じゃあ次はこれでやってみて。」
僕はメイちゃんに頼んでノートを一枚破かせてもらい、それを筒状にしてからセイちゃんに渡した。
「これを覗きながらやって。もう片方の目は瞑ってね。」
「わかった。」
セイちゃんは僕の言ったとおりにやり始めた。
「あっ、なるほど。これはなかなか。全面が見えてないとけっこう難しいんだな。迷路って。」
僕の狙いどおりセイちゃんは少し苦戦している。セイちゃんが言ったように紙に描いた迷路は上からある程度の範囲が見える。だから行き止まりがある方には行かない。でも見える範囲を狭くするとその先が行き止まりかどうかがわからない。行き止まりから戻ると、今度はどこから来たかがわかりにくくなる。だから苦戦する。
「セイちゃん、一度スタートに戻ってから右か左のどちらか好きな方の線に沿って進んでみて。」
「わかった。じゃあ右で。こっちに行って、行き止まりだから戻ってきて。おい、キュウ!これ、たどり着けるのか?」
「セイちゃんが間違えなければゴールに着くよ。絶対にね。」
セイちゃんはぶつぶつ言いながらも進めた。
「ああ、何か酔ってきた。ん?お~。着いた。ゴールできた。」
セイちゃんが顔をあげて僕を見た。
「うん。これが右手法または左手法。時間がかかるけど確実にゴールに着けるはずなんだ。だよね?ケンちゃん。」
「ああ。できるはずだ。しかしキュウは説明っていうか例題を出すのがうまいな。僕はセイを納得させる自信がなかったから。」
ケンちゃんが笑いながらそう言った。
「あ、この方法はメイちゃんだよ。こうすると紙に描いた迷路でも難しいって教えてくれたから。」
「すごいな。メイは。僕には考え付かなかったよ。」
ケンちゃんにそう言われてメイちゃんが照れたように笑った。
「よし。じゃあ時間になったらこの方法で。」
「コウちゃん。ちょっと待って。」
コウちゃんの言葉をケンちゃんが遮った。
「どうせなら右と左に分かれた方がいいと思う。そうすればどちらのルートが早いかわかるはずだから。」
「なるほど。」
ケンちゃんの提案にコウちゃんがうなずく。
「あと右も左もなるべく同じくらいのペースにした方がいい。だからコウちゃんとセイは分かれた方がいいね。」
「うん。そうだね~。この二人は別格だからね~。」
ユウちゃんがうなずいてからそう言った。
「そうか。じゃあメンバーは俺とユウとケン、セイとメイとキュウでいいな。」
「うん。それでいいと思う。」
コウちゃんの意見にケンちゃんがうなずいた。
「よし。じゃあこれでいこう。」
他のみんなもうなずく。方針が決まった。
迷路に入り口の水が見えなくなり、廊下から出たところのタイマーが10分と表示された。
「よし。いくか。」
階段に座っていたコウちゃんが立ち上がった。
「うん。いこ~!」
横にいたユウちゃんも立ち上がる。ケンちゃんはすでに入り口の前に立っている。
「メイ、キュウ。何してんだ?あたしたちも行こう。」
セイちゃんは僕たちを呼んだ。
「メイちゃん。セイちゃんが行こうって。みんな集まってるよ?」
メイちゃんは僕の声を聞いてようやく立ち上がった。すごく集中してノートに大きな四角を描いていた。正方形に見えるけど少しだけ横が長いようにも見える。僕にはそれが何なのか全くわからない。僕たちが階段を下りてみんなと合流するとケンちゃんが言った。
「たぶんクリアできるはずだけど、もしものためにこれだけは決めておこうと思う。」
みんながケンちゃんを見た。
「タイマーは僕たちが入ってきたドアの上にあるから迷路の中からでも見えると思う。だからもしタイマーが残り3分を切ってもゴールにたどり着けなかったら走ってスタート地点を目指すこと。そうすればたぶん戻ってこれるから。」
「わかった。3分を切ったらダッシュだな。」
セイちゃんが答えた。ケンちゃんはセイちゃんを見て、それから僕を見て言った。
「たぶんセイは忘れるから、キュウとメイは時計を気にしてて。」
「おい!何でだ?あたしはちゃんと見るぞ!」
そう言われて、ケンちゃんはセイちゃんを見た。
「セイ、きみが注意するべきことは、後ろを気にして進むことと手を壁からはなさないことだよ。」
「わかってるよ。そんなことは。」
「じゃあ頼んだよ。」
ケンちゃんはそう言ってコウちゃんの後ろに立った。
「よし。じゃあ入るぞ、みんな。」
コウちゃんがドアを開ける。するとタイマーが動き始めた。
「俺たちは左手で進む。セイ、そっちは任せたぞ。」
「おう。任せろ!」
そしてコウちゃんは左手を壁につけて進み始めた。
「じゃあ、あとでね~。気を付けてね~。」
ユウちゃんがこっちを見て手をふってからコウちゃんに続く。
「キュウ、セイの手とタイマーに気を付けてくれ。」
ケンちゃんも僕にそう言ってから歩いていった。
「あたしには何もなしか?まったく。大きなお世話だ。よし。こっちも行くぞ!」
僕とメイちゃんがうなずいた。
クリアできるはず。でもそんな単純かな?
僕は少し不安を感じながら歩き出した。




