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アメイズ  作者: D-magician
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第107話 過大な才能。

「あかりちゃん。絵見せて。」


「はい。あきちゃんのも見せてよ。」


「うん。いいよ。」


 5年生になった私には大切な友達ができた。アキラちゃんは絵が大好き。私が得意な風景はもちろん、私が苦手な漫画のようなキャラクターの絵も上手に描ける。友達になったきっかけもあきちゃんが作ってくれた。私のコンクールに入賞した絵に感動したみたい。私とあきちゃんは時間があれば絵を描いてはお互いに見せあった。私はあきちゃんの絵が好きだった。一言で言えばやさしい絵だったから。



「あかりちゃんはすごいね。どんな風景でもきれいに描けて。」


「私はあきちゃんの絵がすごいと思うよ。何て言うか、絵に心があるみたいで。」


 あきちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。私はその笑顔が嬉しかった。あるとき私は私について話した。才能のことやそれで戸惑うことがあることを。あきちゃんは私の話を真剣に聞いてくれた。


「そうだったんだ。あかりちゃんは昔からすごかったんだね。」


「うん。だから教えてって言われても教えられなくて…。みんなが嫌な顔になるからそれが怖くて…。」


 するとあきちゃんの手が私の手をぎゅっと握った。


「私は大丈夫だよ。」


 あきちゃんはやさしい笑顔で私を見た。


「私はあかりちゃんの絵が才能でよかったって思う。もしそれがすごい努力の賜物だったら私の努力が足りなかったことになっちゃうから。私すごい努力してきたつもりだから。」


 私は驚いてまだ声を出せずにいた。


「あかりちゃんのが才能なら追い付けなくても仕方ないって諦められる。それだけあかりちゃんの絵はすごいよ。だからあかりちゃんはこれからも描きたい絵を描いてほしい。」


 私の目から涙がこぼれた。あきちゃんはハンカチでそれを拭いてくれた。うれしかった。初めて『そのままでいいんだよ。』と言ってもらえた気がした。


 あきちゃんと私は仲良く遊んだ。お互いの似顔絵を描きあったり、同じものを同時に描いて比べたりした。お互いの家に遊びに行ったりもした。二人で買い物に行ったりもした。楽しい日々が続いた。いつまでも続いてほしいと思った。本当に心からそう思っていた…。




「星さん。あとで職員室に来てね。」


 夏休みが終わって二学期が始まってすぐに私は先生に呼ばれた。何となく予想はしていた。夏休み前に好きな風景を描く宿題があった。あきちゃんと一緒に描いたこともあって今までにないほど真剣に描いたしこれ以上ないほど完璧に描けた。私の絵を何枚も見てきたあきちゃんが絶賛するほどだから、コンクールに入選してもおかしくはないと思っていた。あきちゃんを見ると笑顔でうなずいていた。私は手を振って職員室に向かった。

 しかしそこにあったのは私の想像を遥かに超えた現実だった…。


「星さん、お母さんの隣に座って。」


 職員室に入ると応接スペースの椅子にお母さんが座っていた。私は頭が真っ白の状態で隣に座った。


「お母さん、どうしたの?」


 小声で聞くとお母さんは笑顔で机を指差した。私が視線を落とすとそこには聞いたこともない学校のパンフレットが置かれていた。


「電話でも説明させていただきましたが、あかりさんに美術の名門私立中学校からの推薦の話が来ています。」


 え?推薦…?


 驚く私を見てから先生は説明を続けた。その学校は美術大学の附属なのでそのまま美術大学へ進学できることや美術についての幅広い知識や技術を学べること。何より特待生扱いになるため学費等が免除されること。たぶん夢のような待遇だと思われる。私以外の人なら…。


「以上が今の時点で決まっている内容です。」


 先生の説明が終わった。でも私の頭の中はまだ真っ白だった。


 評価されていることは嬉しい。絵を描きたい気持ちもある。でもそれは他の人たちのやる気とは違う。みんなが真剣に描いている中に私がいるという不安、それ以上に『何で描けるの?』というあの空気の中に自分から入っていく気にはなれない。周りから良く思われていない空気の中で、それを気にせずに絵を描くことができるとは思えない。


「先生、すぐに返事をしなくてもいいんですよね?あかりには音楽の道もありますし。」


 お母さんが私の不安を感じとってくれた。


「もちろんです。推薦の話なので6年の一学期くらいまでに方針を決めていただければ。」


 先生とお母さんはそのまま話を続けていった。私は頭の中がぐちゃぐちゃしたままの状態でうつむきながら時間を流した。



「お母さん。ありがとう。」


 帰り道、私は不安な気持ちを抱えながらも助けてくれたお母さんにそう言った。お母さんはいつもの優しい笑顔で私を見た。


「私とお父さんが結婚するときに決めたの。子供の考えを尊重してやりたくないことは無理矢理させないって。例えそれが音楽でも。だからあかりはあかりの好きなことを好きなようにやればいいのよ。」


 私はその言葉がうれしくて何度もうなずいた。ただ、頭の中の不安が全部消えたわけではなかった。私はその日の残りの時間をずっと悩み続けて終えた。




「あかりちゃん。絵の学校から推薦の話があるって本当?」


 次の日、教室に入って言われた最初の言葉。私は驚いて周囲を見回した。みんなの視線が私に集中している。どこから話が漏れたのか?誰が広めたのか?とにかくみんなが知ってしまったことは確かだった。


「うん。そんな話があるみたい。」


 私の煮えきらない言葉を聞いて何人かの女子が私の回りを囲んだ。


「何で?何が不満なの?」


「絵が評価されたんだよ?しかも推薦なんて普通はもらえないんだよ?」


 私は何も言えなかった。私の気持ちは誰もわからないだろうから。何も言えず黙っていると授業開始のチャイムが鳴った。みんなが席に戻っていく中、私はあきちゃんを見た。あきちゃんは私に優しい笑顔を見せてくれた。それだけが救いだった。




 休み時間に入ってすぐにあきちゃんは私を教室から連れ出してくれた。私の手を引いて廊下を早足で進み、屋上へ続く非常階段に着いたとき私の目からは涙が流れていた。


「あかりちゃん、あまり気にしちゃだめだよ。」


 あきちゃんがハンカチで涙を拭いてくれたけど私の涙は止まらなかった。


「あきちゃん…。ありがとう…。でも、私どうしたらいいか…。」


 あきちゃんは私の頭をなでた。


「あかりちゃんはあかりちゃんのやりたいことをやればいいんだよ。」


 私はあきちゃんを見た。あきちゃんは変わらない笑顔で私を見ていた。その姿は協会のマリア像みたいだった。


「あきちゃんは…?」


 私の声はそこで止まった。それ以上を聞くのが怖かった。あきちゃんはそれを汲み取った上で、今までと同じ穏やかな笑顔で私を見た。


「私も羨ましいよ。私が一番羨ましいと思ってるはずだよ。私だったら頭を下げてでも入りたい中学だから。」


 その言葉に私は激しく動揺した。でもあきちゃんは変わらない笑顔で話を続けた。


「私はあかりちゃんが羨ましい。でもそれ以上にあかりちゃんの絵のすごさを知ってるし、あかりちゃんの才能も認めてるから。だから推薦もあかりちゃんならもらえて当然だと思ってた。」


 あきちゃんの言葉が止まった。真剣な目で私を見ていた。


「私は…、どうしたらいいの…?」


 私は本能であきちゃんに答えを求めていた。あきちゃんはゆっくりと口を動かした。


「あかりちゃんはやりたいようにやるのが一番だよ。だからもし絵を描くのが好きだったらあの学校に行けばいいと思う。でも、もしも『私と一緒になら』とか考えるならやめた方がいいかもしれない。私にはあかりちゃんみたいな才能はないから。」


 このときあきちゃんは初めて悲しそうな顔を見せた。


「あかりちゃんと一緒にいたくないなんて思ってないよ。むしろずっと一緒にいたいと思ってるくらい。ただ、私はあの学校に入れるほどの才能はないし、もし入れてもあかりちゃんのレベルまでたどり着けないかもしれない。そのときあかりちゃんはまた悲しい気持ちになると思うし私も悲しいと思うから。」


「あきちゃん…。」


 私の目から涙がこぼれた。あきちゃんはハンカチでそれを拭いてくれた。


「ごめんね。あかりちゃん。こんな答えしか出せなくて。」


 私は首を横に振った。何度も何度も振った。私のことを、私以上に真剣に考えてくれていたことが本当に嬉しかった。


「あきちゃん。ありがとう。私、考えることから逃げてた。自分の才能からずっと逃げてた。もっとちゃんと考えてみる。私のやりたいこと、目指したいことを。」


 あきちゃんは私の両手をぎゅっと握って何度も何度もうなずいた。

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