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アメイズ  作者: D-magician
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第106話 星の町

「あかりちゃん。すごいね。何でそんなに上手なの?」


 友達によく聞かれたこと。


「わからないけど、できたよ。」


 私がよく答えたこと。私にはわからない。『できない』という感覚がわからない。何でもできてしまうから。


 私は星家の末っ子。お父さんは大学で音楽を教えながら地域のオーケストラで演奏もする。お母さんとはそこで出会ったから当然お母さんも楽器の演奏ができる。その両親を持ったせいかテルお兄ちゃんもヒカリお姉ちゃんも楽器を演奏できる。だからかはわからないけど、私も楽器を演奏できた。しかも家族の中の誰よりも上手に。みんなはそれを『才能』と言ってくれた。それは嬉しかった。純粋に。


 小学校に入学して絵のコンクールに入選した。校庭にある木を題材にした絵で『青空の中で太陽の光を浴びた木のきれいな緑がすばらしい』ということだった。先生に誉められたことは嬉しかった。友達に「きれいな絵だね。」と言ってもらえたことも嬉しかった。でもその後に言われる『何でできるの?』という言葉に私は悩む。私はただ目の前に見えたきれいな景色を、気持ち良さそうに太陽の光を浴びる木を、『見たまま』描いただけだから。『何でできるの?』と聞かれても私にはわからない。『わからないけどできた。』としか答えようがなかった。


 私は昔から『再現できる力』があった。目に見える景色を見た通りに紙に描くことや、耳で聞いた音を聞いた通りに楽器で演奏することができた。それは2歳くらいにはすでに備わっていたみたいだから練習して得られた力ではなく才能と呼ばれるものだとは思う。ただ、私はこの力が好きではなかった。使うには集中しなくてはならないし、集中しすぎると疲れるし。何より『何でできるのか』を説明できないことで、周りの人が不機嫌になるから。『教えられない』を『教えてたくない』と勘違いされ、『教えてくれてもいいでしょ。』と怒る人もいるから。ただ授業は手を抜きたくないしきれいな景色を絵にはしたい。そして描いた絵が入選して結果悩みが尽きないという流れになっていた。




「気にしなくていいんじゃないか?」


 小学3年の夏休み。遊びに行った先の親戚のセイちゃんに相談した。セイちゃんは少し考えるような素振りをしてからさらっとそう言った。


「気に…、しなくていいのかな?」


 あまりにあっさり答えを出したセイちゃんに驚いて私を見て、セイちゃんはニコッと笑った。


「だって気にしたって仕方ないだろ?あたしも体育とか男子とやっても相手にならないけど、気にしないぞ。それに今さらできないふりはできないし、それをやられたら手を抜いてると思われて余計に相手を傷つけるし。何よりあたしが嫌だから。」


 セイちゃんはサッカーボールを蹴りあげて膝や足で器用に操る。その姿はかっこいいし、同学年には真似できない技術もある。きっと私と同じ悩みを乗り越えたはず。


「うん。私も迷わずやりたいことを頑張る。」


「おう。その意気だ。あたしも何だかんだ言っても友達できたし。大丈夫だって。」


 セイちゃんは背中をバシバシと叩いて笑った。セイちゃんのひまわりのような笑顔を見ると大丈夫な気がした。




「メイちゃんのお兄さんってすごいんだね。」


 3年の冬、友達に言われた。お兄ちゃんが中学の吹奏楽部のコンクールで3年連続で個人の優秀賞。団体も2年連続で優勝したという。私自身も家でお兄ちゃんから聞いた。2年連続優勝したことで吹奏楽の名門校に推薦枠ができた。しかも2名分。私の住む地域はお父さんがやっているオーケストラの影響もあって吹奏楽への憧れが強く、中学から吹奏楽を始めたい人も多いみたい。そこに『名門校の推薦枠』の話がきたから吹奏楽を目指したい人たちの盛り上がりはすごかった。


「あかりちゃんも楽器の演奏できるの?」


 そう聞かれた私は少し迷った。でも嘘はつけないしついても意味がないから…。


「うん。家族で演奏することもあるから。」


「そうなんだ…。」


 私の返事を聞いた友達の表情が少し曇ったように見えた。たぶん私ができないことを少し期待していたと思う。友達は他の友達のところへ走っていった。私はどうすればよかったのかというモヤモヤした感情を抱えながら窓の外を見た。雲一つない空なのに、空の青が雲って見えた…。




「あかり。何か変だぞ。何かあったのか?」


 日曜日の朝。私たち家族は合奏をする。その時一番やりたい楽器で、みんなでやりたい曲を選んで。曲が終わって部屋に戻ろうとしたとき、お兄ちゃんが急に私に聞いた。


「え?何もないよ。」


「嘘つけ。お前、音が濁ってたぞ。」


 音が濁る…。お兄ちゃんが使ったのはこの家でしか伝わらないような表現だった。私の家が日曜日に合奏するのも家族の気持ちが音楽を通じて何となくわかるから。家族の鳴らす楽器の音で『気分がいい』とか『悩みがある』とかがすぐわかるから。


「あかり。俺がわかってるんだから家族はみんな気づいてる。俺でよければ相談にのるぞ?」


 お兄ちゃんの優しさが私のモヤモヤした心の扉を開けた。私はうなずいて悩みを打ち明けた。お兄ちゃんは腕を組ながら黙って聞いてくれた。


「そうか…。才能があることが悩みか…。難しいな。」


「うん…。どうしたらいいのかな…。」


 お兄ちゃんは少し考えて、口を開いた。


「とりあえず、俺にはわからないな。俺、才能ないから。ただ一つわかることは、それはたぶん贅沢な悩みだなってことくらいだ。」


「贅沢…なの?」


 私の戸惑った顔を見てお兄ちゃんはいつもよりも優しい顔で言葉を続けた。


「少なくとも俺から見たらな。確かに同じ悩みを同学年の人と共有できないのはつらいだろう。ただそれは俺くらいの年齢になれば普通なんだよ。スポーツができるやつもいるし勉強ができるやつもいるし。しかもスポーツでもやりたいのに才能がないから諦めるやつもいれば、やりたい訳じゃなくても才能があるからやれてしまうやつもいるし。あかりの場合は音楽や絵が好きで、しかも才能があるんだから。」


 私は言葉が出ない。お兄ちゃんの言うことは確かにわかる。でも今の私はどうすればいいのかがわからない。


「あかり。お前の場合は『やらない』って選択肢もあるからな。お父さんも無理にやれとは言わないだろうし。」


「そうだよね…。」


 お父さんもお母さんも『やりたいことをやるのが一番』という方針だから、家族に『音楽関係の仕事をしろ』とは言わないだろう。


「あかりが楽器を演奏するのが嫌なら、中学で吹奏楽をやらないって選択肢もあるし。むしろ私立の美術に力を入れてる中学に入ってもいいんだし。」


 お兄ちゃんは私の頭を優しくなでた。


「俺があかりに望むことは一つ。明るい笑顔でいてほしい。それだけだ。」


 お兄ちゃんは部屋へ戻っていった。私も部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。


 やりたいことをやるだけなのに、何でこんなにつらいのだろう…。


 私はぐるぐると考えを巡らせて気持ちが悪くなった。でも一つだけわかったことがあった。



『明るい笑顔でいよう。家族のために。』

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