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冥光輪廻 ― 二つの神に愛された魂 ―  作者: ミルハ


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13/21

光の祈り、闇のざわめき

館を包む空気は、日に日に重く沈んでいた。


かつては絶え間なく舞い込んでいた依頼も、今では目に見えて減っている。


呪いを解いてほしいという願いも。

病を癒してほしいという頼みも。

闇の術を求めて訪れる者の姿も――

少しずつ、少しずつ、館から遠ざかっていた。


広間に置かれた依頼書の束は薄くなり、弟子たちの間には、以前にはなかった不安が滲んでいる。


「…今日も、これだけか。」

誰かが小さく呟く。


その声に返事をする者はいなかった。


皆、わかっているのだ。

このまま依頼が途絶えれば、館は立ちゆかなくなる。


それでも、どうすればこの状況を変えられるのか。

誰にも答えは見つけられず、焦りだけが日を追うごとに募っていった。


闇の気が濃く漂う廊下に、重い足音が響く。

――コツ、コツ、と。

その音が近づくだけで、弟子たちの表情が強張った。


イェンミンだった。


「何をしている。呪符の配列が乱れているぞ。」

低く、冷たい声が落ちる。


若い弟子が、びくりと肩を震わせた。


「も、申し訳ありません…すぐに直します。」


「すぐに、ではない。なぜ乱れた。」


「それは…」


言葉に詰まった弟子を、イェンミンは黙って見下ろす。


怒鳴っているわけではない。

それでも、その声音には抑え込まれた苛立ちが滲んでいた。


「…集中しろ。」

短く言い残し、イェンミンはその場を去っていく。


足音が遠ざかっても、誰もすぐには口を開かなかった。


館にいる者たちは、いつからかイェンミンの機嫌を窺うようになっていた。


少しでも気に障れば、何を言われるかわからない。

だから皆、余計な音を立てないように息を潜め、与えられた仕事だけを黙々とこなしている。


けれど、その沈黙の奥には、確かな恐れと疲弊が積もっていた。


ジンランは、そんな光景を少し離れたところから見つめていた。


俯いた弟子。

怯えた目。

重苦しく沈んだ廊下。

以前とは、何もかもが違っている。


イェンミンがこの館を支えてきたことを、ジンランは知っている。

ここで多くの弟子たちを導いてきたことも。

自分に力を与えてくれたことも。


だからこそ、このまま館が壊れていくのを黙って見ていることはできなかった。


けれど――


(…このままでは、館が崩れてしまう。)

胸の内で呟く。


では、自分に何ができるというのだろう。

イェンミンほど強い力を持っているわけではない。

呪いの術を使うこともできない。

自分はただ、彼に教えられた術を覚え、与えられた力を使っているだけ。


そう思ったときだった。

ふいに、心の奥にひとつの声が蘇った。


――お前の力で館を救いなさい。


ジンランの足が、わずかに止まる。


耳で聞いたわけではない。

それでも、確かに聞こえた気がした。

穏やかで、静かな声。

あの湖のほとりで聞いた、あの声だった。


――お前ならできる。

チョンハオの言葉。


ジンランは、そっと目を閉じた。

すると、胸の奥に残っていた小さな灯が、かすかに揺らめいた。


ほんのわずかな光。

けれど、それは確かに消えてはいなかった。


どれほど深い闇の中にいても。

自分には何もできないと思ってしまうときでも。

あの声だけは、静かに心の奥へ届いてくる。


ジンランはゆっくりと息を吸った。

そして、もう一度目を開く。


先ほどまでと同じ館。

同じ闇の気。

同じように不安を抱えた弟子たち。


何も変わってはいない。


それでも――

ジンランの胸の奥では、小さな光が確かに揺れていた。


その夜。


館の者たちが寝静まり、昼間のざわめきさえも闇の底へ沈んだ頃。

雲に覆われていた月が、ゆっくりとその姿を覗かせた。

淡い月光が中庭へと降り注ぐ。


その下に、ジンランはひとり立っていた。

夜風が薄衣の裾を揺らし、長い髪を静かにさらっていく。

冷たい風が頬を撫でても、彼女は身じろぎひとつしなかった。


その手のひらには、五つの小さな灯がある。


木。

火。

土。

金。

水。


それぞれ異なる色を宿した、かすかな光。

ジンランはそれらを大切に抱えるように、両手を胸元へ寄せた。


昼間に見た弟子たちの顔が、脳裏をよぎる。


怯えた目。

疲れ切った表情。

何かに縋りたくても、縋るものが見つからないような姿。


――このままでは、館が崩れてしまう。

その思いが、静かに胸の奥で繰り返されていた。


けれど、今の彼女には、以前とは違うものがあった。


あの湖で聞いた、あの声。

――お前の力で館を救いなさい。

――お前ならできる。


ジンランは目を伏せ、小さく息を吐いた。


「…やってみます。」

誰に聞かせるでもなく、そう呟く。


そして、ゆっくりと地面へ膝をついた。

指先で土をなぞり、円を描いていく。

夜露に濡れた土はひんやりとしていた。


その円の中心に立つようにして、五つの灯を置く。


東に青。

南に赤。

中央に黄。

西に白。

北に黒。


五つの光が、闇の中でかすかに揺らめいた。


「木・火・土・金・水――天地の理よ。」

静かな声が、中庭に響く。


青い灯が、ふっと揺れた。

続いて赤い灯が瞬き、黄色い光がその中心で淡く脈打つ。

白い光が月明かりを受け、黒い灯が周囲の闇を静かに吸い込んでいく。


五つの異なる気が、互いに反発することなく、ゆっくりとひとつの円を描き始めた。


ジンランは両の手を胸の前で重ねる。

目を閉じる。

そして、祈るように言葉を紡いだ。


「天に在す父なる気よ、地に眠る母なる息よ――」

その声は、夜の静けさに溶けていく。


「陰陽の流れを整え、命の道を再びひらかせ給え。」

最後の言葉が落ちた瞬間。


ふわり、と風が起こった。

最初は、ほんのわずかなそよ風だった。


けれど次第に、中庭を取り巻く木々がざわめき始める。

枝葉が揺れ、葉擦れの音が重なっていく。


まるで、夜そのものが彼女の祈りに耳を傾けているかのようだった。


五つの灯が、ゆっくりと明滅する。


青。

赤。

黄。

白。

黒。


それぞれの光が細い糸のように伸び、互いを結び始めた。

やがて、その光は円の内側を巡り、地面に描かれた線をなぞるように走っていく。


ジンランは目を閉じたまま、静かにその気配を感じ取っていた。


――流れている。

止まっていた何かが、少しずつ動き始めている。

淀んでいた空気の奥に、新しい息吹が入り込んでくる。


その感覚に導かれるように、ジンランはさらに深く息を吸った。


「光は闇とともにあり――」

声が夜気に溶ける。


「闇もまた、命の胎(はら)なり…」


その瞬間だった。

五つの灯が、一斉に強く瞬いた。


そして――

ふっ、と。

すべての光が消えた。


一瞬。

世界から色が失われたような、深い静寂が訪れる。

けれど、それは終わりではなかった。


次の瞬間。

館の奥から、淡い光が生まれた。


ひとつ。

また、ひとつ。


廊下の隅。

閉ざされた部屋。

柱の陰。

誰もいない階段。


闇の中に、柔らかな光が次々と灯っていく。

それは眩しい光ではなかった。

闇を追い払うような強い輝きでもない。


ただ、そこにある闇をそっと包み込むような、穏やかな光だった。


やがてその光は館全体へと広がっていく。

重く沈んでいた空気が、少しずつほどけていく。

冷え切っていた廊下にも、ほんのりとした温もりが戻っていく。


眠っていた弟子たちの部屋にも、淡い光が差し込む。

誰かが寝返りを打った。

誰かが、深く息を吐いた。


そして――

館全体が、柔らかな光に包まれた。


月明かりとも違う。

炎の光とも違う。

それは、闇の中から生まれた光だった。


ジンランはゆっくりと目を開く。

目の前に広がる景色を、言葉もなく見つめた。


五つの灯は、もうどこにもない。

けれど、その光は確かに館の中に残っている。


小さな灯だった。

けれど――

それは確かに、闇の中で生きていた。


ジンランは胸元にそっと手を当てた。

そこにもまた、小さな光が灯っているような気がした。


――翌朝。


館を包んでいた不気味な気配は、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。

朝靄の残る中庭には、澄んだ空気が満ちている。

昨日まで重く淀んでいた闇の気は薄れ、木々の葉を揺らす風さえ、どこか軽やかだった。


弟子たちは、いつもより早く目を覚ました。


「…あれ?」


廊下へ出た若い弟子が、辺りを見回す。


いつもなら肌にまとわりつくようだった重苦しさがない。


深く息を吸ってみる。

肺の奥まで、冷たく澄んだ空気が入り込んできた。


「…空気が、違う。」


その声を聞きつけ、別の弟子も廊下へ出てくる。


「本当だ…」


二人は顔を見合わせた。


誰もが感じていた。

館そのものが、長い眠りから目を覚ましたようだった。


そして――

門前から、人の声が聞こえてきた。


「すみません!どなたかいらっしゃいませんか!」

久しく聞いていなかった、外からの呼び声。


弟子の一人が慌てて門へ向かう。

そこには、不安そうな顔をした男が立っていた。


「こちらに、呪いを解いてくださる方がいると聞いて…」


「依頼、ですか?」


「ああ。昨日までは、何度訪ねても返事がなくて…でも今朝、どうしてもここへ来たくなって。」


男の後ろには、さらに数人の人影があった。


それだけではない。

少しすると、また別の者が門を叩く。

その後にも、また一人。

まるで堰を切ったように、人々が次々と館を訪れ始めた。


「まるで…館が生き返ったみたいだ…」

誰かが呟いた。


その言葉に、周囲の弟子たちも頷く。


昨日までの沈んだ空気が、嘘のようだった。


やがて、昨夜の出来事を見ていた弟子の一人が、思い出したように口を開く。

「そういえば…」


皆の視線が集まる。


「昨日の夜、ジンランが中庭で祈りを捧げているのを見たぞ。」


「ジンランが?」


「ああ。五つの灯を置いて、何かの術を使っていた。」


「じゃあ…この変化は、ジンランが?」


驚きの声が広がっていく。

その噂は、瞬く間に館中へと駆け巡った。


「ジンランが館を救ったんだ。」


「すごい力だな…」


「私たちにも、あんな術が使えたら…」


次々と向けられる言葉に、ジンランは戸惑ったように目を瞬かせた。


「そ、そんな…」


何か特別なことをしたつもりはなかった。


ただ、この館を。

イェンミンを。

目の前の弟子たちを。

そして、ここにいる人々を――


どうにかしたい。

そう願っただけだった。


「私一人の力ではありません。」


ジンランは小さく首を振った。


「五行の力が、うまく巡ってくれたから…」

そう言いながらも、頬には自然と笑みが浮かんでいた。


誰かに喜んでもらえる。

誰かの役に立てる。

その喜びを、久しく味わっていなかった。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


――自分にも、できることがある。

その思いが、静かに胸へ落ちていく。


それからというもの、ジンランのもとにも依頼が届くようになった。

特に、病や怪我を癒やす回復術を求める者が多かった。


「お願いします。どうか、この子を…」


差し出された小さな手。


「もう長く苦しんでいるのです。助けていただけませんか。」


縋るような瞳。


ジンランは、その一人ひとりと向き合った。

手を重ね、相手の気を感じ取る。

乱れているところを探し、そこへ自らの力を静かに流し込んでいく。


以前なら、自分の力に自信を持てず、誰かに助けを求めていたかもしれない。


けれど今は違った。

――自分なら、できる。

そう信じて力を使うと、不思議なほど術は安定した。


やがて、彼女一人で依頼を引き受けることも増えていった。

館を訪れる人々の中には、ジンランの名を聞いてやって来る者まで現れるようになる。


「ジンラン様に診ていただきたいのです。」


そんな言葉を聞くたびに、彼女は少し照れたように笑った。


まだ、自分の力を完全に信じられるわけではない。


それでも――

昨日までとは、確かに何かが変わっていた。


夜。


すべての依頼を終えたジンランは、一人静かな部屋にいた。

窓の外には、淡い月が浮かんでいる。


彼女は窓辺に座り、そっと両手を合わせた。


思い浮かぶのは、あの湖。

静かな水面。

白い衣。

そして、あの穏やかな眼差し。


「あなたの言っていたことは…こういうことだったのですね、チョンハオ様。」

小さく呟く。


――お前の力で館を救いなさい。


あの言葉を聞いたときには、どういう意味なのか分からなかった。

自分にはそんな力があるとは思えなかった。


けれど今なら、少しだけ分かる。

救うということは、自分自身の中にあるものを信じて、手を差し伸べること。


ジンランは胸元へ手を添えた。


すると――

心の奥から、あの声が静かに響いた。

『そうだ。その調子で、自分を信じなさい。』


「…はい。」


思わず、微笑みがこぼれる。


その瞬間。

頬を、一筋の涙が伝った。


嬉しいのかもしれない。

それとも、ようやく自分を信じてもいいのだと、心のどこかで思えたからなのかもしれない。


涙は月の光を受けて、淡く輝いた。

ジンランはそれを拭わず、そのまま静かに目を閉じる。


胸の奥には、あの夜に生まれた小さな灯がある。

もう、ただ揺れているだけではない。


ほんの少しずつ――

確かな光へと、育ち始めていた。


その一方で――


館の奥から少し離れた廊下に立ち、ひとりの男がその光景を見つめていた。

イェンミンだった。


人々に囲まれ、戸惑いながらも笑みを浮かべるジンラン。

彼女のもとへ運ばれてくる依頼。

その手から放たれる、穏やかな光。

そして、その光に救われていく人々。


イェンミンは何も言わず、それらを遠くから見つめていた。


以前ならば、弟子が自分の力を認められることを喜んだかもしれない。

ましてや、それがジンランなら。

自分が見つけ、力を与え、育ててきた弟子なのだから。


――そう思っていた。


けれど。

胸の奥に生まれた感情は、喜びとは違っていた。


ざわざわとした、不快な感覚。

自分でも説明のつかない焦りが、少しずつ胸の奥へ広がっていく。


「…なぜだ。」

低く呟く。


ジンランが力を使うたび、その光は以前とは比べものにならないほど強くなっていた。

それなのに、彼女自身はそれに気づいていないかのように、ただ目の前の人々を救っている。


まるで――

自分の手を離れて、どこか別の場所へ歩き始めているようだった。


イェンミンは眉を寄せる。


「…なぜあの娘は、あれほどまでに光を得た?」

その問いに答える者は、誰もいない。


けれど、その夜。

館が静まり返った頃だった。


イェンミンの耳に、どこからともなく声が届いた。

静かで、穏やかな声。

それでいて、決して逃れることのできないほど確かな響きを持っている。


――それは、かつて自分が「否定された」と感じた、チョンハオの声だった。


『彼女の力は、すでにお前を超えている。』


イェンミンの目が鋭くなる。


『お前から学ぶことは、もうない。』


その言葉が胸に突き刺さる。

イェンミンは、無意識に拳を握りしめた。


『館が再び息を吹き返した今――』

声は淡々と続く。


『彼女を、解き放つときだ。』


「…黙れ。」

低い声が漏れる。


けれど、チョンハオの声は、なおも静かに響き続けた。

『彼女はもう、お前の闇だけを頼りに生きる必要はない。』


「黙れ…!」


イェンミンの指が、ぎり、と音を立てるほど強く握り込まれる。

胸の奥に、否定したいものが次々と浮かび上がってきた。


違う。

そんなはずはない。

ジンランは自分の弟子だ。


自分が救った。

自分が育てた。

自分が、ここまで連れてきた。


それなのに――


「お前になにがわかる…!」

声が、静かな館に響き渡る。


「私が、どれだけあいつを…!」

そこまで言って、言葉が止まった。


自分でも、その先に何を続けようとしたのかわからなかった。

守ってきた。

そう言いたかったのか。

愛していると、言いたかったのか。


それとも――

失いたくないと。

ただ、それだけだったのか。


イェンミンは歯を食いしばった。


「…あいつが私を超えることなど、ありえぬ。」

吐き出すように言う。


「私は闇の術を極めてきた。誰よりも長く、深く、この力と向き合ってきたんだ。」

自分に言い聞かせるように、言葉を重ねる。


「それに…あいつは私と共にある運命なのだ。」

最後の言葉だけが、妙に力を失っていた。


声の向こうから、しばらく沈黙が返ってくる。


やがて――

『…力では、彼女の自由は縛れない。』


静かな声だった。

責めるでもなく、嘲るでもない。

ただ、哀しむように。


『お前にも、いずれそれがわかるだろう。』


「黙れ…!」


イェンミンは両手で耳を塞いだ。

聞きたくなかった。


その言葉を認めてしまえば、自分が何を恐れているのかまで、はっきりしてしまう。


頭を激しく振る。


「違う…」

誰に向けた言葉なのか、自分でもわからない。


「違う…ジンランは、私のもとにいる。」

けれど、その声には以前の確信がなかった。


そのとき。

ふと、窓の外へ目が向いた。


中庭。

月明かりの下に、ひとりの人影がある。


白い衣をまとったジンランが、静かに手を合わせていた。

何かを祈っているのだろう。


その姿は、以前とはどこか違って見えた。

誰かに命じられたからでもない。

誰かに縋っているわけでもない。

自分自身の意思で、静かにそこに立っている。


月光を受けた彼女の周囲には、淡い光が漂っていた。


イェンミンは、ただそれを見つめる。


――いつからだ。

いつから、あの光はあんなにも強くなった。

いつから、自分の闇を照らすほどになった。


そして――

いつから、自分の手を離れていくように見えるようになった。

胸の奥が、鈍く痛んだ。


ジンランは知らない。

自分が今、どれほど近くから見つめられているのか。


ただ静かに祈り続けている。

その横顔には、もう以前のような怯えだけはなかった。

小さくても、確かな光が宿っている。


イェンミンは、拳を握ったまま立ち尽くしていた。


彼女の光は、闇を拒んでいるわけではない。

それなのに――

その光が広がるほど、彼女の中にあった闇が少しずつ形を失っていくように感じる。


自らの手中に収めてきた闇。

そこにジンランを置いておけば、ずっと自分の傍にいてくれると思っていた。


けれど今、その闇さえも彼女の光に包まれようとしている。


そしてイェンミンは、気づき始めていた。

――ジンランはもう、闇の館に閉じ込めておける存在ではない。

それを認めることが、これほどまでに恐ろしいことだとは。


窓の外で、ジンランの白い姿が月光に溶けていく。

その光は静かだった。


けれど確実に――

イェンミンの意のままに操ってきた闇さえも、少しずつ溶かしていくようだった。

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