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勇者と魔王 プロローグ

まだ太陽が出ている時間だというのに、あたりは薄暗かった。


俺はただ真っすぐ、あの聳え立つ魔王城に向かって歩き続けていた。


この森に入ってからどれだけ時間が経っただろう。

最初の頃は魔物との戦闘が続き、知らない魔物の弱点を探るのも刺激があった。

だが、城が近づくにつれて魔物は減り、今では気配すらない。


不気味だな……


引き返したい気持ちが湧いてくるが、

それでも足を止めるわけにはいけなかった。

二年間の旅の果てに、ようやくここまで来たのだから。


「やっと……たどり着いた……」


目の前にそびえる魔王城は、人間界の城とはまるで別物だった。黒く、禍々しく、落ちる雷がその不気味さを照らし出す。


ここからが本番だというのに、目的地についた達成感で気が緩みそうになる。


勇者に任命されたとき、俺はもっと華々しい未来を想像していた。


立派な仲間、潤沢な装備、魔王討伐のための訓練……。


しかし現実は、なけなしの資金だけ握らされて放り出された一人旅だった。


泥まみれでレベルを上げ、死にかけるのは日常茶飯事。


それでも諦めなかったのは、勇者に選ばれたことを喜んでくれた家族に悲しい顔をさせたくなかったからだった。


ここまでの旅の道のりが走馬灯のように蘇った。


魔王討伐に失敗すれば、次は本当に走馬灯がみれるかもしれないな。


そう思うと、乾いた笑いが口から溢れた。


「よし、行くか……」


剣を握りなおし覚悟を決める…

俺はゆっくりと巨大な扉を押し開けた。


「暗!!」


城の中は明かりもなく真っ暗で何も見えない。


マジックバックの中からランプを取り出し灯を灯すと自分の周りがふわっと明るくなった。


利き手に剣、もう片方にランプを持ち、周りを警戒しながら、一歩一歩進んでいく。


豪華な装飾が施されている廊下をしばらく歩けば、自分の足音しか聞こえない状況に違和感を覚えた。


なんの気配も感じない……??


事前に調べていた情報によれば四天王と言われる魔物との戦闘があったはず……


そんな違和感を感じながらも魔王がいる場所を目指していたが、だいぶ時間が経った頃、俺は焦っていた。


「やばい……迷ったわこれ」


結局、魔王城に踏み入れてから何かに遭遇することもなく、魔王の部屋を探していたのだが……


城が広すぎる問題。


魔王の部屋は全然見つからず、一旦引き返そうと思っても、どこから歩いてきたかもわからなくなってしまった。


「勇者、魔王城で迷子とかダサすぎる……」


城内の地図も手に入れておくべきだったなあ。


そんなことを考えていると、俺の目の前にいきなり豪華な扉が現れた。


「え!?」


俺は驚きつつも剣を扉へ向けて構えた。


すると豪華なドアはギギギギ………と音を立てながらゆっくりと開く。


ドアが開くと中は明るく、部屋が広がっており、真ん中に豪華な作りの寝台があった。


そして……その布団の下に何かが“いる”。


それは部屋の中に入らずともわかった。


明らかに怪しいけど……

このまま徘徊しても埒が開かないよな


ランプを置いて両手で剣を構え直し、俺は扉の中へ足を踏み入れた。


怪しい寝台のそばで立ち止まり張り詰めた息をゆっくりと吐き出す。


意を決して布団を払うと──


「ま、魔王………!!!!」


銀髪に大きなツノ。

そして人形のような美しい顔立ち。


間違いない……魔王だ。


「こいつがあの魔王……」


魔王は種族を問わず拷問し、苦しむ姿を見るのがお気に入りらしい。

そのため、生贄を献上するために魔族による人間の誘拐が多発している。


だから今回の魔王討伐が計画された。


倒しにきたはずの魔王はなぜか動かない。


「寝てるのか?」


寝台の上で微動だにしない魔王を見て、俺は恐る恐る魔王の額に手を当てる。


魔王の体は恐ろしく冷たかった。


「死んでる……」


「まだ、生きてる……」


「っ!?」


いきなり返事が返ってきたことに驚き、俺は飛び跳ねるように手を引っ込めた。


「誰……?」


魔王は身じろぎしながら、そう聞いてきた。


「お、俺は勇者だけど……」


「ゆうしゃ……勇者!?」


想像してた魔王との遭遇イベントとはちがい、拍子抜けしていると魔王はハッとしたように身体を起こす。


「勇者なら、僕を倒しにきたんだろう?なんで僕起きちゃったのかなあ!?それに君もあのままグサっとやってくれてもよかったのにー!!」


ベッドを綺麗に整えながら魔王が喋っていく。最後にぽんっと布団を叩くと


「よし!じゃあ戦おうか!!」


「え!?あ、うん。戦おうか!?」


「あ、でも待って!僕ってばつい寝ちゃって、全然おめかしできてない」


「え……ん??」


ま、まあ、確かにパジャマ姿にナイトキャップで戦闘はちょっとな……


てか、想像してた魔王との戦闘と全然ちがうんだけど?


俺が魔王の部屋たどり着いたら、魔王が俺を出迎えて「よくぞきたな。勇者。」

「魔王!!俺が今日ここでお前を倒してみせる!」みたいな展開を予想してたのに


今、俺の目の前にいる魔王は、クローゼットで服を見繕っている。


「んーー、黒もいいけど無難すぎ?青でもいいなあ」


「あれぇ?全然寝癖なおらない……」


「あ!!顔も洗わないとまだ化粧水のこってたかなぁ?」




お そ す ぎ る ! ! !




ちょっとくらい待ってやってもいいかと思った1時間前の自分を呪いたい。


「よし、いい感じ!勇者くん準備できたよお。」


そこから追加で30分後ようやく

魔王の準備ができたようなのでお互いに戦闘体制に入る。


そこでようやく魔王とはっきり目があった気がした。


魔王は俺の姿をまじまじと見たかと思えば一瞬目を見開く。


なんなんだ?


その表情が気になりつつも、先に攻撃を仕掛けにいった。


「はあっ!!」


素早く魔王に近づき斬りかかる。


狙うは魔王の首


しかし何故か魔王はそこから動こうとしなかった。


なぜ!?


魔王はそのまま目を閉じ……まるで……


死を受け入れるそんな感じがした。


俺の剣先が魔王の首元を貫こうとする直前、俺は剣を止めた。


「どういうつもりだ……」


俺の声に魔王はそっと目を開ける。


俺を見つめたまま微動だにしない。


「俺は、無抵抗のやつを殺す趣味はないぞ」


剣を静かにおろす。


「ええ!?」


いや俺の方が驚きだわ!

素直に勇者にやられる魔王なんて聞いたことねえよ!


もしかしてこいつ、めっちゃ弱いのか?


「ステータスオープン」


魔王 サタン レベル999


HP 1/9999

MP 9999/9999


「………HP………1?」


俺の見間違えでなければ魔王はすでに瀕死の状態だった。


いや、どういうこと!?


「え?お前ふざけてる?準備段階から思ってたけど」


俺の言葉に魔王はキョトンとしていた。


「もうずっと前からこのままなんだよ……回復しようとしても戻らないし。だからもういっそのこと殺してもらおうと思って!」


「はあ!!??回復できないの!?」


この状態に混乱していると


「まあまあまあ、落ち着いて。よければ座ってよ!」


とティーセットを用意しはじめる魔王。


いやなぜ?と思いながら席についた。


「まあ、見た通り僕はHP1です。」


「なんで?」


「それは僕にもわかりません。気づいたらこうなってた。多分……呪い?」


「呪いってなんだよ」


「いや、呪いって勝手に僕が思ってるだけで詳しくはわからないんだけど。いつからかこうなっちゃってなにしても回復しない」


瀕死でそれに加えて回復もできない。

これは魔王を倒す大チャンスなんだろうけど………


「はい!これ。この紅茶すっごく美味しいから飲んでみて?魔国で人気なんだよ!」


「あ、あぁ。ありがと」


無邪気に話しかけてくる魔王に適当に相槌をうちつ、これからどうするか考える


魔王を倒さない限り、国へ帰れないが……


どうしたって、このまま倒す気にはならないんだよなあ。


俺が切りかかった時の表情が、悲しんでるような気がして少し胸が苦しくなった。


「ちょっと!勇者くん!きいてるの?」


「え、ああ!聞いてる聞いてる」


「もう!絶対聞いてないでしょ!君は僕を倒すまで国に帰れないでしょ?だからさっさとやっちゃっていいよっていってるの!」


「そんなことも知ってるのか」


「今まで何人の勇者と戦ってきたと思ってるの。それくらい知ってます。」


ふふん。と得意げな表情を浮かべる魔王は噂で聞いている魔王とは別人だ。


俺に倒されたがってるのは、HP1でいつ死ぬかわからないから?


だったらさっさと死んでしまいたいってことなのか?


それは……なんか……ちょっと悲しいな……


そんなことを思えば口からこんな言葉が溢れた。


「俺がさ……回復方法をみつける。」


サタンの指先がぴたりと止まった。

紅茶の表面が静かに揺れる。


「……え?」


その声は、さっきまでの調子とは違っていた。驚きとも期待ともつかない。

ほんの少し震えているようにも聞こえる。


「俺、瀕死の魔王倒すのはプライドが許さないっていうか、やっぱり正々堂々戦って倒したいっていうか!」


魔王はキョトンとした表情で俺の話をきいていた。


「だから、それまで休戦ってことでどうだ?」


「え、いやいや!僕魔王なんだよ?君は僕を倒しにきたんでしょ?なに言ってるの」



俺自身もちょっとおかしな事言ってるのはわかってる。だけど


「あぁ、もちろんその呪いを解いたら最後は必ず倒す。」


なんとなく呪いを解きたいと思ってしまったんだ。


こうして勇者と瀕死の魔王の、不思議な関係が始まったのであった。







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