第1話「クロエの執務室」
バネッサの学園潜入調査から、数か月が過ぎていた。
クロエの東北商人グループ次期総帥就任も正式に決まり、商館内は次の段階に向けて、にわかに活気づいている。
秘書のアキラが、例の学園と契約している警備会社からの報告書を読み上げた。
クロエの手の者は、無事に学園への潜入を果たしたらしい。
このまま数年かけて調査を進めれば、いずれ学園敷地内での魔法鉱石の採掘計画も立てられるだろう。
クロエは「学園」という言葉を聞いて、ふとバネッサの顔を思い浮かべた。
「アキラ。バネッサさんは……その後、どうしているか聞いているかい?」
「ええ。一昨日、『おうどん』を送っていただきまして。そのお礼に電話しました。お元気そうでしたよ」
「は?」
クロエは思わず聞き返した。
アキラは、学園への潜入調査の際、バネッサの後衛支援を担当していた。
とはいえ、いつの間にそんなものを送り合う仲になっていたのか。
しかし、自分には何も届いていない。
「そう……ですか。元気そうなら良かった」
「ただ、うどん屋さんの景気が、まだあまり良くならないとは言っていました」
「まあ、今の時代、飲食は大変だろう」
「ですよね。あれだけの腕があるなら、採取師に復帰された方が、よほど稼げると思うのですけど」
「……思うところがあるのだろうね」
商人として、売り上げの立たないうどん屋を、ただ金銭的に支援するつもりはない。
だが、バネッサが経営的に苦しい状況にあるのなら。
また、何か別の仕事を依頼してもいいかもしれない。
クロエは、そう考え始めていた。




