閲兵という名の棚卸し
網膜が焦げる。
空から降り注ぐ熱。青銅の兜の表面で跳ね返り、眼球に直接突き刺さる。重装歩兵一万一千。軽装歩兵二千。合計一万三千。並んだ肉袋の群れ。太陽の直火焼き。毛穴という毛穴から酸っぱい脂汗を滴らせている。
地面の微振動。
一万三千の足裏。ひび割れた踵。すり減った革サンダル。剥き出しの親指の爪にこびりついた黒い泥。それらが赤茶けた土を踏み固める。振動が足首の骨を伝わって、胃袋の底を直接揺さぶる。低い地鳴り。内臓が細かく震える。昨夜食った豆の残骸が腸の中でガスを膨張させる。腹が張る。
ペルシャ人書記官が列の前を歩く。
油を塗りたくった顎髭。左耳の耳たぶだけが異様に垂れ下がり、先端が赤黒く変色している。なぜ左耳だけが重力に負けているのか。重い耳飾りを引きちぎられた痕か。右手に握った尖筆。左手の蜜蝋板。カリッ。カリッ。カリッ。針の先が蜜蝋を削り取る甲高い引っ掻き音。耳の奥の蝸牛を直接引っ掻き回す振動。一万三千という巨大な肉の在庫を、ひとつひとつ数字に変換していく作業だ。棚卸し。
アテネの市民権を持っていた手足が、ただの「1」という棒線に置き換えられる。蜜蝋の表面に一匹の緑色の羽虫が張り付いている。羽根の脈絡が異常に細かい。書記官はそれを気にしない。上から尖筆を無造作に押し付けた。羽虫の体液が黄色く潰れ、蜜蝋の溝に混ざる。それを削り取った尖筆が、そのまま次の男の配給番号を刻む。俺たちの命は、潰れた虫の体液と同じインクで記録されていく。
「俺は重装歩兵の三千四百五十一番だ。お前は?」
右隣に立つ男が前を向いたまま唇を動かした。欠けた前歯の隙間から、酸っぱい息が漏れる。干し肉の繊維が歯茎に挟まったまま腐っている臭い。
「数えてない」
クセノフォンは網膜の奥の痛みを堪えながら答える。
「ただの肉の塊だ」
「数字がなきゃ、明日の朝飯の配給票がもらえないぞ。俺たちはもう名前じゃ呼ばれない。ペルシャの文字にアテネの母音はないんだ」
「なら三千四百五十二でいい。お前の次だ。俺の胃袋の番号だ」
槍を握る右手のひら。
柄の木目に汗が染み込み、べたべたと張り付く。指の関節を開きたい。筋肉が硬直して動かない。痙攣。陣形の先頭で、紫色のマントを翻すキュロスの姿。黄金の装飾。腕輪。胸当て。太陽の光をすべて独占して乱反射させる暴力的質量。彼が右手を上げる。一万三千の槍が一斉に天を突く。
ざがっ。
乾燥した空気を切り裂く青銅の刃の音。一斉の動作。個人の意志はない。右隣の男が動いたから、自分の腕も動く。それだけだ。筋肉が勝手に収縮する。左隣のトラキア人の股間から、ひどく饐えた臭いが漂ってくる。三日洗っていない羊の毛皮のアンモニア臭。鼻腔の粘膜が焼けつく。息を止める。肺胞が酸欠で痛む。
書記官の革靴が土を擦る音が通り過ぎる。
蜜蝋板に刻まれた無数の引っ掻き傷。新しい身分証。血統。アゴラでの雄弁。哲学の教え。すべて削り落とされた。残ったのは、兵員数という数字。一万三千。キュロスという巨万の富を持つ男が、自分の庭先の害虫駆除のために買い集めた使い捨ての道具。棚の上の青銅の鍋。ヒビが入れば捨てられる素焼きの壺。
「おい、三千四百五十二」
隣の男がまた囁く。
「なんだ」
「俺の足の親指に、でかいマメができてる。潰すべきか。それとも育てるべきか」
「潰せ。在庫の品質が落ちる」
「潰したら血が出る。血の分だけ、俺の体重が減る。配給の麦粥で元が取れるか?」
「取れない。お前は今日、数滴の血を無料でペルシャの土に寄付するんだ」
兜の内側のフェルト地が汗を吸い込み、重く垂れ下がる。首の骨が軋む。額の皮膚が熱で爛れ、兜の縁と擦れ合ってヒリヒリと痛む。
クセノフォンは胃の底に溜まった酸っぱい液体を、ゆっくりと飲み込んだ。
太陽が容赦なく一万三千の兜を焼く。脳髄が沸騰する。数字。数字の群れ。数字になることの奇妙な安堵感。責任の蒸発。もはや善く生きる必要はない。自分がただの肉と骨の集合体であり、銀貨一枚で買われる安い商品であるという事実。底なしの卑屈さが、逆説的に甘い麻薬となって脳髄を痺れさせる。アテネの法。ソクラテスのしつこい問いかけ。魂の美しさ。そんな重い荷物はすべてアゴラの石畳に置いてきた。ここでは誰も俺の魂の品質など問わない。問われるのは槍を突き出す腕の筋力と、何日水なしで歩けるかという燃費だけだ。なんて身軽だ。人間をやめて、王の所有する分厚い絨毯の模様の一部になる。自発的な奴隷への転落。胃袋を満たすためだけの純粋な算術。
一歩前へ。
砂が巻き上がる。喉の粘膜に張り付く。咳き込む。全員が同じタイミングで咳き込んだ。巨大な機械が歯車を軋ませて息継ぎをした。肺に流れ込むのは熱砂。ペルシャの乾燥した風。ギリシャの湿り気は、すでに毛穴から完全に蒸発し尽くした。




