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異世界転生した俺は資産50億円を使い切りたいのに、リターンのせいで全然0にならない  作者: 鏡まやたか
第2章 ガルドリア王国編

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第32話 変革への第一歩

「……みんな、聞いてくれ」


その一言が発せられた瞬間、闘技場に満ちていた歓声は一斉に消え去り、残されたのは張り詰めた静寂と、サーニャへ向けられる無数の視線だけだった。


誰もが息を呑み、ただ次に紡がれる言葉を待っている。


サーニャはゆっくりと観客席を見渡した。


そこにいるのは、ただの観衆ではない。

恐怖に怯えながら生きてきた者もいれば、その恐怖から逃れるために他者を踏みつけてきた者もいる。


そして、そのどちらでもある者もいる。


一人ひとりを確かめるように見据えたまま、静かに口を開いた。


「ずっと……ずっとこの国は間違っていた」


落ち着いた声音だったが、その言葉は不思議なほどまっすぐに届き、観客の胸の奥へと静かに沈んでいく。


「力がすべてで、弱い者には価値がない」


それはこの国で生きる者にとって疑いようのない“常識”であり、誰もが従うしかなかった絶対の前提だった。


「弱き者を踏みつけ、恐怖で縛り、従わせることで成り立っている国」


サーニャは一拍だけ間を置き、その空気ごと掴むように言葉を続ける。


「……それは国なんかじゃない。ただの檻だ」


その言葉が放たれた瞬間、会場の空気がわずかに揺らいだ。


否定されたのは制度だけではない。

そこで生きてきた自分たちの在り方そのものだったからだ。


サーニャは一度ゆっくりと目を閉じる。


脳裏に浮かぶのは、声を上げることすら許されずに虐げられてきた者たちの姿。

そして何もできずにそれを見ているしかなかった過去の自分だった。


しかし、もう違うと心の底から言い切れる理由があった。

あの時レイが告げた言葉が、今もなお胸の奥で消えることなく残り続けているからだ。


――力とは武力だけじゃない。


――それで、この国は変えられる。


サーニャはゆっくりと目を開き、その視線をまっすぐ観客へと向ける。


「でも……ここから変えられる」


迷いのない声だった。


「人が、人を想う力で――この国は変えられる」


ざわりと、先ほどとは違う種類の揺らぎが広がる。

それは否定ではなく、心の奥に触れられたことで生まれた迷いだった。


「あなたたちは、自分の力を間違った方向に使ってしまったのかもしれない」


その言葉に、何人かが顔を上げる。

責められると覚悟していた者たちだった。


「でも、それは……怖かったからだよね」


その一言で、空気が確かに変わった。


「自分が測定器(サンドバッグ)にされるかもしれない。理不尽に奪われるかもしれない。何もできないまま壊されるかもしれない」


サーニャの声は優しいが、決して逃げてはいなかった。


「だから、自分を守るために……自分より弱い者を押しのけた」


観客の中で、顔を伏せる者、拳を握りしめる者が現れる。


「……気持ちは分かる。生きたいと思うのは、当たり前のことだから」


その言葉は、否定ではなく受容だった。


だが同時に、そこに甘えはない。


「でも、それでは何も変わらない」


静かに、しかしはっきりと断言する。


「弱い者を踏みつけても、いずれその矛先は自分に向く。誰かを犠牲にしても次にその場所に立つのは自分かもしれない」


その現実を、突きつける。


「それが、これまでのこの国だった」


短い沈黙が落ちる。


「だから――終わりにする」


その言葉に、確かな力が宿る。


「もう誰も傷つけさせない。恐怖で縛る国は……今日で終わりだ」


サーニャは一歩前へ踏み出す。


「これからは、強い者は弱い者を守り、弱い者は強い者を支え、互いに助け合う国にする」


それは理想論かもしれない。


だが、その言葉には一切の揺らぎがなかった。


「それが、我々獣人族が誇れる本当の強さだ。恐怖で従わせる強さなんて本当の強さじゃない」


深い静寂が場を包み込む。


そして――


「……本当なのか」


震える声が上がる。


「信じていいのか……」


声の主は、かつて救い出された者たちだった。


サーニャは迷わず答える。


「もちろん。もう誰もあなたたちをあんな目には遭わせない」


震える声で彼らはつぶやいた。


「ありがとう……!」

「助けてくれて……!」


感謝と歓喜の声が一気に広がり、その波に引き寄せられるように周囲の観客たちも少しずつ声を上げ始める。


「……本当に、変わるのか?」

「そんな国に……なるのか?」


不安と期待が入り混じる中で、誰かが言った。


「……なるんじゃない」


その視線の先には、サーニャがいる。


「してくれるんだ」


その言葉が、静かに広がっていく。


「サーニャなら……」

「この人なら……変えてくれる……」


やがて、はっきりとした声が響いた。


「……あんたが、王になってくれ」


その言葉は静かだったが、確実に周囲へと伝播していく。


「そうだ……」

「サーニャが王に……」

「サーニャなら……」


観客席全体が、一つの意思へとまとまっていく。


サーニャは目を見開いた。

そこまでは考えていなかった。


「……私は……」


言葉が詰まる。


そのとき――


「――なるしかないだろ」


後ろから、レイの声がした。


「……武力で勝ったんじゃないだろ。お前が動かしたのは、人の心だ。それがこの国を変える力になる」


サーニャは黙る。


「弱い者の気持ちが分かるお前だからこそ、できることだ」


短く、しかし確信に満ちた言葉だった。


サーニャはゆっくりと目を閉じる。

そして、静かに開いた。


そこに迷いはなかった。


「……分かった。この国を――私が……いや、私たちで変える」


その瞬間、闘技場が大きく揺れた。


歓声が爆発する。


それはただの歓声ではなく、恐怖から解放された者たちの声であり、未来を願う意思そのものだった。


この日――恐怖で支配されていた国は終わりを告げ、ガルドリア王国に新たな王が誕生した。

今日で第2章が完結します!

ぜひ、最後までお読みいただけたら嬉しいです!


感想などもお待ちしておりますm(_ _)m


18時〜第33話

21時〜第34話(最終話)


第3章については出来るだけ早く、投稿できるように頑張ります!

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