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三人の男たちがそれぞれの思惑を胸に沈黙する中、それまで静かに話を聞いていた志乃が、凛とした声で口を開いた。
その声は、重苦しいカフェの一角の空気をすっと切り裂くように響いた。
「皆様、よろしいでしょうか。一つ、提案がございます」
父と岸馬、そして水上の視線が、一斉に志乃へと集まる。
彼女は臆することなく、一人一人の顔を順に見て、続けた。
「まずは玄洋会についての詳細を教えてください。組織の構成員やその目的、過去の実績。特に前例があるのであれば、次の対処も考えやすいでしょう。そして現在の状況の整理。それらを踏まえた上で、私たちが次に取るべき最善の行動は何か、考えてみませんか?」
十五の娘が口にするには、あまりに冷静で、理路整然とした提案だった。
宗一郎と岸馬は、驚きに目を丸くしている。水上は、その理知的な目に興味深そうな光を宿すと、ゆっくりと頷いた。
「……驚きました。志乃さん、あなたの言う通りです。感情的になっても始まらない。まずは情報の共有からですね。よろしい、私の知る限りをお話ししましょう」
水上は一度珈琲を口に含み、声を潜めて語り始めた。
「玄洋会の構成員は多岐にわたります。海龍光太郎のような実動部隊を率いる幹部もいれば、陸海軍の将校、財界の大物、そして歴史の闇に魅入られた学者もいる。彼らの目的は、先ほど申し上げた通り、日本各地に眠る『神器』を集め、龍脈の力を解放すること。彼らは、それによって我が国が神代の時代のような、世界の覇者たる力を取り戻せると狂信しています」
「前例、とおっしゃいましたね」水上は続けた。「あります。数年前、紀伊半島の山中で、彼らは『水龍の玉』と呼ばれる神器の一つを発見した。我々が確保する前に、彼らは不完全ながらも儀式を強行した。結果、その地では原因不明の局地的な地震と鉄砲水が発生し、麓の小さな村が一つ、地図から消えました。……表向きは、ただの自然災害として処理されましたがね」
岸馬が、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
一介の新聞記者が扱えるネタの範疇を、遥かに超えている。
「我々はその混乱の隙を突いて、どうにか玉を回収しましたが、玄洋会も多くのことを学んだ。彼らは、着実に神器の扱い方を習熟してきている。そして今回、彼らは『鎮めの石』を手に入れた。これが、現在の状況です」
水上はそこで一度言葉を切り、真っ直ぐに志乃を見つめた。
「今、最も重要な事は、志乃さん、あなたご自身の存在です。玄洋会は、力を解放するための鍵である『石』を使い、その力を安全に制御できる可能性を秘めた『あなた』を利用しようとしています。彼らが次に取る行動はおそらく、あなたを確保し、石の力を完全に引き出す方法を探ることでしょう。猶予は、あまり残されていないものと思われます」
カフェの窓の外を、路面電車が通り過ぎていく。
帝都の平穏な日常のすぐ隣で、途方もない物語が動き出している。
志乃は、自分がその中心にいるという事実を、不思議なほどの落ち着きで受け止めていた。




