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作品自体がこんだけ長くなると、皆さんちゃんと読んでくれてるか不安になってきます。
当初の予定ではもうそろそろ終わる予定だったんですが、ドラ○ンボール風にいえばあともうちょっとだけ続くんじゃ。
あー、さっぱりしたー
…少し上せて茹蛸になってしまったが、気持ち良かった事には変わりない。
お風呂から上がった俺はバスタオルで全身の水滴を拭うと、服を着始めた。
パジャマではない、外着だ。
これから外に星を見に行くのだから、結構厚着にして、湯冷めしないように注意しなくては。
まず下着をはいて、半袖のシャツに袖を遠し、ズボンをはく。
それから長袖の上着に手をかけた、時だった。
コンコン
今日一日だけで何回聞いただろう…、お馴染みになったノック音が響いた。
…またかよ。
「…入ってます」
「知ってまーす!入りますねー」
最早驚きもしない。
突撃は五十崎家の特技だと理解したからな!
「別にいいけど…」
服はもうほとんど着てるし、見られて困るものなど何もない。だから最後は特別に許可しといた、どうせ断っても入って来るんだろうし…。
脱衣所に響いたのはまたまた女の子の声だ。
この声は梓ちゃんや椿ちゃんじゃないな。桜さんでもないし、もちろん部長、美影、和水でもない。
と、いう事は…
「えーと、」
あと一人、楓の妹で、…いまいち印象に残ってない、名前なんだっけ…
あの髪が後ろで纏められてて、利発そうな顔した…、ご多分にも漏れず美人、というより可愛い系の…、
じゃららら
仕切りになっていたピンクのビニールカーテンが引かれ、もれなく彼女とご対面。
「あ〜、柚ちゃん?」
「はい?」
「…なにか用?」
名前は当たっていたらしい。取りあえず用事を尋ねたがどうせまたろくでもない理由で俺を訪れたのだろう。
「用というか、柿沢さんに突入してこいと言われたので」
「…あの人の言うこと聞いてるとろくでもない大人になるよ」
今度は部長の差し金か。
にしてもこの子はまともそうだな、ブラコンだったり、人の入浴時に突然イタズラを仕掛けたり、少なくともそういう事はしそうない、大人しそうな子である。
「俺もすぐに行くから先にリビング帰ってていいよ」
俺のもとを訪れるという目標は達成出来たのだからさっさと部長にその事でも報告しにいけばいい。
「やはり柿沢さんのいう通りでしたか…」
しかし、俺は見逃していたのだ、…本当に大人しい子ならばたとえ人から命令されたとしても、人のいる風呂場に近寄るはずがない、という事に。
「正体を現しなさい!妖怪!」
…
……
………ん?
思考が数秒停止する、突然の不可解な彼女の言動。
俺の正体が…妖怪?
「妖怪変化!」
な、なにを、言ってるんだ…、この子は…?
…まさか、この子、巷の妖怪ブームに乗っちゃてる系の妖怪マニア系ッ!?
だとしたら俺は彼女についていけるハズがない!だって俺、怖くてぬ〜○〜の漫画読めなかったもん!見開きのチャンチャンコにちびったし、ブキミちゃんのせいで夜眠れなくなったもん!
「梓や桜ねぇがお風呂のに向うから不思議に思って、私も来てみたら…。やはりね!確信しました!あなたの正体はズバリ茨木童子でしょう!」
なんか俺の正体は聞いた事のない何かになっているらしい…。
そしてズバリ俺の予想は当たっていたらしい、彼女間違いなく妖怪マニアだ。
「いばらきどうじ?」
「まさか消息不明になっていた鬼が私の目の前に現われるとは…」
「あの、すみません、何スかその、茨木童子っての?」
「じ、自分の正体なのに知らないの!?」
俺の正体は中身も内側も100%と表雨音で構成されているので、そんな人存知あげません。
柚ちゃんは一回溜め息をつく、呆れたように説明を始めた。
「いいわ、説明してあげます。茨木童子ってのは酒呑童子の家来の鬼です。酒呑童子率いる鬼一味が源頼光とその四天王に退治された際、唯一生き残ったの彼です。その後、女性に化けて四天王の一人である渡辺綱に一条戻橋、ないし羅城門で襲いかかったは良いけど、渡辺綱の持つ名刀髭切で返り討ちにあってしまいました。その時に切られた腕を取り戻そうと奮闘するのだけど…」
…うん、何を言ってるかよくわからん。
彼女の説明はまだまだ続いているが、電波を俺は着信拒否してるようなので軽く聞き流していた。
何回もお風呂に突撃されてきた俺の状況適応レベルは間違いなく常人の倍はあるだろう。今なら何も怖くない。
「…と、いうわけで空に飛び上がった茨木童子はそれから先、どの話にも出て来ていません。以上説明終わり。わかりました?」
「いや、それがなんで俺になるのか理解出来ない」
聞き流す程度だったけど、俺の正体がその茨木童子の理由になる理由が意味不明だ。
「女に化けていたでしょ?」
「…」
痛いとこついてくるな…。
「まあ、そうだけどコレは罰ゲームで仕方無くさ…」
洗濯機の上に置かれたままだったカツラを手に取って説明する。
するとどうだろう、俺の手にあるそれを凝視し続けたまま、彼女の動きが止まった。
「柚ちゃん?」
「け、毛羽毛現!?」
…また妙な事いい始めたぞ、この小娘。
「…それは何?」
「さては妖気にあてられて引き付けられたのね!?便所に出ると言われる髪の毛の束みたいな妖怪です!気をつけて、疫病を撒き散らす恐れがあるから!」
…オトメが便所とか言うなよ…。
というかコレがカツラだという事くらい気付いてるでしょ。
それともなにか、もしかして部長に俺をおちょくるように依頼されて来たとか…。
「あー、なんか盛り上がってるところ悪いけど、これはただのカツラだよ。女装させられた際に被せられただけだから…」
俺が冷静に説明してあげると、興奮して息を荒げていた柚ちゃんはだいぶ落ち着いてくれたみたいだ。
「…ふーふー。ふ、どうやらその通りみたい。でも用心するに越した事はありません!それとも茨木童子レベルの妖怪になれば魑魅魍魎なんて鼻にもかけないのですか?」
「…さっきからわけのわからない事ばっかり言って…。いい?俺の正体は人の子っ!マイマザーとマイファザーの愛の結晶が俺だからその茨木なんたらじゃありません!」
ついに言ってしまった…。
だがこれでいいのだ。ここで初対面に近い人との接し方を教えておかないと社会に出て後悔するのは彼女なのだから。
「えっ!?流れ星の結晶がパン工場の煙突に落下して、そこの釜から生まれたのがあなたなの!?」
「そんな愉快な出生秘密ねぇよ!だから俺は人間!歩くアンパンや妖怪なんかじゃないの!」
「そ、それじゃ死ぬ前に卵を口から吐き出して誕生したとか?」
「ちげぇし、俺はJr.じゃないし!水だけで生きていけて何ちゃって口笛が弱点な緑色の大魔王じゃないし!」
俺がはっきりというと彼女はシュンと落ち込んだように俯いた。
…少し言い過ぎたかな。
でもいきなり人を妖怪扱いするのは失礼に当たる行為なんだぜ、俺が広い心の持ち主だったから良かったものの…、もしアメリカだったら訴訟問題だかんな。
だけど落ち込彼女をみて俺の良心は痛むのは確かだ。
考えて見れば彼女はまだ中2、海外じゃもっとも多感な時期と言われる花の14歳じゃないか。プラグスーツを来て人造人間に乗っちゃったりしてる人達と同年代だ。そんな子にいきなり社会性を問うのは間違いだったな。
「あー、柚ちゃん。いきなり人を妖怪扱いするのは…」
「ム、ムラサキカガミ!」
うわぁい、忘れてたのに思い出しちゃったぁ!
そんな俺の一生に呪いをかけた柚ちゃんは両耳を塞いで、首を垂れている。
どうしてくれるんだ、こら、あと4年で忘れなきゃなんねぇじゃねぇか。
「き、聞きたくありません!茨木童子の虚言なんかに騙されませんから!私は私が思うように生きるんです!」
え〜、と。
なんかトリップしてるんですけど、この人。
さて、俺は彼女になんて声をかけるべきであろう、放置は出来ないし…。
あ、そうだ、一つだけあったじゃないか、妖怪好きの彼女に対処できる話題が。
「柚ちゃん、ひまむし入道って知ってる?」
これが俺が知る中でもっともコアな妖怪だ。
そして思った通り、柚ちゃんは妖怪ネタに敏感に反応した。
ゆっくりと耳につけていた手を放し答える。
「火間虫入道ですか?」
「うん」
そんな漢字書くなんて知らんかったが。
「あの仕事している人の妨害をすると言われる火間虫入道ですか?一説によると生前物臭だった人がなる妖怪とされている…」
「う、うん」
詳しい説明ありがとう。
「それでそれがどうかしたんですか?」
「あ〜」
何にも考えて無かった。
妖怪の事を質問したら詳しく返ってくるであろう事は予測してたけど、そっから先の事なんも決めて無かったよ。
会話を発展させるべきだよな。今、彼女機嫌良さそうだし…。
「か、楓が、さ…」
「お兄ちゃんが、なんです?」
「それだと思うんだよね」
取りあえず何時か思った事を伝えといた。
だってそうだろう、あの低血圧男は滅多な事じゃやる気をださないもの。
「…」
柚ちゃんはしばし無言になるとややあって、答えた。
「ち、違いますよ!お兄ちゃんは桂男です!」
「…かつらおとこ?楓カツラなの?」
まさか、あのサラサラヘアーにはそんな裏話が潜んでいようとは…。
カツラならいま俺の手の中にあるけど…、本当はあいつが装着すべきだったのか…。
「違います!そのカツラじゃありません!植物の桂です!桂男は月の住人で絶世の美男子なんですよ!楓にぃの事しじゃないですか!」
…うわぁ…。
…この子、ブラコンの梓ちゃんを超えた素質の持ち主だよ…、
まぁ、何も言うまい。
「こ、この話は止めにしようか!」
妹さんの口から楓のイケメン自慢をされるのはたまったもんじゃない、俺がしてほしいのは楓の失敗談の方だ。
「むぅ、そうですか?なんの話するんです?」
不服そうに頬を膨らませる柚ちゃん。
とても可愛らしい。
…というより話す内容なんてないぞ。どうすっか…。
「ヨ、ヨーカ○ザー、ヨーカ○ザー、ドウドゥドゥドゥ」
口ずさむメロディー。
懐かしの万歩計である。
「…?なんですか、それ?」
残念彼女とは世代が違ったようだ。
誰かこの電波ちゃんにプレゼントしてあげて。出来ればユウキドウ、何故なら俺がカイキドウだから。
「これくらい知っとかないと妖怪マニアは名乗れないよ!」
「な、名乗ってません!好きなだけです!」
「流行ったんだけどなぁ」
「もうなんの話ですか…」
ヨーカ○ザーの話である。
「え、じゃあ、妖怪け○りとかも知らない?」
懐かしの玩具第二段。
昔は駄菓子屋かなんかでも売っていたコレは知ってるだろうか?
「知りません」
首を軽く捻りながら答えてくれた。
「こう指にねばねばつけて、、指同士をつけたり放したりするとけむりがモアってあがるってやつなんだけど…」
「全然わからないです」
「こ、これも知らないの?じゃあ、不思議な生き物モーラは?」
「なんですかソレ?」
「シーモンキー!」
「存知ません」
「アントリウム!」
「さぁ」
「ろく木!ほら体育館にある木製の梯子」
「そんなものないです」
「ロケット鉛筆!」
「鉛筆が…ロケット?」
「十段式筆箱!」
「筆箱?」
その後、こういうちょっと懐かしいものの名前を羅列していったけれど彼女が知っているものは無かった。
ああ、悲しきかな。これがジェネレーションギャップというやつか…、たった2歳差でこうなのだから世のお父さん達は娘と会話出来るのだろうか…。
「な、何にも、し、知らないんだね」
息も絶え絶えに、そう言った。
「う、うるさいです!ムラサキカガミ!」
ああ、折角忘れてたのにぃ!