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新キャラが多い15話ですが、残念な事に彼女(彼)達に再登場の機会はありません←死亡通告。
もし再登場を望むなら、登場人物の気持ちになってコメント欄にワッフルワッフルと入力してください(笑)
街灯が少ないからか漆黒の闇が町を完全に包みきっている。
20時。
南半球でもない極東の島国の冬ではこの時刻は完全に夜である。
「気をつけてね」
「いってらっしゃーい」
桜さんと椿ちゃんに見送られて、俺達娯楽ラ部一行は楓の家を出た。
こんな時間にクラブのみんなと一緒にいるのは初めての経験なので少しだけ気分が昂揚している。星を見る、という事に関してのわくわくというよりも夜更かしをする子供みたいな気分だ。
ぼんやりと暗闇に染まった俺達娯楽ラ部一同はそのまま楓宅を離れて、テクテクと遠足のように二列に連なって歩き出した。先頭は天体望遠鏡を担いだ楓と芳生で一番後ろは引率の山本先生ただ一人である。
ちらりと振り向いて五十崎邸見る。
あの中には強力なキャラクター達が潜んでいるのだ。
俺は扉が閉まる事により明かりが完全になくなった玄関を見ながら桜さん達姉妹について考えた。
あの木ヘン姉妹め。
よくも俺を振り回してくれたものだ。落ち着いて風呂に入れなかったのが心残りである。
はぁ、湯加減は最高だったのになぁ。
入る前は梓ちゃんがブラコンを。
入浴中は桜さんがイタズラを。
出た後は柚ちゃんがよくわからん事を。
せわし過ぎて逆に疲れた…。
「どれくらいの距離なんですか?」
俺とは違いくつろいで風呂に入った美影が、先頭を歩く楓に聞いた。
風呂上がりの美影の髪から発せられるシャンプーの香りに惚けてしまいそうになる。俺ってひょっとして匂いフェチなのかな…。
「そうだな…、チャリだと10分だが…。どうだろう、徒歩だと20分弱くらいかな」
「結構かかりますね」
「そうか?自転車で40分かかる登校にくらべたら軽いもんだろ」
「あれ?楓さんって自転車通学なんですか?」
「そうだが…、知らなかったのか?」
よくよく考えてみれば俺も初耳である。確かに駅で楓と会った事は今まで無かったけど。
今までの俺もよく疑問に思わなかったな。
「でもお前芳生と同じ学区内なんじゃ無かったっけ?」
「そうだが…、それがどうかしたか?」
「芳生が電車通学なのにお前はなんでチャリ通なんだ?」
確か俺の経由駅の2駅後が芳生がいつも利用している駅のハズだ。
芳生と同じ地域に住んでいるのなら電車通学になるはずだろう。
「定期代がバカになんないからに決まってる」
「そんなにしないだろ?芳生一か月定期いくらだよ?」
「んー、四千円はしなかったと思うけど」
それくらいならまだ許容範囲だろ。
俺なんて乗換えもあるから五千円くらいかかるぞ、…まあ、親が出してくれてるから俺個人の金銭問題には発展しないが。
「それくらいなら電車にすればいいじゃん。朝からチャリはダルくね?しかも40分とか地獄じゃん」
「一銭を笑うものは一銭に泣くんだ。それに早起きは3文の得というだろ、金が貰えるのなら太陽より早く起きるのも辛くない」
「何時に起きてんだよ…」
「4時50分」
「…」
沈黙。
ざっざっざっ、と軍隊のように一律な足音が畔道に響く。
楓の家の近所は随分と田舎だ。さっきの町はゴーストタウンって感じだったけど今度は田んぼである。
この時期は田んぼの蛙さんは冬眠してるのかな。
「…なぜ黙る?」
口を閉ざして無言で前に進む俺たちに楓が問いた。
それは、
…驚いたからだ。
「…そんなに早く起きてるの?」
芳生もびっくりしているようだ。
太陽より早起きと言う時点で俺には理解出来ない…今のこの時期ならそれこそまだお星様がキラキラしてるんじゃないか。
「早く起きて何がしたいんだよ」
理解不能を理解可能にして貰うべく質問させてもらった。
「朝早く起きて、テレビでどっかの大学の名誉教授の話を聞くのが習慣なんだ」
「…なにその暗い趣味」
その番組の視聴率は間違いなく底辺に近いに違いないだろう、というか電波テスト用の番組ではないのか。
「黙れ。俺の朝はそれから始まるのだ」
楓はそういうとあくびを一つした。
コイツ、マジで高校生か?
どんだけ達観してんだよ。
「朝からツマらん話を聞いてたら眠くなりそうだけどな」
「つらなくない。面白いぞ。一度見てみろ、絶対ハマるから」
絶対ハマらない自信がある。そもそも朝の5分は日常の30分の価値があると言っても過言ではあるまい。そんな貴重な睡眠時間を削ってまで見てみようと思える番組でない。
ゴールデンタイムにやっていたとしても、絶対に見ないだろう。
「大体三文の得とか言っても実際は貰えるわけじゃないしな」
やってる番組がそれしかなく無かったら、テレビを消すね。ストップ温暖化ちゅうことで。
「三文というのは、当時の蕎麦の値段から考えると、大体45円くらいだそうだぞ。45円となると一週間で315円。あの方の話はそれだけ払っても聞く価値がある」
「お前、…宗教家みたいになってるな…」
外で宗教と政治の話はするな、って、ばあちゃんが言ってた。
「いやはや、一度見ればお前も分かってくれるに違いないのにな…残念だ」
そう呟くと楓は口を閉ざした。
そのまま誰も口を開く事なく、列となって進んでいく。
まさに模範となる陣形である。
広がって歩くな!と注意をする先生に見せてやりたいくらいだ。
ざっざっざっ
誰も何も話す事なく、足音だけをたてて進んでいく。
客観視すれば、不気味な光景である。
でも仕方無いのだ、話す話題がないのだから。
「…」
誰か何か話をふってくれないだろうか。
ほら、和水!いつものバカをみせてくれ!
芳生!エアブレイクはこういう時に使うんだぞ!
俺の心の中とは相反して、みんなの唇はこの寒さで凍り付いたのではないかと疑ってしまうほど、開かれる事は無かった。
「かぁー、さみぃ」
そんな重たい沈黙を破ったのは山本(先生)だった。
以外だ、まさか彼が救世主になるとは!
「さみぃさみぃ!」
冬は何も言うことがないときは取りあえずそう言っとくよね。
夏は
「あちぃ」で冬は
「さみぃ」が会話の火付け役になるわけだ。
「こんな事なら家でぬくぬくしとけば良かったぜぇ」
「…」
だけど、一見便利な火付け役に見える
「さみぃ」と
「あちぃ」だがそれ以上会話が発展しないという罠があるのだ。
みんなそれが分かっているのであろう、無反応で歩みを進める。
「もっと厚着してくりゃ良かったなぁ…」
山本(先生)は誰にも返事をしてもらう事なく、独り言を言ってるみたいになっていた。
無視しているとか、ではなく、純粋に年齢からの敬遠、というのもあるのだろう。
「あー、さみぃさみぃ。東北じゃ方言でしばれるっていうらしいけどまさにそれだな」
「…」
誰か反応してあげてよ。
聞いてられないわ。
「あー、寒い…」
「…」
不憫だ。
これ以上は耐えられそうに無かったので俺が答えてあげた。
「そうですね…」
「ああ…」
「…」
答えたんだからもっと何か返せよ!
共倒れみたいになってんじゃねぇか。
「あー、帰りてぇ」
「先生は天体観測したくないんですか?」
帰宅を志願した先生に美影が寂しそうに尋ねた。
どうやら微妙に会話が発展しそうである。
「したくない、というか、今の時期流行んないだろ、寒いし」
「こういう寒さも一興というか、…よくありませんか?」
「わからんでもないが、…寒すぎると人は死ぬんだぞ、この気温ならコロっと逝けるだろうし。それを考え…、というか感じていると暖かい家がどれだけ幸せに思えるか、という話だ」
「そうですねぇ、確かに寒いのきついかもしれないです」
「そうだろ?だから家に戻ってコタツでぬくぬくと明○家サンタが一番いいんだって、例年通り!」
最後の一行にかなり哀愁が漂う。
「そんなに言うなら帰ればいいだろ」
不機嫌そうに楓がいった。
提案者じゃないにせよプランを組んだものとしては文句を言われるのが気に食わないのだろう。
一瞬にして田んぼの真ん中は険悪なムードに包まれる。
…なんか今日はこういうのが多いな。
「ふ、ふん!楓め、何を偉そうに斜に構えとるか!お前だって本当はこっち側の人間だろう!」
こっち側=今回の合宿に乗り気じゃない人。
俺は静かに心の中で挙手した。…といっても実際そこまでつまらなくはないし、折角のクリスマスをロンリーで過ごすよりは100倍はましだろう。
家族と一緒にケーキも悪くないけど。
「まあ、そうだが…」
「ならば俺の気持ちもわかるはずだ!クリスマスにガキのお守りをする羽目になった哀れな一教師の気持ちがな!俺の恋人も悲しがってたぜ!」
最後の一文は言うまでもなく嘘である。
あなたに恋人がいるのならば、全世界の人にいる計算になってしまうのです。
無論美影と俺の関係も、先生の前だけの限定恋人から普通の恋人のかんけ…、い、いや、想像は虚しくなるだけだな。
「ガキとは失礼ね!」
そんな山本(先生)の発言に反応したのは、楓ではなく和水だった。
君、こういう話題好きだよね。
「い、いや和水違うんだ!お前が一番の俺の嫁候補であって…」
「そんな話してないわよ!人をガキ扱いは失礼、って話をしてるの!」
「だから安心しろって!俺はいつでも婿入りしてやるから!今日お前の家に行ってその気持ちはさらに盤石な物となったぞ!」
最低な人間だなオイ。
というか二人の会話が噛み合っていないぞ。
「人の話を聞きなさい!」
どっちが先生かわからなくなってきた。
「なぁに、両親の説得なら任せとけ!前述の通り俺は父母の皆さんと仲良くなるのは得意なんだ!」
「くぉのぉ〜、聞きなさいってばぁ!」
ついにキレた。
和水の特技、暴走が奪われたからであろうか。
「人の話を聞かないなんて最低の屑ね!教師の風上にも置けないわ!便利に吐き溜められたタンカスみたいな存在のくせに!」
オトメが便所って言うな(本日二回目)。
「むぅ、言ってくれるじゃないか、教師にそんな言葉を吐くとは…、第一俺は国語の教師だぞ、痴話喧嘩の語彙も俺には豊富に…」
自分で痴話喧嘩って言ってる事態で違う気がする。
「あーら、どこからか豚の断末魔みたいな実に不気味な声がするわ。まるで発砲スチロールを擦り合わせた音のような…、人を不快にさせるのが特技みたいな感じね」
「く、くか、く」
ボキャブラリーがカ行だけになってるぞ。
「髪の毛が冬の柳にみたいに貧相になってきてるからイライラしてそんな特技が発現しちゃったのね、きっと!」
え?
ちらりと山本(先生)の頭髪を見てみる。
ばっ、と慌てて覆い隠した彼の頭皮から覗かれる髪の毛は別段気にするほどではないが、…少しつむじが見えるかな、こんなに暗闇でも。
「はげてねぇ!だとしてもこれは仕事上のストレスだ!」
「いっちょ前にストレスなんて溜め込んでんの!?そういうのはバリバリ仕事が出来る人がする事よ!あなたの仕事って、心臓を動かすことじゃない、ストレスを溜め込みたくないなら今すぐ停止させなさいよ!」
「うっ、うわぁああぁん!」
遠回しに死ねと言われていつものように言い負ける先生。なんだかパターン化してきているな。
「帰ってやるぅ!」
「ああ、構いませんよ、別に費用かかってませんし」
先生の断末魔に答えるように部長が言った。
そうだよな、よくよく考えたら食費くらいしかかかって無いから部費も何も入らないんじゃ…。
そうなると必然、合宿を騙る為に必要だった山本は用無しになるわけで。
それを悟ったらしく、先生は最後に実に不穏な一言を残して走りさってしまった。
「楓の義理の兄になっても知らないからな!うわぁぁぁぁん」
「え?」
山本が暗闇に紛れていった方向から
「楓ん家にいるからぁ」と大声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待て山本!帰るってウチにか!桜ねぇに手ぇ出すな!」
楓は普段の彼からは考えられない慌てっぷりで山本に叫んでいた。
…素晴らしい家族愛だな。
そうかお前はシスコンか。




