秘密6
案の定、デートだと思われている。
何で居るのよバカ朗!と心で繰り返す。
「アンタこそ何やってるのよ、貧乏人のくせに」
つい、意地悪を言ってしまう…。
「無料券貰ったんだ」
と朗は嬉しそうに答えた。
チッ、誰だよ!余計な事するのは!と券をあげた相手を逆恨みする。
「結構面白かったぞ」
「もう観たの?」
「うん、帰ろうとしたら晴彦を見つけてさ。じゃ、俺、人待たせてるから」
と華の横を通り過ぎた。
朗が向かう先には凛が居た。
「あの子…」
ロジックで朗に仕事を依頼してきた女の子…
どうして?何で一緒に居るの?…華は途端に不安になる。
「華ちゃん、始まるよ座って!」
晴彦の声で我に返ると慌てて座席に座る。
いつの間にか場内は薄暗くなり、スクリーンに予告映画が流れていた。
もう、映画なんてどうでもいい。今すぐに朗の後を追い掛けたかった。
◆◆◆
『崇、さっきの女の子可愛かったね。名前くらい聞けば良かったのに』
映画館を出て、ウォンと崇はあてもなく歩いていた。
『名前なら知ってるよ』
『えっ?いつの間に?』
『通訳している人の娘だよ』
崇は写真で華の顔を覚えており、華と知ってて助けたのだ。
『前に食事しようって言われた?あんなに美人なら断るのもったいないよ』
『バカ!それよりショックだったんだろ?凛の彼氏見てさ、さっきからワザと話題をずらしてる』
時間をずらしたのに凛と朗と会ってしまった。もちろん向こうは気付いてはいない
『チェッ、かっこよかったな凛の彼氏』
朗を見たウォンの感想だった。可愛い彼女に似合う長身の男前の彼氏…見た瞬間から、落ち込んだ。
『凛、見る目ないよな…ウォンの方がカッコイイのに』
崇は慰めるようにウォンの背中を叩いた。
『本当、見る目ないよ。崇の方がカッコイイのに』
『バカ、何言って…』
どんな顔していいのか分からない崇は思わず、顔を反らした。
『あっ、俺、約束あったんだ』
ウォンは思い出したように立ち止まる。
『飯食わないの?』
『うん。ごめん、後で連絡する』
と手を振ると来た方向へ戻って行った。
暫く歩くとクラクションと共に、『崇』と名前を呼ばれた。
崇の近くに車が横付けされ顔を出したのはエディだった。
『エディ、約束してましたっけ?』
崇はひょっとして約束してたのを忘れてたんじゃないかと少し不安になった。
『違うよ、走ってたら君を見かけてね、乗りなさい』
とエディはドアを開けた。
『でも…』
崇は躊躇する。
『早く乗って、後ろの車がイライラしている』
そう言われ、崇は仕方なく車に乗り込んだ。
『この前、ランチをおごりそこねてただろ?お昼はもう食べた?』
そう言いながらエディは車を走らせる。
『まだ…です』
『じゃぁ、決まり』
とエディは左斜線へ入る。
『あれ?そっち何かありましたっけ?』
車は建物が少ない道路へと走っていく、
『あるよ病院』
『はっ?』
『行ってないだろ、病院』
エディはチラッと崇に視線を向けた。
やられた…崇はうかつにも車に乗ってしまった事を後悔した。
『騙したんですか?俺を見かけたのも嘘ですか?』
崇は一気に不機嫌そうな声になった。
『嘘じゃないよ、君を病院に連れていこうと車を走らせてたら、友達と歩く君を偶然に見つけた、見たかぎり、病院に行ったような様子が無かったから声をかけたんだ』
『そう言う事なら降ります』
崇はシートベルトを外そうと手をかける。
『そうはいかない!君は具合が悪くても隠す癖があるようだし、もし、また倒れたら?』
『貴方には関係ないじゃないですか?昨日は確かに迷惑かけましたけど』
それは本当に申し訳ないと思っていた。
『あるよ。関係ある!君を雇ってる、だったら私は君のボスだよね?クビになりたくなかったら大人しく病院へ付き合いなさい』
内容はキツイものだったが口調が優しく、怒ると言うより、心配してくれていると伝わって来た。
崇は観念した。
◆◆◆
「華ちゃん、華ちゃん?」
「えっ?」
名前を強く呼ばれ、華は顔を上げた。
「聞いて無かったでしょ?俺の話」
晴彦はため息をつく。
映画が終わり、二人で歩いていた。
「映画もあまり観て無かったし、誘わなかった方が良かった?」
華が朗を見た時に彼女が激しく動揺していたのに晴彦は気付いていた。
もちろん、華が朗を好きだと言う事も気付かないわけじゃない、知っていて気付かない振りをしていただけ…、朗が凛と映画館を一緒に出て行った時、華が凄く泣きそうな顔をしたのにも気付いていた。




