秘密5
『まっ、いっか。時間ずらせば逢わないだろうし』
『えっ?』
崇の言葉にウォンは焦る。
『今焦っただろ?』
崇はニヤニヤしている。
『焦ってないもん』
明らかに動揺しているウォンを置いて崇は奥の部屋へ着替えに行った。
◆◆◆
「凛、おはよう。」
ベンチに座っている彼女に朗は声をかける。
「おはよう、冷え込むって天気予報当たったね」
と二人が会話をする度に白い息が空気に消えて行く。
「やっと冬って感じがするね。今日、大丈夫だった?急に呼び出したりして」
「平気よ、嬉しかったし」
と凛が笑ってくれるので朗はホッとした。急に誘って悪かったかな?なんて後から思ったから。
「あれ?そういえば…凛って仕事何してるの?」
「言って無かったっけ?看護師よ。今日は夜勤だから昼間は空いてたの」
「看護師…不規則なんだ…ごめん、誘って悪かった?昨日も…」
「大丈夫よ、休みで予定無かったし…それより、映画が先?それともご飯食べる?」
「軽く食べて来たんだよね、凛は?」
「私も食べて来たの、じゃぁ…映画が先だね」
朗も賛成をし、歩き出す。
「あのさ、お兄さんは?」
「お兄ちゃん?まだ寝てたけど、何?」
「良かった…、ずっと帰って来てるんだね」
「うん、最近はずっとね。昨日なんて久しぶりに会話したもん」
「久しぶりってそんなに会話して無かったの?」
「うん、私が一方的に話して、向こうが適当に相槌打つって感じかな?メールもLINEもたまにしか返事返ってこないし、どうして返さないの?って聞いたら、忙しいから…だって言うんだよ!返事も打てない忙しさって意味わかんない!」
凛は話ながらに怒っている。
朗はそれを黙って聞いている。
「あっ、ごめん。一人で熱くなってるね」
黙って話を聞いていた朗に気付き、謝った。
「いや、大丈夫。…前にさ、フラれた彼女の話しただろ?」
「うん」
「俺も崇みたいな感じだった…彼女が一方的に話してたのに適当に相槌打ってる感じだったよ。返事は返してたけど、3回に一回だったかも…俺って冷たい?」
凛の話で、改めて過去の自分を思い出してみた…、崇みたいに上の空だったかも…なんて反省な気持ちが芽生えてくる。
「冷たいわね!それは」
凛が即答し、朗は更に反省するのだった。
彼女との思い出の中の自分がどれだけ酷い男か思い知らされる。
「最悪…」
朗は頭を抱える。
「反省してるならいいじゃない?お兄ちゃんは反省すらしないわよ」
と凛は朗を慰めてくれた。
◆◆◆
映画館は珍しく混んでいた。やはり人気がある映画なのだろう。
「俺、先に席を確保するよ」
晴彦は何が何でも座って観たかった、手とか触れるかも知れないし、一つのポップコーンを一緒に食べたり…、怖い場面で彼女が抱き着いてくるかも…色んな妄想が頭を過ぎる。
都会の映画館だったら事前にネットで席取ったり出来るのだろうが、何せ…田舎の小さな映画館。こうやって列ぶ他に席を取る手段は無い。
「じゃぁ、私が飲み物買ってくるね」
と華は販売機へ向かい、ジュースを2本買い、ポップコーンでも買おうかと売店を覗くが…後悔した。
小さな映画館の入口に沢山の人が居て、出るに出れなくなってしまったのだ。
「すみません、通ります。」
そう言ってもごった返した人込みの中じゃ身動きが取れない。
やっと空いたスペースに行こうとするが誰かに押され、倒れそうになる。
「大丈夫?」
男性の声と同時に腕が華を抱き止めた。
「すみません」
離れようとするが、身動きさえ取れない状態になった。
「すみません、通ります」
男性は大きな声で叫びながら、無理に人込みを押し退け、華を人込みから出してくれた。
「ジュース大丈夫?」
男性が笑いかける
「大丈夫です」
男性の笑顔に華は見とれてしまった。
「良かった、大事そうに抱えてたから」
素敵な笑顔…華は更に見とれてしまった。
『崇、ナンパしてるの?』
とウォンが顔を出した。
『バカ、違うよ』
華を助けたのは崇だった。
崇は華に手を振るとウォンと歩いて行った。
「しまった~、見とれてお礼言ってない」
と華は悔しがる。
ジュースを手に晴彦を探すと、彼が見覚えがある誰かと話をしていた。
「華ちゃん、こっち」
晴彦が気付いて、手招きをする。
会話していた誰かも華に気付いて振り向いた。
「朗…なんで」
華は焦ってしまった。
何で?何で朗がここに居るの?二人で映画見に来てたらデートだと誤解される…
「デートなんだって?」




