秘密4
「華は?」
いつもの怒鳴る声がしない店内は少し、寂しそうに見える。
「華ねぇ~デートなのよ」
マキコはワザとデートを強調した。
「へぇ~デート。物好きな奴も居たんだね~誰?俺も知ってる奴?」
少しは興味があるのか、カウンターに身を乗り出す。
「気になる?」
マキコはニヤリと笑う。
朗は力いっぱい頷く、気になるんじゃなく興味があった。
「マキコさん、いいんですか?華さん怒りますよ」
要が耳打ちする。
「いいの!」
とそれを無視し、
「晴彦君よ」
とばらした。
「え~っ、アイツ?」
と朗は驚いたように声が大きくなる。
「心配?」
マキコはワクワクしながら聞く。
「晴彦、説教されてなきゃいいけど」
「そっちの心配?華は?」
マキコは少し、ガッカリした。
「何で華?あ、上手く行くかどうかの心配?説教さえしなけりゃ大丈夫じゃない?」
「そう…」
マキコは何だかガッカリしたように見えた。
「朗、ご飯は?」
気を取り直したようにマキコは聞く。
「食べたよ、昨日も竜太朗さんちに泊まったから」
「そうなの?あっ、そうだ。朗、暇ならこれあげる」
とマキコはチケットを渡す。
「何これ?映画鑑賞券?タダで見れるの?」
朗はチケットをマジマジと見ている。
「商店街から貰ったのよ、もちろんタダで見れるわ…でも、期限は今日までなのよ」
言われた通り、期限日は今日までだった。
「マジ?貰っていいの?ありがとう…ねぇ、あと一枚ない?」
「あるわよ、竜太朗と行くの?」
とマキコはもう一枚渡す。
「ありがとうマキコさん」
朗は嬉しそうに店を出た。
「マキコさん…、何企んでるんですか?あの鑑賞券、今日…華さんが見に行ってる映画でしょ?」
要が聞く。
「世話が焼ける娘を持つと苦労するのよ」
とマキコはウインクする。
◆◆◆
「華ちゃん、ごめん」
晴彦が華を見つけ、走ってくる。
「おはよう晴彦君、謝らなくていいよ、遅刻じゃないもの」
華はクスクスと笑う。
待ち合わせの時間ピッタリだった。
「あ~、ちくしょう!」
晴彦は悔しがる。
「どうしたの?」
華はキョトンとする。
「俺が先に来て、大丈夫って言いたかったんだ」
とションボリとなった。
晴彦は待ち合わせ時間の4時間前には起きて、用意をしていた。
服だって前の晩から用意してたし、完璧だと思ってた…でも、何気に靴を見てみると用意した服装に合わない感じがして、変える事にした。
そしたら髪型が合わない、小物も…。
そうやっている内に時間が来てしまったのだ…。
無頓着の朗にはこの気持ちはわかるまい…。
「別にいいのに、ご飯食べて、映画観るだけじゃない?」
「そうだけど、気分的にさ」
と言って華を上から下まで見る。
いつもは後ろで縛っている髪を下ろして、軽くカールしてある。服も普段のジーンズにシャツの動きやすい服装ではなく、ニットの短いワンピースにニーハイのブーツ。淡い色のコートは彼女によく似合っており、モデルのようにとても綺麗だ。
晴彦は思わず、よしっ!と力が入る。
「先にご飯行く?」
華が歩き出す。
「待って華ちゃん!えっと、その…今日、凄く可愛い」
と晴彦は照れながらに言う。
「ありがとう。あまり気を使わなくていいのに」
「気を使ってんじゃなくて本当に綺麗だから言ってんの!」
と晴彦は力説する。
「ありがとう、今日の服初めて着たから不安だったの」
と可愛く照れ笑いをする華につい、見とれてしまう。
華も…自分と同じように着て行く服を選んだのかな?俺の為に…と勝手な妄想を頭ですると妙な希望が湧いて来る。
晴彦は絶対に良い日にしようと心に決めた。
◆◆◆
玄関のチャイムで目が覚めて、ドアを開けるとウォンが立っていた。
『おはよう崇。』
『おはよう、どうした?』
ウォンを中へ入れる。
『今日、休みだろ?俺も休みだからさ、あれ?凛は?』
とウォンは玄関で靴を脱ぎ、部屋へ上がる。
『残念ながら彼氏とデートだってさ。映画見に行った、お前、凛に幸せにって言ったくせに諦めて無かったのかよ』
崇はキッチンへ行くとコーヒーを作り、ウォンに渡す。
『ありがとう。別にそんなんじゃないし、映画って何?』
ウォンはコーヒーを受け取り、飲む。
崇が映画の題名を言うと
『えっ!俺も行きたい』
と飛び付いた。
『お前、後つける気か?』
『違うよ、純粋に映画が見たいだけ』
ウォンはそう言い切った。
『とか言って、本当は凛の彼氏見たいんだろ?』
『…ち、違うもん』
ウォンはうろたえている。




