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武装少女と吸血鬼  作者: 黒いの
3 吸血鬼は神の力に抗えるか
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6 手掛かり発見追及タイム

「何か、二人に共通するものがあるはずよ」

 涼子はそう言った。その言葉に、白刀は困ったように頭を掻く。

「って言っても、話を聞いてきた限り、接点はなさそうなんだよねぇ。無差別で襲ってるんじゃないの?」

 白刀の意見に、涼子は否定的な見解だった。

「本当に誰でもいいっていうなら、もっと事件が頻発していてもいいような気がするの。一週間も間隔があいたのは、標的を吟味しているんじゃないかと思うわけ。まあ、多少頻発してても、それでも私は無差別の犯行だとは考えないと思うけど」

「それって、どんなに無差別に見えてても、何か隠れた意図があるってこと?」

 小夜が問うと、涼子は五月に関わったという事件について少し触れた。

「最初は全然共通点が見えなかったんだけど、被害者たちは二人とも、同じ会社の妖怪だったの。で、犯人もその会社の妖怪だった」

「でも、愉快犯ってことはないかな?」

「周りはみんなただの家出だと思って、学校も警察も動いてない、生徒たちは無関心で怖がっているわけでもない……そんなの見て、愉快?」

 少し考えてみて、全然愉快ではなさそうだと思う。愉快犯というのは、周囲の人々が怖がって慌てふためくのを見て喜ぶような奴だ。この事件には、喜ぶべき要素が見当たらない。

「身代金目的の誘拐でもなさそうだし、志麻君は恨みを持たれる人でもない……ん、もしかして、そういうことも……?」

 言いながら何かに気づいたようで、涼子ははっと顔を上げた。

「五月の事件を思い出して気づいた……ねえ、志麻君は実は妖怪だったとかってある?」

「宗君が? いいえ、そんなことないと……」

 言いかけて、小夜は口を噤む。

「ごめん、やっぱり解らない」

「解らない?」

「宗君はそんなこと一言も言ってないけど……」

「十年以上一緒なんでしょ?」

「でも、その……私もずっと、隠してるから」

 放課後、宗平を呼び出して、今度こそ伝えようとした秘密。十年以上も隠し続けていた自分の正体。小夜はずっと、自分が妖怪であることを隠していたのだ。隠したまま、人間のふりをしたまま一緒にいた。小夜がそうなのだから、宗平もそうであることを否定できない。

「そういうことか……白刀、国木田さんが妖怪だったという情報は?」

「聞かなかったな、そういうの」

「高校生は、その、難しい年頃というか。正体がばれるとどうなるか解らないから、結構種族の情報についてはガードが固いと思う」

「そうなの? じゃあ、たとえば、クラスの中で誰が妖怪だとか、そういうのも全然?」

「知らない。ほんとに信頼できる人同士は、そういうのを明かしてるのかもしれないけど、クラス中にオープンになってることは……」

 言っていて、小夜は耳が痛くなった。胸がずきりと痛んだ。今、小夜は、自分は宗平を信頼できていないのだと、言ったようなものなのだ。

 「好き」が聞いてあきれる。小夜は重い溜息をつく。

 そんな小夜の複雑な心境を察したのか、涼子がぽんと肩を叩く。

「なかなか言えることじゃないわよ、そういうのって」

「そう、かな?」

「そうよ。人間、隠し事の一つや二つ、あるものよ。銀だって、私に隠してることがあるもの」

「白銀は人じゃないじゃん」

 との白刀の言には、

「言葉の綾よ」

 涼子は笑って応じた。

「まー、銀の隠し事なんかたかが知れてるっていうか、あいつは隠してるつもりらしいけど、バレバレっていうか」

 本人がいないのをいいことに涼子は言いたい放題に言ってにやにやしている。

「うん……うん、ありがと、涼子さん。ちょっと元気でた」

 こんなところで落ち込んではいられない。宗平が見つかったら絶対に告白するんだ、と小夜は決意を新たに拳を固める。

「さて、改めて二人の被害者の法則探しだけど。妖怪の件については保留として……中学が一緒だったとかは?」

 宗平の中学は小夜の中学でもあるが、国木田という先輩はいただろうか、と小夜は首をかしげる。すると、白刀が先に答えを出した。

「国木田薺は彩華第三中だって」

「あ、宗君は二中だよ」

「違ったかぁ……部活、は当然違うし。サッカーと美術じゃ、接点なさそ」

 宗平は中学でもサッカー部所属のサッカー小僧だった。国木田が中学時代にサッカー部のマネージャーだったというようなことでもなければ、会うことはないだろう。

「サッカー部、サッカー部……あ、解った」

 ぶつぶつ呟いていた涼子が、何か思いついたらしく手を打った。

「何が解ったの?」

「間宮隆の話。ずーっと違和感があったんだけど、それが何だか解った」

「ああ、そういえば、そんなこと言ってたね」

「細かい言い回しは忘れたけど、確か、私が『一緒の部活なんでしょ』って訊いたら、『サッカー部のことな』って念押したのよ。他に何があるんだよ、って話よ。そんなの言うまでもなくサッカー部でしょ、って思うんだけど」

「ああ、成程、確かに」

「間宮にとっては、『他』があったんじゃないか……つまり、二人は他にも同じ団体に入っていたんじゃないかってこと。この学校、兼部は?」

「アリ」

 だが、小夜は宗平がサッカー部以外にも部活に入っているとは聞いたことがない。

 しかし、小夜は涼子の話を聞いて、思いついたことがあった。

「あの、一昨日の昼休み、宗君と間宮君が先輩に呼び出されたって話があったよね」

「ええ、サッカー部の呼び出しだって?」

「私も最初はそう思ったんだけど……よくよく思い出してみると、あのとき宗君は『クラブの先輩の呼び出し』って言ったの」

「クラブ、か。高校ではあんまり聞かない言い回しね」

 クラブという名称を使うのは主に小学校で、中学高校は部活、大学ではサークルと呼ぶのが一般的だ。

「つまり……仮説、志麻君と間宮君は謎の団体『クラブ』に所属していた。しかも、そのことを周りに秘密にしている、ってとこかな」

「なんか、その団体ものすごく胡散臭そう」

 白刀の感想に、涼子は「同感」と呟いた。

「宗君が怪しげな団体に? まさか、宗教とか?」

「校内に怪しげな宗教団体がはびこっているなんて、にわかには信じがたいけれど、この学校ならさもありなん、ってところかな。とにかく、この件については放課後、間宮隆を問い詰める」

 そろそろ昼休みが終わりよ、と涼子が促すので、小夜はそわそわした気持ちを抱えたまま教室に急いで戻った。

 授業を聞きながら、小夜は間宮の背中をちらちらと見遣った。

 彼は何か知っているのだろうか、と。



 間宮は困惑と、若干迷惑そうに思っているような雰囲気を醸し出しつつ肩を竦めた。

「俺が話せることはもう何もないと思うんだけど」

 放課後、生徒たちが続々と部活に向かう中、無理を言って間宮を教室に引き留めた。間宮は昼に話をした時よりも険しい表情の涼子と、初めて会う白刀に戸惑っているようだった。

「時間は取らせない。聞きたいのは一つだけ、あなたと志麻君が一緒に入っていた『クラブ』について」

 涼子の口からその言葉が飛び出した瞬間、間宮は僅かに目を見開いた。しかしそれもほんの一瞬のことで、すぐに何事もなかったかのように曖昧な笑みを浮かべる。

「サッカー部のことなら、特に問題はなかったって言ったろう?」

「サッカー部じゃなくて、クラブのこと。あなたたちは何かのクラブに入っていて、それを周りには秘密にしている……そうでしょう?」

「なんのことだか解らないな」

「あら、そう」

 涼子はやけにあっさりと引き下がる。間宮の方も拍子抜けしている風だ。いったい何を考えているのだろう、もっと追及しなくていいのか、と小夜はもどかしい気持ちになる。

 すると涼子は後ろで待機していた白刀を振り返り、短く告げる。

「白刀、十秒」

「りょーかい」

 何のことだろうかと訝しく思っていると、唐突に小夜の視界が真っ暗になった。

「!? な、なに?」

「いーち、にー、さーん」

 すぐ後ろで白刀がカウントする声。白刀が後ろから手で目隠しをしているのだと、小夜は気づいた。

「あ、あの、白刀さん、これは……?」

「はーち、きゅー、じゅー」

 のんびり十秒数え終わると、白刀はすぐに手を離した。回復した視界で、小夜は白刀を振り返る。

「なんだったの?」

「なんでもないよ」

 白刀は無邪気に笑ってすっとぼける。

 釈然としないまま小夜は間宮に向き直る。と、なぜか間宮が青ざめて冷や汗をだらだらとかいていた。

「それで、あなたたちが入っていたというクラブのこと、教えてくれるかしら」

 涼子は先刻間宮が答えようとしなかった質問を繰り返した。今度は、間宮はこくこくと激しく頷いて、「話します、全部話します」と従順な態度をみせた。

 いったい目を塞がれている間に何があったのか。小夜は首をかしげるばかりである。

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