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武装少女と吸血鬼  作者: 黒いの
3 吸血鬼は神の力に抗えるか
26/51

4 正体不明の敵を追え

 さすがに今回は涼子も少し反省して、倒れた少女を居間に寝かせて、うちわをぱたぱたと仰いで風を送った。

「チャイム、全然聞こえなかった。タイミング最悪だったわね。次からは気をつける」

「依頼人かな。だが、目を覚ました瞬間とんぼ返りする可能性が高いな」

「同感ね。扉を開けた瞬間血飛沫飛ばしてくるって、どこのお化け屋敷よって話だわ」

「某遊園地の幽霊マンションよりタチ悪ぃな」

 少女は悪い夢でも見ているのか、うんうん唸っている。無理もない。史上最悪の気の失い方であったことは間違いないだろう。

「これ、彩華二高の制服ね」

 涼子が少女の装いを見て言う。紺色のプリーツスカート、半袖セーラーブラウスに赤いスカーフは、駅の近くにある彩華第二高校の夏服である。

「まだ放課後には早いけれど」

「授業さぼって来たのか? 不真面目なのか、よほど切羽詰まってるのか」

「後者だとしたら悪いことをしたわね」

「前者だとしても悪いことだがな」

 生産性のない会話をしていると、少女がひときわ大きく唸って、瞼をあげた。

「あ、起きた」

「こ、ここは……」

 少女は頭を抱えながら起き上がる。まだ意識がはっきりしないような危なっかしい目つきで、きょろきょろとあたりを見回す。

「なんだか、世にも恐ろしいものを見たような……」

「悪い夢を見たのね、可哀相に。あなたはうちの前で倒れていたのよ、きっと熱中症ね」

 心の底から心配しているような顔をして、涼子は悪質な嘘をついた。だが、白銀は何も言わない。本当のことを言っても誰一人幸せにはなれないと悟った。

「はあ、それはどうもご迷惑をおかけしました……」

「いいえ、いいのよ。それより、うちに何か用があったんじゃないかしら」

「あ! そうですそうです、思い出しました!」

 途端に少女は切羽詰まったような表情になって、

「ここ、妖怪のトラブルを解決してくれるんですよね? 話を聞いてください、大変なんです、失踪事件なんです!」

「失踪事件?」

 どうにも穏やかではなさそうなワードに、白銀は眉を寄せた。



「……つまり、学校の外に出た形跡はないのに、学校内のどこにもいない。生徒が忽然と姿を消した、と」

 白銀がまとめると、時雨小夜はこくこくと激しく頷いた。

「他に頼れる人がいなくて……なんとかなりませんか」

「お前は、これが妖怪の仕業だと思ってるのか」

「……決めつけてしまうのは申し訳ないとは思うんですけど、他に説明のしようがないですし」

「成程。確かに、不可解な話だ。家出で誤魔化していい話じゃない」

「そういうことができる妖に、心当たりがあるの?」

 涼子の問いに、白銀は白刀を見遣る。

「俺よりそいつの方が詳しいだろ」

 水を向けられた白刀は、少し考えてから口を開く。

「シンプルに考えるなら、単なる誘拐だよね。靴が残ってるっていうのは、学校から出た形跡がないというより、正確にいうなら自発的に出ていった形跡がないってことだよね。監視カメラがあるわけじゃないんでしょ?」

「はい」

「だったら、生徒を担いで掻っ攫っていった、というのも、なくはない。ただ、正面から堂々とこんなことしたら当然目立つ。ということは、姿を見えなくするなり、空を飛んでいくなり、そういう方法で誘拐したと考えられる。これはもう人間業じゃない。姿を消すっていうと、透明人間とか? 空を飛ぶくらいなら、割と誰でもできちゃうな。白銀だって、飛行まがいの跳躍ができるでしょ」

「まあ、五十メートル先くらいまでは」

「だよね。……で、もう一つ考えられる方向性は、ほんとに消しちゃった可能性。外部へ運搬したのではなく、その場で消しちゃう。物理法則まるっきり無視、次元を越えちゃうような具合。神隠しみたいな」

「黒幕は隠し神だと?」

「可能性はあると思う」

「結論として、犯人が何者かは解らないってわけ?」

「情報不足だね。でも、一つ確実なことが。消えた生徒の行方は、犯人を締め上げればすぐに解るってこと」

 単純明快な白刀の答えに、涼子は納得して頷いた。

「じゃ、その方向で行きましょ。昨日消えた志麻宗平君、それから、噂で消えたと言われている三年の女子生徒。この二人の延長線上に犯人はいるはずよ」

「どうやって調べる? 学校側がもみ消しに動いてるっていうなら、協力は仰げないぞ」

「任せなさい、素敵な作戦があります」

 涼子は自信満々に言うが、涼子の言う素敵な作戦が本当に素敵だったためしはない。白銀はあからさまに疑りの視線を向ける。涼子は「失礼ね」と頬を膨らませた。

「ちゃんと考えてあるわ。とっておきを、ね」

 不安でならない白銀だが、ひとまず涼子の「とっておき」とやらの、お手並み拝見である。


★★★


 翌日、校門前で待っていた涼子を見て、小夜は目を丸くした。涼子は彩華二高指定のセーラー服を着ていたのだ。どこからどう見ても高校生。

「涼子さん、どうしたんです、その格好」

 昨日言っていた作戦とはこれのことなのか。予想外のことに、小夜が驚いていると、涼子は楽しそうにくるりと回ってスカートを揺らした。

「やっぱり、高校で事件が起きたとくれば、潜入しないわけにはいかないでしょ、流れ的に」

「はあ、流れ、ですか」

「そうそう。教師が協力する気ゼロだっていうなら、生徒のふりして忍び込んで、生徒間の情報に頼るしかないもの」

「成程……他の二人は? 白銀さんと、白刀さん、でしたっけ」

「白刀にも制服着せて、すでに入らせてる。銀は目立つから留守番中。何か解ったら来てもらうことになってる」

 確かに、あの髪と瞳では目立ちすぎるだろう。それに、高校生と言い張るには大人びすぎた風貌だ。対して涼子と白刀は、制服を着せてしまえば高校生で通るくらいの、ほのかなあどけなさが残っている。

「こういうのってね、堂々としてれば割とばれないものなのよ。先生たちだって、千人近い生徒全員の顔を覚えているわけじゃないし。問題を起こさなければ名前を聞かれることもない」

「でも、授業中はどうするんですか。さすがに教室に忍び込むのは無理ですよね」

「授業が始まったら、見つからないように空き教室ででもこそこそしてるわ。私たちが動くのは主に休み時間と放課後。志麻君の友達にもいろいろ話を聞いてみたいし……その時は、うまく仲介してちょうだい」

「わ、解りました」

「じゃ、行きましょ。あと、敬語はナシで。一応、同級生の設定ね」

 涼子は小夜の手を引いて歩き出す。

 彼女なら何とかしてくれるかもしれない、という期待と、本当にうまくいくのだろうかという不安が半々に混じり合う。ともかく、今は涼子に頼るしかない。小夜は緊張の面持ちで、一年二組の教室に乗り込む。

 教室に入ると、真っ先に声をかけてきたのは雫だった。

「小夜さんっ」

「あ、雫ちゃん、おはよ……」

「志麻君、まだ見つかってないって聞いて……小夜さんのほうにも連絡ないんですか?」

「うん、全然」

「心配ですね……」

 雫は不安げな面持ちである。それから、小夜の隣に立つ見慣れない涼子に気づいて、怪訝そうな顔になる。小夜がどう説明したものかと戸惑っていると、涼子はさっと前に進み出て挨拶する。

「初めまして、私は涼子。小夜の従姉妹」

「え、小夜さん、同じ学校に従姉妹さんがいたんですか」

 初耳です、と雫は驚く。小夜も初耳である。しかし、涼子が雫に見えないように意味ありげなウィンクを寄越すので、慌てて話を合わせる。

「そうなの! 仲良しの従姉妹の涼子さんなの!」

「小夜の友達が行方不明だって聞いて。警察は動いてないんでしょう?」

「ええ、学校が大事にするのを避けているみたいです」

「実は、私の兄が探偵をやっていて、小夜の話を聞いて志麻君を探してくれるというの。それで、ちょうど私が同じ高校にいることだし、志麻君の友達から情報を集めておいてほしいと頼まれたというわけよ」

「そうなんですか!」

 次から次へと飛び出す涼子の嘘八百に、雫は素直に感動しているようだった。自分が嘘をついているわけではないのだが、小夜の方が心苦しくなってしまう。一方の涼子は罪悪感など微塵も感じていないような、頼りになるお姉さん的笑顔を浮かべている。

「あなた、志麻君のこと、何か知らないかしら。何かに悩んでいたとか、交友関係とか」

「私は、あまり詳しくないです。小夜さん以上のことは知らないと思います。小夜さんと志麻君が仲良さそうに話しているのを、見ていただけですし……」

「そう……」

「私より……同じサッカー部の間宮君とかのほうが、詳しいと思いますよ」

 あそこに座っている彼です、と雫が窓際の席を指す。何人かの男子に囲まれて談笑している少年だ。

「あの、志麻君のこと、どうかよろしくお願いします」

 雫はぺこりと頭を下げて、自分の席に戻って行った。

「いい友達ね」

 涼子が優しげに微笑んで感想を述べた。

「長瀬雫ちゃん。図書委員なんだけど、私、図書室で勉強することが多いから、それで結構仲良くなって」

 と説明してから、小夜は思い出して、少し恨めし気に涼子を睨む。

「それより、急に驚いちゃった。従姉妹だとか探偵だとか。あんまり急だから、私の方が驚いた」

「あはは、ごめんごめん。次からは予告する。……っと、そろそろ授業が始まるね」

 涼子が壁の時計を見上げる。あと五分ほどでチャイムが鳴る。

「昼休みにまた来る。間宮君と話ができるようにしておいて」

 そう言い残して、涼子はどこかへと去って行った。

 授業の間は身を隠しているという話だが、いったいどこへ行くつもりなのだろう。気にはなったが、追いかけるわけにもいかないので、小夜はひとまず、一限目の授業の準備を始めた。

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