これ絶対デートイベントだと思ったのに
今回は街探索回です!
レンはたぶん、
「ヒロインとお出かけイベントだ!」と思っています。
間違ってはいません。
ただし、
恋愛イベントの発生場所が自分ではないだけです。
「レンさん、今日空いてますか?」
翌朝。
宿の食堂で朝飯を食っていた俺は、
フィアのその一言でむせた。
「ごほっ……え?」
「ちょ、大丈夫ですか!?」
フィアが慌てて水を差し出してくる。
優しい。
天使か?
いや聖職者だから半分くらい天使かもしれない。
「だ、大丈夫……それで、空いてるって?」
「はい。ミアの装備を見に行きたくて」
……ミアの。
うん。
知ってた。
俺は静かに水を飲んだ。
「レンも来る?」
向こうの席でパンを齧っていたミアが言う。
「荷物持ちにちょうどいい」
「雑用係!?」
「力あるでしょ」
「まああるけど!」
でも誘われたのは事実。
これは実質お出かけイベント。
異世界ラブコメにおいて、
街探索回は超重要だ。
好感度が動く。
フラグが立つ。
俺は心の中で自分に言い聞かせた。
落ち着け。
焦るな。
ここで自然に距離を縮めるんだ。
そう、
主人公らしく。
⸻
中央通りは朝から賑わっていた。
露店。
武器屋。
香辛料の匂い。
異世界感がすごい。
「わぁ……」
フィアが目を輝かせる。
「このお店、可愛いですね!」
「ほんとだ」
アクセサリー屋だった。
小さな石のついたブレスレットや、
銀細工の髪飾りが並んでいる。
するとフィアが、
一つの髪留めを手に取った。
黒いリボン。
「ミア、これ似合いそう」
「……別にいらない」
「絶対似合うのに」
フィアが笑う。
ミアは少し嫌そうな顔をしながら、
完全には拒否しない。
その空気感が、
なんかもう。
長年付き合ってるカップルみたいだった。
「つけてみて?」
「……やだ」
「お願い」
「…………一回だけ」
折れた。
ミア折れた。
フィアには弱いんだなお前。
フィアは嬉しそうにミアの髪へ触れる。
黒髪をそっと耳にかけて、
リボンを結ぶ。
距離が近い。
いや近いなんてもんじゃない。
店主のおばちゃんまでニコニコしてる。
「お似合いだねぇ」
「っ……」
ミアが目を逸らした。
フィアは顔を赤くしてる。
俺、
完全に背景モブなんだけど。
「レンさん、どうですか?」
「え?」
「似合ってますか?」
不意に話を振られて、
俺は慌てた。
ミアはちらっとこちらを見る。
少しだけ緊張した顔。
……あ。
なんか今、
普通に可愛いと思った。
「に、似合ってると思う」
「……そう」
ミアは小さく呟く。
でも耳が赤かった。
その瞬間。
フィアがなぜか嬉しそうに笑った。
「よかったね、ミア」
「……うるさい」
なんなんだこの空気。
俺を通してイチャつくな。
その後も。
フィアがミアの服を選び、
ミアが無言で付き合い、
俺が荷物を持つ。
完全に構図がおかしい。
でも。
不思議と嫌じゃなかった。
むしろ。
二人が笑ってると、
なんか安心する。
その時。
フィアが急に足を止めた。
「あ……」
「どうした?」
視線の先。
ショーウィンドウに、
銀色のペアリングが並んでいた。
フィアがそれを見つめる。
ミアも黙って見ていた。
空気が変わる。
柔らかくて、
静かで。
俺だけがそこへ入れない感じ。
「……行こ、フィア」
ミアが先に歩き出す。
「え、う、うん!」
フィアは慌てて追いかけた。
俺は少し遅れて後ろを歩く。
なんだろう。
胸の奥が、
ちょっとだけ変な感じだった。
寂しいような。
でも、
綺麗なものを見たような。
そんな感覚。
「レン、遅い」
前からミアの声。
振り向くと、
フィアもこちらを見て笑っていた。
……まあ。
今はこれでいいか。
俺は小さく息を吐いて、
二人の後を追いかけた。
第5話ありがとうございました!
ついにレン、
“自分が入れない空気”を少しずつ感じ始めました。
でもこの子、
根がかなり優しいので、
二人が楽しそうだと普通に嬉しくなってしまいます。
そこがレンの良いところでもあり、
たぶん大変なところでもあります。
そして今回、
ミアがかなり分かりやすくフィアに弱かったですね。
完全に押し切られてました。
次回はまた冒険回!
三人パーティらしい戦闘も増えていきます




