蜘蛛より怖いもの、たぶん嫉妬
今回は蜘蛛回です。
つまりレン、
かなり大変です。
でも戦闘面では、
三人パーティがかなり完成されてきました。
あとミア、
今回ちょっと無自覚が危険です。
護衛任務当日。
空は曇っていた。
「なんか嫌な天気だな……」
俺は荷車の横を歩きながら呟く。
道は森沿い。
薄暗い。
静か。
そして嫌な予感しかしない。
「レンさん、もう怖がってます?」
フィアが苦笑する。
「怖がってませんー」
「声震えてる」
ミアが即答した。
「お前ほんと容赦ないな!?」
でもミアは少しだけ笑っていた。
最近、
かなり表情が柔らかい。
……まあ、
主にフィアがいる時だけど。
⸻
護衛は順調だった。
少なくとも最初は。
荷車はゆっくり街道を進み、
商人たちも落ち着いている。
「“三つ星の灯”かぁ」
護衛の一人が言った。
「最近ほんと名前聞くよな」
「黒髪剣士の子、強いもんな」
「あと聖職者の子可愛い」
「……」
ミアの機嫌がちょっと下がった。
分かりやす。
俺はちらっと横を見る。
フィアは困ったように笑っていた。
「いやでも風使いの兄ちゃんもいい動きするぞ」
「囮だけどな!」
「自分で言うな」
笑いが起きる。
悪くない空気だった。
その時。
ピタッ。
ミアが止まった。
「……静かすぎる」
空気が変わる。
森。
木々。
風。
何かいる。
「来る」
次の瞬間。
上から糸が降ってきた。
「うわっ!?」
白い糸が地面へ突き刺さる。
煙みたいに広がる粘着。
「《夜盗蜘蛛》!!」
商人が叫ぶ。
木の上。
巨大な黒蜘蛛が何匹も張り付いていた。
「多っ!?」
しかもデカい。
無理。
近づきたくない。
「レン、下がって」
「いや戦うけど!?」
「顔死んでる」
「蜘蛛嫌いなんだよ!!」
その瞬間。
一匹がフィアへ飛びかかった。
「フィア!」
ミアが動く。
速い。
一閃。
蜘蛛が真っ二つになる。
でも。
別方向からさらに二匹。
「っ……!」
ミアが舌打ちする。
数が多い。
まずい。
俺は風魔法で加速し、
蜘蛛の注意を引く。
「こっち来い!!」
蜘蛛が向きを変える。
よし。
囮性能高いって言われた成果だ。
嬉しくない。
その時。
「レン後ろ!」
フィアの声。
振り向く。
糸。
避けきれ――
「っ!」
ミアが割り込んだ。
糸がミアの腕へ絡みつく。
「ミア!?」
蜘蛛が牙を向ける。
まずい。
考える前に身体が動いた。
風加速。
剣を振る。
蜘蛛を吹き飛ばす。
「レン!」
「今切る!」
俺は糸を斬った。
ミアが自由になる。
その瞬間。
フィアの魔法が輝いた。
「二人とも下がって!」
白い光。
爆ぜる。
蜘蛛たちが怯む。
そこへ。
ミアが飛び込んだ。
「――っ!!」
黒い閃光。
一匹。
二匹。
三匹。
次々に蜘蛛が落ちる。
速い。
綺麗。
でも。
その顔、
なんかちょっと怖い。
戦闘終了後。
最後の蜘蛛が倒れ、
森が静かになる。
フィアが真っ先に駆け寄った。
「ミア!!」
「……平気」
「平気じゃない!」
フィアはミアの腕を掴む。
さっき糸が絡んだ場所。
赤く腫れていた。
「なんで庇ったの……!」
「フィアに当たる方が嫌だった」
さらっと言った。
さらっと。
フィアが真っ赤になる。
「そ、そういうこと普通に言わないで……!」
ミアは首を傾げている。
無自覚だこいつ。
かなり。
「レンさんも!」
「はい!?」
急にフィアがこっち向いた。
「無茶しすぎです!」
「いやでもミア危なかったし」
「それでも!」
フィアは怒った顔をしていた。
でも目が少し潤んでる。
……あ。
これ。
本気で怖かったやつだ。
ミアも静かにこちらを見る。
「……レン」
「ん?」
「ありがと」
一瞬。
言葉が止まる。
ミアが、
こんな真っ直ぐ礼言うの珍しい。
「……おう」
なんか照れる。
すると。
護衛の冒険者がぽつりと言った。
「お前らさ」
「?」
「もう家族みたいだな」
沈黙。
風が吹く。
フィアが顔を赤くする。
ミアは少し目を逸らした。
俺は。
なぜかその言葉を、
少し嬉しいと思ってしまった。
第15話ありがとうございました!
夜盗蜘蛛戦でした!
レンの「囮性能」が、
だんだん公式みたいになってきています。
でも今回、
ちゃんとレンがミアを助け返したんですよね。
今まで守られる側だったレンが、
自然に二人を守ろうと動けるようになってきました。
そして。
ミアの
「フィアに当たる方が嫌だった」
これ。
かなり重いです。
本人は無自覚です。
怖い。
あと最後の
「家族みたい」
という言葉。
恋愛だけじゃない、
三人の関係性を表す大事な一言だったりします。
次回、
護衛任務の夜。
少し静かで、
でもかなり距離が縮まる回になります。




