第1話 神は“かわいい”を創りたい
天界は、今日も無駄に荘厳だった。
雷鳴。光の柱。重厚な玉座。
そして、その中央に座るのは
創造神ゼルヴァグ。
「……“かわいい”とは、何だ」
世界の理を司る神が、今まさに詰まっていた。
「我は“究極のプリティー”を創る」
低く響く声。
スケールだけは壮大だった。
「だが定義が曖昧だ。ゆえに調査を命ずる」
呼ばれたのは、側近の大天使ラフィエル。
「はっ。直ちに調査いたします」
完璧な返事
ラフィエルは一切迷わなかった。
中身は丸投げだった。
ラフィエルは振り返る。
「……“かわいい”を調べよ」
部下の中天使に命じた。
中天使は一瞬だけ考えた。
「……“かわいい”を調べよ」
そのまま下に流した。
小天使たちは顔を見合わせた。
「え、具体的に何を?」
「とりあえず……現地調査?」
「現地ってどこ?」
「“かわいい”がある場所?」
「それどこ?」
結果。
「行けば分かる!」
という結論に至った。
こうして、天使たちは次々と下界へ放たれた。
完全にノープランである。
最初の天使が降り立ったのは、公園だった。
「……あれが“かわいい”か」
ベンチに座る子犬を発見。
尻尾をぶんぶん振っている。
「なるほど、振動が重要だな」
メモ:かわいい=揺れるもの
別の天使は、カフェに降りた。
「……あれが“かわいい”か」
パンケーキの上のクリーム。
「柔らかそうだ……」
メモ:かわいい=ふわふわ
また別の天使。
「……あれが“かわいい”か」
ぬいぐるみ売り場。
「目が大きい……」
メモ:かわいい=巨大な瞳
さらに別の天使。
「……あれが“かわいい”か」
スマホを見て笑う女子高生。
「……よく分からんが尊い」
メモ:かわいい=尊い(定義不能)
数時間後。
天界に、報告が集まった。
「なるほど」
ゼルヴァグは資料を見つめる。
そこにはこう書かれていた。
・揺れる
・ふわふわ
・目がでかい
・尊い(不明)
「……いけるな」
沈黙。
いけない。
創造開始。
ゴゴゴゴゴ……
空間が歪む。
現れたのは
巨大な目を持ち、ふわふわ浮遊しながら、常にぷるぷる震える謎の生命体だった。
沈黙。
「……どうだ」
神は少し誇らしげだった。
小天使が震えながら言う。
「全部合ってますけど、全部ズレてます」
ゼルヴァグは腕を組む。
宇宙の星が二、三個ほど弾けた。
「……つまり、“組み合わせ”が重要か」
再び、創造。
今度は慎重に。
少しずつ。
バランスを取りながら。
そして
一人の少女が、静かに生まれた。
黒髪で、少し寝ぐせがあって。
目は大きすぎず、小さすぎず。
どこか柔らかくて、放っておけない雰囲気。
完璧ではない。
でも、確かに“かわいい”。
「……どうだ」
神の声は、少しだけ小さかった。
ラフィエルは微笑む。
「はい。これは間違いなく“かわいい”です」
遠くで、小天使たちがこっそりガッツポーズしていた。
「尊いって書いといてよかったな」
「意味分かってないけどな」
神は静かに頷いた。
「ふむ……“かわいい”とは、奥深いな」
少女は、まだ何も知らない。
ただ、その存在だけで、少しだけ世界を優しくしていた。
そして
ゼルヴァグは、ぼそりと呟く。
「……次は“かっこいい”だな」
天使たちの悲鳴が、天界に響いた。




