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宝石掌編  作者: 石留 琴
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ブラッディショットアイオライト

それは代々祖母から孫へ、二代ごとに受け継がれるブローチだという。金メッキの安っぽい台座に収められた、ブラッドショットアイオライト。黒々としているようで光に透かせば血のような緋に見える中に、赤や水色、ピンク、白の雫がいくつもいくつも浮かんでいる。金魚が群れになって泳ぐように幾つもの光が列を成している。大地に重なる地層のように幾つもの光が互いを透かしあっている。台座はひどく安っぽくて下手すれば石すら安く見えてしまいそうなのに、アイオライトは優雅で華やかで高貴なまま。ただ見ているだけなら作り物に見えてきて、なんだか現実に存在するもののように思えない。けれど血が固まったような緋は鮮明な光を落としているし、尾鰭のような燐光は青、ピンク、オレンジを撒き散らして揺蕩っている。本当にそれが血の涙の集まりのようで、誰かの感情の欠片が血溜まりの中で思っているように見えるのだ。血という濁り切った小さな水溜りの中で、互いに競い合うほど鮮やかな光の千切れ達が走って揺られて笑っているのだ。祖母が言うには、これは涙が石に光を灯してきた。ブラッドショットアイオライトの可愛らしくも毒々しい光は、全て代々の持ち主である乙女が、血涙を流して装ってきた。そういう夢のような曰くがあって、祖母もつい最近まで光を灯してきたのだと。本当かしら。


『ええ、本当よ!私は私に縋ってきた乙女達みんな憶えているもの!』


例えばどんな涙がこの石の輝きの糧になったのだろう。赤色は嫉妬、青色は悲しみ、ピンクは情愛で、オレンジは嬉し涙。鮮やかで柔らかい人工的な色達とは違う、温もりを感じない白色は何の涙が降り積もってだろうか。自然の中で閉じ込められていた、血を固めながら地中に蹲っていたこのアイオライトの涙かも知れない。あるいは、天井から降り注ぐ電球の涙かも知れない。とにかく人の心なんてわからないような、道具や大地が溢れるままに注いだ涙。それが全ての色彩を塗りつぶして乗っ取って、きらり、きらりと表面を軽やかに滑っていく。太陽光に照らされた水面と、白電球に晒されたブラッディショットアイオライトと、どちらがあつくつめたいのかしら。その下を泳ぐ魚と燐光と、どちらがより楽しげに尾を振っているのかしら。感情がはち切れそうなほどの雫は、この石の表面を揺らすのかしら。


『ええ、ええ!さあ貴女の涙も頂戴な。私に乙女の涙を垂らして、私にまた一つ輝きを灯して頂戴な!』


ブラッディショットアイオライトが、台座の上で窮屈そうにしながらこちらへ指を伸ばす。身につけなさい、泣きなさいと誘ってくる。残酷なまでに思い血涙の石を襟に乗せて、何色にも姿形を変える燐光に目を焼かれて、やるせない気持ちの涙を流しなさいと囁いてくる。手元で小さな石が、きら、きらりと光っている。こびりついた血のように赤黒いアイオライトが、金魚のような透かしと光を表面いっぱいに遊ばせている。この石に涙を注いだならば、どれほど蠱惑的に艶めくのかしら。


『泣いてみなさいな。きちんと受け止めてあげるから、ほら、静かに苦しげに泣いてみなさいな』


アイオライトにだけなら、祖母も泣きついたというこの石にだけなら、泣きついても罰は当たらないだろうか。この石と同じほどの赤黒いこの気持ちも、きっと溶けて美しさの糧となるだろうか。それとも小さな小さな光になって、水面を覗き込んで見るようなチラつく光になって、自由に泳いで踊るだろうか。そうやってこの小さな石という世界の中で、何かから解き放たれて自由になってくれるだろうか。


『安心なさいな!私が一体何人の乙女を慰めてきたと思っているの?貴女のそのぐじゅぐしゅとした悔しさも、きっと私の一部になるわ』


それなら、それならば。どうか手放して楽になってもいいかしら。アイオライトの美しさの前に、正気を手放しても許されるかしら。

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