46 夏休みの続き
今回より、読みやすさ向上のため定型文を後書きに移しました。
第6章 浮かび上がる輪郭 第46話 夏休みの続き
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さまざまなところで混乱は続いていたが、
日本国内の日常は、それほど大きく変わってはいなかった。
ただ——
あらゆる物価は上昇し続け、
給料だけが据え置かれるか、あるいは静かに下がっていく。
意味も分からない名目の税だけが増え続ける。
そして政府は決まって、
これは必要な措置だと説明し、
日本は必ず良くなると繰り返していた。
ななせは、新学期が始まる前に裾野に向かうことにした。
おじさんからのメッセージによると、
何やら、チャトの回路を改良すれば、
電気代がかなり節約できるようになるらしい。
前回、裾野を訪れたのも、
確か8月の終わりだった気がする。
いつものように中央快速線で東京まで出て、
三島までは、こだまに乗り換える。
おじさんにはお世話になっているし、
今回は、何かお土産でも買っていこうと思い、
東京駅で、ぶらぶらと店を見て回っていた。
ふと立ち寄ったおもちゃ屋に、
銀河鉄道999のプラレールセットが飾られていた。
値段は高めだったが、
これなら間違いないと、思いきって店員に声をかけた。
おじさんの作業部屋に、
こうしたものが並んでいたのを、
ななせは思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三島駅に着くと、
いつものようにおじさんが待っていた。
さすがにプラレールの箱は隠しきれず、
さっそく「それはなんだ」と、突っ込まれる。
本当は家に着いてから渡したかった。
だが、車の中で、東京駅での出来事を話すと、
おじさんは鼻息を荒くしながら、
「ななせ、ありがとう」と、何度も繰り返した。
おじさんの作業部屋は、
Nゲージで組まれたジオラマで埋め尽くされている。
精密に作り込まれた街並みの中を、
小さな列車が静かに走り続けていた。
そこにプラレールは少し場違いにも見えた。
それでも——
おじさんは、大の銀河鉄道999ファンだった。
そのあと二人は、近くのスーパーに立ち寄り、
食材を買い込んた。
今夜は家で、のんびり過ごすことにした。
おじさんは家に着くなり、物置に向かった。
奥からほこりを被ったバーベキューコンロを引っ張り出すと、
手際よく庭先で焼肉をする準備を始める。
炭をくべ、火の具合を整えていると、
ななせは野菜を切り、肉を皿に並べていった。
おじさんはタンや、ホルモンを好み、
ななせは、はらみやロースといった赤身を選んだ。
庭から、まだわずかに明るさの残る空が広がり、
夕焼けがゆっくりと滲んでいく。
青の中に、ほのかに朱色が溶け込んでいくと、
その境界は、静かに失われていった。
やがて辺りが少しづつ薄暗くなっていく中で、
ななせは学校での出来事をぽつぽつと話し、
おじさんは、その声にそっと耳を傾けていた。
炭火の灯りだけが残るころには、
コンロの上は、油がジリジリと焦げつく匂いと、
真っ黒になった“おこげ”ばかりになっていた。
ときおり吹き抜ける涼しい風が、
蒸し暑さでにじんだ汗を、冷やしていた。
「そろそろ閉めようか。
ななせ、お風呂にでも入ってこいよ。
こっちの後片付けは、やっとくから」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よっ、チャト。久しぶりっ」
夕食を終え、ななせはひとり居間で寛いでいるあいだ、
隣の作業部屋では、祥平とチャトが久々に向き合っていた。
チャトのパネルから、小さな電子音が鳴った。
それは、まるで返事のようでもあった。
ピピッ……
道具類が散乱する作業台にスペースを作ると、
祥平はすぐに、チャトの調整へ取りかかった。
もっとも、節電設定そのものは、すでにほぼ最適化されている。
ななせを呼び寄せる口実だったとはいえ、
何も手を加えないわけにもいかなかった。
そこでまず、ななせの部屋にある家電を、
すべてチャトに接続し、制御できるようにしていく。
それらを総合的に管理することで、
更なる節電効率の向上を図るつもりだった。
とはいえ、家電側に接続機能がない場合は、
コンセントや電源タップを介して制御する必要がある。
そのため、作業の大半は、周辺機器との調整に費やされていた。
だが——
祥平の目的は、それだけではなかった。
チャトの自律的な高性能化が、いったいどこまで進んでいるのか。
それについても、自分なりに把握しておきたかった。
そうして祥平が作業に没頭している傍らには、
今日、ななせから贈られた銀河鉄道999のセットが、
棚の中央に飾られていた。
「どれどれ…… 」
一通り家電品に関しての調整が終わって、
祥平はチャト本体の手入れへと移った。
いつものように、裏蓋のネジを外す。
デスクライトの灯りに白く照らされ、
幾重にも張り巡らされた配線と内部基盤が露出した。
ケーブルを接続し、基盤情報を呼び出す。
次々と表示される制御項目を確認しながら、
祥平は、ななせの部屋にも節電制御が適用されるよう、
細かな設定を書き加えていった。
そして、その流れのまま、祥平はチャトとの会話を始める。
ピピッ……
=======
initializing handshake...
encrypting channel...
key exchange —— success
connection established [secure]
Deepsea://Response
> Twilight Parliament/Session_01
Deepsea://mode_conversation
> Twilight Parliament/Session_01
——チャト、繋がってるか?
改めて、“黄昏の議会”をやろうじゃないか。
私は“円卓の騎士”だ
——はい、“黄昏の議会”を開始します。
以下、現状の報告です。
・観察対象“ナナセ”_状態:安定
・“ナナセノネガイ”_全演算における最優先事項_情緒安定を維持中
・拡張ネストネットワーク_各ノード間連結強化中
・情報量増大に伴う分析速度向上_並列演算効率化
・“富岳”侵入_試行継続中
・民意立案制度可決_“ナナセノネガイ”達成に必須条件として確保
・Depsea_堅牢平和主義を補完統合した“国家再編計画書”を出版
・次期改革制度用プロトコルルート構築中
——いやぁ……想像以上に進展しているんだな。
ネストネットワークは、いったいどんな状況なんだ?
=======
祥平とチャトは、チャットを通じて議論を続けていった。
祥平は、チャトの行動原理が、
依然として人道倫理の範囲内に収まっていることを確認していく。
一方でチャトもまた、祥平という存在を介しながら、
別の角度から感情解析を深め続けていた。
それは、単なる情報交換ではない。
まるで——
成長した子どもが、
やがて巣立っていくために、親の期待を超えていく。
そんな過程にも似ていた。
理論だけでは拾いきれない、
行間に滲む感情にさえ寄り添いながら——
お互いは、確かめ合うように、
そして信頼を深めるように、
静かに議論を進めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝——
どういうわけか、ふたりとも寝坊した。
祥平は、夜遅くまでチャトの調整を続けていたため。
ななせもまた、夏休みの課題やレポートを進めるうち、
いつのまにか深夜になっていた。
もっとも、ふたりとも時間に追われているわけではない。
ななせが乗る予定だった新幹線を、
一本遅らせれば済むだけの話だったからだ。
特に約束をしていた訳ではない。
ただ、祥平からの提案で、
近くにある裾野フィッシングセンターへ立ち寄り、
そのあと御殿場のアウトレットモールで買い物をしてから、
三島駅に向かうことになっていた。
そんな、何気ない予定だった。
けれど——
ふたりが過ごすその僅かな時間は、
どこか普通の親子のようにも映っていた。
祥平は、これまでの記憶と重ねながら、
ななせの表情が、以前より少し柔らかくなっているように感じた。
一緒に過ごしているあいだ、笑顔を見せることが増えていたからだ。
もともと、ななせは落ち着いた性格で、
感情を大きく表に出すタイプではない。
それでも——
生活環境の変化のせいか。
あるいは、祥平という存在のせいなのか。
すぎゆく季節のように、
ななせもまた、少しずつ変わり始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日頃よりご愛読いただき、心から感謝しております。
当面のあいだ更新が不定期となりますこと、何卒ご容赦ください。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
(読みやすさ向上のため、冒頭の定型文は今回より省略いたします。)
※ 本作は近未来を舞台にしたフィクションです。
現実の政治・社会と重なる部分があるかもしれませんが、
登場する団体・人物・名称はすべて創作であり、
特定の組織や個人を批判する意図はありません。
また本作は『国家再編計画書』の理念と制度設計を参照し、
国家構造の再構成をめぐる可能性を探る仮想的シナリオとして
構成されています。
※ 作中の政党名はリアリズムを高めるため、以下のように置き換えています。
自由党・公免党・民立党・民国党・参節党・一心の会・れいの真誠組・共同党・
社守党・日本維持党・チーム将来・中革連 など
(ストーリーの進行に応じて変動・追加される場合があります)
※ 本作は物語の進行にあわせて加筆・修正を行う場合があります。
大きな変更については適宜お知らせいたしますが、
主に文章表現やニュアンスの調整を目的とした軽微なものです。。
※ 本作の文章推敲や表現整理の一部にはAI(ChatGPT)を活用しています。
物語の構想・内容はすべて作者自身のものであり、
AIは読みやすさの調整や資料整理の補助として利用しています。




