エティルーダの塔 ― キリムの帰還 ―
はじめまして。
本作をお読みいただきありがとうございます。
世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
エティルーダの塔。
それは都市国家イルージの全意思決定を担う、文字通りの中枢機関である。
万学を極めたエルダーたちによって統治され、レキシミリードと呼ばれる神政官も、彼らの中から任命されている。
他の都市国家でもエルダーは国家経営に関わる。
だが、すべてをエルダーのみで運営している都市は、イルージをおいて他にない。
そのため――
この塔は、単なる政治の場ではない。
都市そのものの意思が、形を持った場所。
そしてそこに集う者たちは、
民にとってはすでに“伝説”と呼ぶべき存在だった。
その頂に在るのが、ゼフリである。
最長老のエルダーにして、イエロネスーー黄の属性を宿すレキシミリード。
この塔に最も長く在り、イルージの意思そのものとまで称される人物であった。
そして、二十歳のゼルナ。
彼はイルージ歴代最年少のエルダーであり、
二十代でレキシミリードに就いた、ただ一人の存在だった。
若さゆえに異質であり、
異質であるがゆえに、
イルージでは誰もがその名を知っている。
だが――
その“異質さ”の本当の理由を知る者は、ほとんどいない。
白雷石でできている左右にカーブした階段を昇り、三人は高さ四エスタほどある白い扉をゆっくりと開けた。
一定間隔に、眩しく輝く黄色の宝石が灯されている。
三人はその光に導かれながら、大会議場へと続くホールを進んだ。
やがて右奥に見える、ユスランの彫刻がほどこされた白い扉。
それを開け、小部屋へと入っていく。
室内は静謐で、どこか張り詰めていた。
だが、その中心にいる者の笑みだけは、意外なほど人間味に満ちている。
三十エピほどある白い顎髭を撫でながら、エルダーの一人が体を捩り、満面の笑みを浮かべてキリムに話しかけた。
「おおっ~、キリム、よくぞ無事に帰ってきた。道中、さぞ苦労したであろうな。」
一際威厳に満ちたその声。
右手の中指にはめられたイエロネスの指輪――“ストーン”が、灯りを受けて静かに輝いている。
ゼフリである。
「ベルネはどのような状況であった?」
キリムは静かに一礼した。
「モナ・ゼフリ、お気遣いありがとうございます。」
その声には疲労がにじんでいたが、姿勢は乱れていない。
長旅を終えたばかりとは思えぬほど、落ち着いていた。
「ベルネは非常に治安も安定していて、都市は普段と変わらず活気がありました。交易もいつも通りで、物資も不足している様子はありません。」
黄金の長剣フルーグリッターの柄に左手をかけながら他のエルダーたちも見渡し、キリムは続けた。
彼の報告に、小部屋の空気はわずかに和らぐ。
「キャラバンを組んで、ベカリオンまで無事に物資の運搬も行うことができました。」
そこまでは、いつも通りの報告だった。
安堵しかけた者もいた。
だが。
キリムはそこで、ほんのわずかに言葉を切った。
「ただ――」
その一語だけで、場の空気が変わる……
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