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47 雲穿の迷宮①



 木の実で出来た宿に宿泊した翌日、俺達は迷宮へ向けて発った。

 空を飛べないアリアとティアの事を考えて荷虫車(カーゴクローラー)という馬の代わりに虫に台車を引かせる不思議な乗り物で迷宮へと向かう事になった。台車を引く芋虫(クローラー)は若葉色の大きな虫で、その短い足で牽いているとは思えないような快速で俺達を目的地へ運んでいく。滑るような速さでぐんぐんと周囲の景色が流れていく。


 タイタニアの居城の周囲を囲む森を抜け、草原をひた走る事数日。

 三日月型の不思議な湖とそれを囲むように林が立ち並ぶ場所に出た。

 カサネによるとここに件の迷宮があるそうだが、聞いていたような迷宮があるとは到底思えなかった。


 俺達が今回探索する事になっていた迷宮の名は「雲穿の迷宮」

 その名の通り雲を穿つ程の巨大な迷宮と聞いていたのだ。

 話が本当であれば既にその威容を窺える筈であり、今眼前に広がるようなこざっぱりとした風景が広がるのはおかしい。


 俺はその事について当然カサネに尋ねたが、カサネは曖昧の笑みを浮かべ「行けば分かるから」と答えるだけであった。


 実際に湖に近付いてみると妖精達が多く集っていた。

 手には杖のような物を持ち、まるで迫り来る何かからこの場所を守っているような。

 そんな空気を感じた。察するに神造の迷宮である雲穿の迷宮を守っている警備の兵といった所か。

 もしかしたら何らかの特殊な魔法によってここから移動する必要があるのかもしれない。


 荷虫車を降り、カサネに導かれて三日月型の湖の中心にあたる位置まで移動する。

 するとどうだろう。周囲の空間が移り変わり眼前に天高くまで続く巨木が現出する。

 恐らくは高度な結界を張る事によって周囲からその姿を隠蔽していたのだろう。

 巨木の地上に面した位置には大きな洞があり以前攻略した迷宮「餓獣の迷宮」を彷彿とさせる。

 ただし、規模は桁違いだ。洞が空いた木の大きさのスケールがまるで違う為洞の大きさも桁違いだ。

 巨人でさえ容易に足を踏み入れることが可能だろう。


 迷宮に潜る前に一人の妖精を紹介された。

 スーラと呼ばれたその妖精はここの迷宮を守護する隊長とも呼べる地位に当たる人物のようだ。

 カサネは俺たちと一緒に迷宮に潜る訳ではないし、俺達が迷宮から帰還するまで待つ訳にもいかない。

 彼女の仕事を変わっていた妖精の仕事を手伝う為に、俺達が迷宮に入ったのを見届けた後は彼女にしか出来ない仕事の為に帰還する必要があるそうだ。


 そうなると俺達は妖精の言葉を話せない為帰還した後に困ってしまう。

 そこで、このスーラという妖精が今後は通訳に当たる役割を引き継いでくれるようだ。


 スーラと二言三言挨拶を交わした後、スピカとライムの二人を彼女に預ける事になった。

 今まで俺達が迷宮に潜った際に魔物は彼女達妖精に何の興味も示さなかった。

 まるでそこに居る事を気付かないかのように。


 今までの迷宮ではそれで良かったのだが妖精の国に生息する魔物は妖精を知覚し襲ってくるそうなのだ。

 環境が変われば前提も変わる。妖精の国に築かれた迷宮なら妖精を認識出来てもおかしくない、むしろ知覚出来なければおかしいとさえ言えるだろう。でなければ妖精は侵入する事が可能な迷宮であれば何でもする事が出来るし、その地に眠るあらゆる恩恵を何の代償も無しに獲得する事が可能になってしまう。


「ここの標石(しるべいし)より先は許可が無ければ侵入できないわ。ここさえ通れれば迷宮に認められた事になるはずよ」


 俺達の膝丈程度の高さにまで地中から伸びたやや丸みを帯びた石柱。

 これが標石か。ここが迷宮と妖精の国の境界。ここから先は例え妖精達であろうと侵入を許されない最後の境界線となっているのだ。


 そのまま踏み越えようと考えたが、それでは不味い事に気付いた。

 何の工夫も無しに踏み越えようとすれば「俺だけ」越える事になってしまう。


『アリア、ティア。手を』


 二人に手を差し出ししっかりと繋ぐ。

 ふたりは手を繋ぐ意味がよく分かっていなそうだが、別に説明する必要性を感じなかったので無言で促す。そしてそのままゆっくりと標石で引かれた境界を跨ぎ侵入する。


「え? 神の加護も無いはずなのにどうやって?!」


「何はともあれ迷宮はあなた方を受け入れた。全ては神の意思であり我々の関知するところでは無いのです。さようならバル、また会いましょう」


『ああ、またな』


 驚愕するスーラ。

 神の意思であり我関せずと静かに挨拶をするカサネ。

 そして無邪気に手を振るスピカとライムに見送られながら迷宮へと一歩一歩近付いていく。


 スーラは神の加護が無いのに何故侵入出来たか驚いていたが、神の加護はとっくの昔に手の内にある。

 「アウロラの神秘盾」、俺がいつも背負っている重厚な盾には豊穣の女神の加護が与えられている。

 もっとも、その加護を実感した事は無いのだが。あるのが当たり前過ぎて気付いていないだけなのかもしれない。俺の信仰している神とは違うので常日頃から祈る事は出来ないが、この時ばかりはそっと盾を吊るす紐を握り締めながらささやかな祈りを捧げた。



[あんたって……迷宮に潜る以外にやる事ないの?]



 洞に入る直前に召喚した駄鮭(ドレッドノート)が呼び出した瞬間にぼやいた。

 なんて忠誠心に欠ける使い魔なのだろうか? 御主人様に会えて嬉しいですーとでも言いたげにアリアに頬ずりをしているホーくんの爪をその口にねじ込んでやりたい。だが文句を言いつつも洞の入り口にマーキングをしているので声を大にして批判したりはしない。仕事すらボイコットするようなら手間だが薬草採取の刑に処す動機が生まれるのだが……何だかんだで越えちゃいけないラインを見極めている所が非常に小賢しかった。


 そもそも以前紫氷竜の迷宮で離れてからそれなりの期間が空いている。

 俺達人間組はイーストエデンへの帰還がある為それほど間を空けていないが、迷宮の出入り口で送還したドレッドノートからすればそれなりにぼっちライフをエンジョイしていた筈なのだが。もしかして恋人でも出来たのだろうか? どこで繁殖しようが勝手だが海に帰ったり産卵した後絶命とかだけはしないで欲しい。目に映る範囲内でなら死んでもいいけど、治すから。


[何故かしら……悪寒がするわ]


『気のせいだろ、行くぞ』


 ドレッドノートのマーキングが済んだ事を入念に確認した後迷宮に侵入した。

 巨大な洞の中から迷宮外にまで漂う猛烈な緑の臭気に顔を歪めつつ入念に進んでいく。






 ──雲穿の迷宮。

 神命を受けた勇者がその使命を果たす為の力を得る為の試練の迷宮。

 数多の魔物が生息し、この地に足を踏み入れるにふさわしいかを常に問い掛けてくる。

 罠は基本的に存在しない。迷宮の作成意図にそぐわないからだ。

 この迷宮は勇者にふさわしい武力を備える為の迷宮だ。知恵を示す為の迷宮は他にあり、この迷宮ではその点について試される事は無い。


 通常、大迷宮と呼ばれる規模の迷宮は数十人規模の人数で侵入し最奥を目指す。

 しかし、この迷宮にそれほどの規模の人数が訪れる事はまずない。

 この地に訪れる登頂者の数は大抵が四人から六人。勇者には軍勢は必要とされない。

 同じ目的を共有した確固たる絆で結ばれた少人数を率いるのが普通であり、一種の伝統でもある。

 なので自然とこの迷宮が想定する登頂者も少数──六人以下の人数を想定されている。


 この迷宮の一階層毎の広さはそこまで広くは無い。

 その代わり高さがあるのだが。

 樹の中に築かれた入り組んだ迷路と、時には樹の外縁部に道が築かれそこを上る事になる。

 高い階層の外縁部に至ると、この大樹を避けるかのように雲が周囲を覆っている様子が見て取れる。

 この迷宮は迷宮であると同時に聖域でもある。その境界を侵犯する事は雲にすら許されていない。


 その様子を見る事が出来る限られた旅人は納得と共につぶやくのだ。

 ああ、確かにこの迷宮は「雲を穿(うが)った迷宮」であると。






 中規模以上の迷宮は十階層毎にその様子を変える。

 木目がはっきりと分かる一繋ぎの木で床や壁が築かれていたかと思えば。

 境界となる階層を越えると蔓が一面を覆いつくす階層に変わっている事もあった。

 それらの床や壁に共通するのは神造の迷宮に共通する特徴である未解文字(アート)が刻まれている点だけである。


 天井の高さ、道の幅も時折変化する。

 剣が振れないほどの狭さになる事は不思議と無かった。

 だが魔法で面を圧倒出来る程度には狭まる場合もあり、その際には決まって魔法を使う魔物が出た。


 出現する魔物は様々だ。

 不思議と虫と獣が多い印象だが人型もいるしゴーレム型も居る。

 竜種などはまだ目にしていないが、カサネから聞いた話だと竜を打ち倒したという記録も残っているのでどこかで戦う事にはなるだろう。


 因縁のある白カマキリに遭遇した時は瞬殺した。

 呪いの気配は一切しなかったし、体躯も遙かに小さかった。

 恐らくそれらの特徴は放浪個体として彷徨(さまよ)った過程で獲得した力なのだろう。


 俺達は十日と少しで六十階層まで踏破する事が出来た。

 紫氷竜の迷宮に比べると圧倒的なペースだ。


 だが、別に無理をして来た訳でもない。

 単純にここまでは魔物の格もそう高くなく、迷宮自体もそう広くなかった。

 感覚的には下手な小迷宮より難易度が低いとすら思えたほどだ。


 六十階層と六十一階層を繋ぐ階段で一度しっかりと休息日を挟んだ。

 本来はもう少し早めに休息を取る予定だったが、ふたりの様子を見るに余裕がありそうだったので後ろ倒しに旅程を変更した。その代わり少し長めに身体を休める予定だ。


 この迷宮は全てで百四十階層。

 つまり、もうじきこの迷宮の真ん中に当たる層に辿り着く筈だ。


 ここまでは順調過ぎるほど順調だ。

 怪我もポーションで治る程度の些細なものだ。


 理由は分からないが特にティアは調子が良い。

 真っ先に敵に突っ込み魔物の身体を両断していく。

 アリアも迷宮に急速に馴染みつつあるのか以前より隙が無い。

 時にはドレッドノートより早く敵に気付き彼女を壁にする。

 躊躇無く技術を持った味方に頼るのは間違いなく正解だと俺は思う。

 ホーくんも空を飛べる利点を生かし蝶や鳥型の魔物に対応している。

 蝶型の魔物をはじめとした空を飛ぶ小さな魔物というのは人間からするととても戦い辛い。

 なので、実は物凄く助かっていたりするのだ。


 階層間の階段で取った休息期間は丸三日。

 それぞれ思い思いに羽を伸ばした。

 紫氷竜の迷宮に居た際には別々にテントに篭ったり一人で出来る作業をしていた。

 だが、それではいけないと俺は考え、積極的に交流する事を心がけた。


 迷宮の攻略に急いでいる間には必要最低限の応答だけで済ます事が多かった。

 だが、それではメンバー感の信頼はそれほど深まらないだろう。

 より深く踏み込みたい、結束を強めたいと考えるなら自分から行動するのが道理だ。


 ティアとは主に剣技の話をした。

 俺が技能の取得に手間取っている話をしたら剣技の指導をして貰う事になった。

 普段から目を見張るような美しい剣を振るうと考えてはいたが、落ち着いて見るとその冴えは凄まじく自分の振るっている様とは隔絶した物を感じた。何というか動きに淀みが無く流れるように剣が振るわれるのだ。そして剣にばかり目が向きそうになるが体捌きも全く違う。模擬戦をしてみると全く剣を当てられない。こちらの剣の動きを読まれ、的確に剣を操り気付けば喉元に剣を突き立てられていた。身体的にはむしろ俺の方が勝っていた筈だ。それでもこの結果になるという事は、彼女にはそれを覆すだけの技巧があるのだ。


 アリアとは魔法に関しての話を多くした。

 俺が<増殖>の魔法について言及したのをきっかけに修行が始まってしまったが。

 アリア、というよりこの世界の魔法使いにとっては喉から手が出るほど欲しい魔法だろう。

 俺が詠唱文と魔力の動きを見せるとモノの数時間で模倣して見せた。

 ……確かに<増殖>は俺の居た世界の魔法使いにとっては基礎も基礎。

 最初に習うべき魔法のひとつではあるのだが、ここまで簡単に習得したとなると完全に神に愛されているレベルの才能があるのだろう。まだ無詠唱で息を吸うように行使する段階には至っていないが、使い込んでいけば彼女なら必ずその領域に至る筈だ。


 三日という期間はテントに篭って過ごすと案外長い期間ではあるが、仲間と交流しつつ過ごすとなると一瞬で過ぎ去ってしまう期間でもある。本当はホーくんとも少し接してみたかったが、迷宮の攻略には計画性が大事だ。ずるずると引き延ばすのは誰の為にもならない。気分を切り替え迷宮探索に戻った。



 七十階層を越えた辺りから、魔物は大型の種が多くなり取り巻きを引き連れている種がちらほらと現われ始めた。特に厄介なのが赤色の巨大蜂だ。九十階層から百階層まではこの魔物の縄張りであり、斥候役の蜂に見つかってしまうと階層中を追い掛け回される羽目になった。この蜂達は異常に手強かった。女王だと思われる巨大な蜂の指示で魔法の矢や槍を持った働き蜂が押し寄せてくる。魔法に対しての耐性を持っているのかアリアやドレッドノートの魔法でも時には耐えてしまうほどだ。全体を焼こうとすると身を挺して魔法の前に立ちはだかる働き蜂の壁で庇われてしまう。結局この区間を抜けるまでに一度も女王蜂を倒す事は出来なかった。今後あのような魔物と出会った際にはどうするか……次までには対策を練る必要を感じた。


 百階層からは巨獣が出てくる。

 そして毎回出会う魔物が違う為その都度対策を練る必要があった。

 ティア程度なら丸呑みに出来てしまいそうな枯葉色の大蛇。

 餓獣の迷宮の迷宮主であるホクレアにも匹敵する大きさの大狼。

 ギラつく大斧を握り締め静かにこちらを待ち受ける大牛人(タウロス)

 凶悪な呪いと毒を振り撒く巨体のカバ、黒瞳河馬(バグデビル)


 獣に類する魔物の多くは幸運剣の錆となった。

 幸運剣は依存するには危険だが出し惜しみするのもまた愚かだ。

 この区間ではその暴威を存分に発揮する事となった。


 百二十階層から百三十階層は特に語る事が無い。

 不死者と亡霊が相手だったが全部デカイだけで見掛け倒しの雑魚だった。


 百三十一階層からが本当の地獄だった。

 迷宮の作りとしては樹の中に築かれた迷路と外周に築かれた枝葉で編まれた区画を交互に攻略していくもので、それ自体は特に難解でもなく何の問題も無い。


 問題は出現する魔物だった。

 出会う魔物が全て竜種だったのだ。

 しかも翼竜を取り巻きとして従えていたり、中には自分より大きな竜を数匹従えている物もいた。

 この迷宮に来るまで知る由も無かった事だが竜は竜を呼ぶ。

 迷宮毎揺れているのではないかと錯覚するような咆哮をあげたかと思えば、それに応える様に迷宮の各地から咆哮が響き渡り竜が詰め掛けてくるのだ。


 ティアとアリア、そしてホーくんは何度か身体の一部を欠損するほどの大怪我に至った。

 片足を失い暴れ苦しむティアを治療するのは大変だった。

 以前ガバーム──冒険者ギルドフロンテラ支部のギルドマスターの両足を消し飛ばした事があったが、あれは痛みを知らない悪魔の所業だった。少し想像すれば肉体的欠損が如何なる絶望と苦しみを与えるかわかった筈なのだが。あの頃の俺は感覚がおかしかった。


 <揺り戻し>の奇跡を使えば肉体の部位欠損は瞬時に復元する事が出来る。

 だが、身体中に駆け巡った痛みや復元された肉体に身体が馴染むのは多少の時間が掛かってしまう。


 この区画は進んで、撤退して、頭を突き合わせながら相談して、失敗してを繰り返す事になった。

 攻略するのにも復元した身体に慣らすにも時間が掛かる。

 百三十四階層で吹雪竜と戦った辺りからだろうか?

 アリア達が欠損した肉体を補完した身体に馴染む速度が上がった。


 奇跡や魔法を行使する際、才能や経験の有無でその効果は大きく変化する。

 それと同様に奇跡や魔法を「行使される側」にも才能や経験の有無の差が存在する。

 アリアとティアはその経験を急速に積みつつあった。

 ただ、これは必ずしも良い事ではなくて、奇跡による肉体の変異に馴れ過ぎるのもメリットばかりではないのだが……奇跡で全てが解決するならこの世に魔法の薬(ポーション)なんて存在しないのだから。ただ、今は手法に拘れる状況ではない為にこの状況を甘受するしかない。


 百三十九階層の最奥。

 <祝福>を宿した流星が迷宮の床や壁をも巻き込み、見上げるほどの大きさの暴竜「灰燼纏う錆竜」を切り刻んだ。その爪に触れた物を灰に変えるとかいう世界中の鎧や剣の生産者からブーイングされそうなふざけた能力のせいで打ち倒すのが大変だった。さすがに神秘盾や導きの剣ほどにもなるとその能力を発揮するのも難しかったようだが。ティアの愛用していた剣は灰になってしまった。


 錆竜の死体を魔法の袋に積み込んで階段に飛び込んだ。

 全員がお互いに言葉を交わさずにも同じ気持ちを共有していた。


 ──もう二度とこの区画だけは探索したくない。


 この迷宮は勇者を鍛える為の迷宮と聞いていた。

 実際途中までは分からなくも無い難度だと思った。

 だが、この竜種の蔓延る階層だけはおかしい。

 完全に殺しに来ているし、鍛えるどころの騒ぎではない。


 この世界の勇者がどれほどの力の持ち主なのか定かではないが、脱落した勇者も数多く居たのではないだろうか? そう思えてしまうほどの意味不明な辛さだった。


 俺も自分の強さを過信しているわけではないが、魔法はともかく奇跡に関する技術や知識の水準はこの世界より俺の居た世界の方が勝っていた。そんなこの世界の原住民である勇者に連れ添う奇跡の使い手。この世界だと治療神官と呼ぶんだったか?彼または彼女はこういった状況をどのように乗り越えたんだろうな……謎だ。


『次が迷宮主のいる階層か、念の為五日ほど休息を取るか?』


「いや、正直もうちょっと休みたいかも。何か最近身体に違和感があって」


『……とりあえず五日休んで、みんなの状況を見つつ延長して万全の状態で挑むか』


[それが良いんじゃないかしら? こんな状態で戦ったら確実に返り討ちに遭うわよ]


 全員ぼろぼろだ。

 身体や精神はもちろん服装や身だしなみも完全に乱れに乱れている。

 普段は冒険中でも隙を見せないティア達も、今は雨に打たれた野良犬の様に小汚い有様だ。


 俺達が迷宮主の下へ足を向けるのは結局それから十三日も経ってからの事だった。

 身体や精神をはじめとした健康を取り戻すだけでこれだけの期間が必要だったわけではない。

 あれだけの魔物達が蔓延る迷宮の主、その実力に向き合う決意を決めるのにそれだけの期間が必要だったのだ。

少し更新に間が空きます。

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