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36 紫氷竜の迷宮①



 青石級冒険者は小規模迷宮にしか挑む事が出来ない。

 実はこのルールには覆す方法が幾つか存在する。


 ひとつは未発見の迷宮を攻略する場合。

 まだ誰も冒険者ギルドに報告していない迷宮に挑む際には、黄石級だろうが青石級だろうが挑む事が可能だ。これは未発見の迷宮を発見した人間の権利を保護する為の制度で、以前俺が第三夢幻回廊に挑んだ際などがこれに当たる。結局第三夢幻回廊は規模的には小規模の範囲内に収まっていたけれど。


 そしてふたつめが赤石級以上の冒険者とパーティーを組んだ場合だ。

 赤石級冒険者には挑戦する迷宮に対する縛りが存在しない。

 それほどの経験者が挑んでも問題ないと判断してパーティーに組み込むのなら、青石以下の等級に属する冒険者を連れて中規模以上の迷宮に挑んでも良いという事になっている。ただ、一般的にはあまりこの制度は利用される事が無い。赤石級以上の冒険者からすれば青石級以下の冒険者など足を引っ張る存在でしかなく、どうしても奇跡を行使可能な聖職者や迷宮を調査する依頼の際に専門家を随伴させる際に稀に適用される事がある程度のものであった。



──そろそろ中規模以上の迷宮にも挑んでみたくない?


 第三夢幻回廊で手に入れた財宝などの売却を終えた後の打ち上げ。

 その終わり際、アリアに臨時パーティーを組まないか?と問われた際に最初は断ろうと考えていた。


 臨時パーティーとはその名の通り長期的に組むパーティーではなく、あくまで一時的。

 要は短期間だけ手を組むパーティーの事を指す。


 ただ、以前のティアからの誘いからも明らかなように、彼女達がそこからズルズルとパーティーとしての関係を続けたいのは明らかであって。絶対めんどくさい事になるのは分かりきっている話だ。



 しかし、前回「こっちに利益が無いじゃないか」と煽ったのを根に持っていたのか。

 今回は相手から俺に対して組めばどのような利益があるかを示してきた。

 そう、中規模以上の迷宮への挑戦権だ。


 アリア達は赤石級の冒険者なので、彼女達と徒党を組めば必然的に中規模以上の迷宮へ挑む権利が手に入る。だから一緒に組んで冒険に行ってみないか?という話のようだ。


 この世界において、中規模迷宮とは十階層以上五十階層未満の迷宮を指す。

 迷宮を研究している人達は独自の単位であるダンジョンスケールという階層数以外の単位で迷宮の規模を呼称したりするんだけど、少なくても冒険者ギルドでは十階層以上五十階層未満を中規模迷宮としている。


 イーストエデンの周囲は小規模迷宮群と呼ばれるだけあり、小粒の迷宮が数多く存在するが中規模から大規模の迷宮も数は控えめながら存在している。



 その中でも今回挑む事になるのが「紫氷竜の迷宮」と呼ばれる中規模迷宮だ。



 イーストエデンから見て南南東にしばらく進むと見えてくるサンセット山脈。

 そのサンセット山脈に連なる山々のひとつ、グリード死火山の山頂に形成されたカルデラ湖の脇にその迷宮へと続く大きな割れ目が存在した。



「隊長!迷宮を目の前にしてアリア隊員が既に瀕死です!」


「……なんでこんな山の上に迷宮があるのよ」


『いや、ここに来たいって言ったのはアリア達だろ』


「そうなんだけどね」



 実はこのカルデラ湖、標高五千メートル以上の高地に存在しているのだ。

 足場は灰色の崩れやすい岩が積み重なっていて、登山ルート自体は一応存在するがほぼ道無き道を進むような状態だ。朽ちた杭などが標識代わりに定期的に存在するのが救い?でも登るにつれて濃い霧が発生していて見失い易く、とてもじゃないが快適とは言い難い環境だ。魔物も当然存在する。


 幸い、魔物との遭遇回数自体はそれほど多くなかった。

 というのも、あまりにも殺風景な岩場ばかりが続く事から分かるように魔物の餌すらほとんど存在しないような環境なのだ。極稀にたまたまこちらに気付いたグレイストライプという灰色と白色のしましま模様をした翼竜、いわゆるワイバーンが襲い掛かってきたが雷槍で数発つつくと相手が悪いと判断したのか逃げていった。彼からすれば魔法を放ってくるような空中への迎撃手段を持つ獲物は割に合わなかったのかもしれない、中々臆病で慎重な魔物のようだ。


 そんな山々をずーっと登ってきた。

 その苦行は純正な魔法使いであるアリアにはかなりきつかったようだ。

 アリアは見るからに華奢だ、冒険者というより魔術ギルドで研究でもしてそうな井出達ですらある。


 それに比べてティアは案外平気そうな顔をしていた。

 自称天才剣士を名乗るだけあり、かなりしっかりと鍛えているのかもしれない。

 登山が終わり、湖畔で一休みしている今もぴんぴんしていた。


『かなり険しい山道だったな』


「いや、バルくんは飛んでたじゃん!」


 八王竜の外套で空を飛べる俺にとっては山道なんて何のハンデにもならなかった。

 だからアリアの様にバテてはいない。


『だからあまりにも険しい所とかは抱えて運んだだろ?』


「私としてはその外套を一時的に貸して欲しかった。もしくはずっと抱えて貰いたかった」


『それはだめだ』


 八王竜の外套は使用者を選別する。

 何となくそんな気がするのだ。

 別にこの外套が言葉を発してそのように注意したわけではない。

 ホルさんの眼で見て特定の人間以外が身につけた際に何らかの災いが起こると明言された訳ではない。


 ただ、何となくそう思えるだけだ。

 そもそも「八王竜の外套」という名前自体も「何となくそんな名前な気がする」だけである。


 何故ならこの外套は<識別>はもちろんホルさんの眼ですらその力を読み解けない。

 天使や神の眼でもその力の一端を知る術がない。存在自体がイレギュラーな道具。

 ──強力過ぎる工芸品(オーパーツ)なのだから。



 結局その日は紫氷竜の迷宮へ続く割れ目の近くで一夜を過ごす事にした。

 アリアが駄々を捏ねた──とかではなく、単純にミーティングをする為だ。


 高度な迷宮に潜る際にはそれ相応の準備が要る。

 その為の道具各種の確認。

 迷宮のどの階層へ到達し、何を成すのかの確認。

 冒険者ギルドでの情報を元に危険な階層や区域、または魔物の復習。


 これらの情報は当然イーストエデンを発つ前に何度も確認した事だ。

 ただ、今回の様に迷宮への道中が険しい場合は特にそうだが時間の経過と共にうっかり忘れてしまう事も無きにしも非ずだ。少ししつこいぐらいに確認した方がいいらしい。本格的な迷宮ではひとつのミスでパーティーが全滅してしまう場合もあるようなのだ。


『今回の目標は紫氷竜の迷宮第三十五階層にある宝石ツララを採れるだけ採ってくる事だ』


「私の槍を作る素材に指定されちゃったからねー!ついでに依頼もこなしちゃおうって事で!」


「逆でしょ、依頼のついでにだから」


「えぇー」


 自分も今回初めて知ったのだが、ティアは剣より槍の方が得意らしい。

 ただ、槍は魔物を狩るのに使えるほどの強力な物は天井知らずに高い。

 それに何より、今まではベアヘッドを中心に活動していた関係でメインの狩場が森だった。

 森で長大な槍というのは非常に取り回しが悪い、なので剣を使っていたようなのだ。


 ミーティングを終えた後はさっさと自分のテントに入り床についた。

 この旅に向かう前は冒険者ギルドで見た時の様に、空間魔法で好きな空間を作り旅の途中でも快適に過ごせるんじゃないかと考えていたんだけど……


「いや、無理だから。そもそもそれが出来るならベアヘッドに来る時にテントに泊まってないし」


『そういえばそうだな……』


 話によると空間魔法は維持している空間の規模によって魔力に待機コストとも呼べるものが存在しているらしい。特に、人間をはじめとした生物が空間内にいるとコストが増大するようだ。


(そういえば、以前ちょっと部屋を広げるだけでも辛そうだったな)


(あれは空間の維持に使う魔力を支払いながら部屋の拡張作業をしていたからきつかったのかもしれない)


 そう考えればあの疲労具合も妥当なのかもしれない。

 結局自分の知らない魔法なので、詳細な感覚は分かりかねるが。


「あとね、こういう魔法は寝ててコントロールを手放している間はすごい不安定になってるから。自分の生み出した空間の中で寝るのは空間魔法を使う人間にとってはタブーね」


『そういうものなのか』


「そういうものなのよ」



 空間魔法もただ単純に便利な魔法という訳ではない様だ。

 外から見ていれば有り得ないほど便利で何でも出来そうな魔法も、実際の使い手にとっては素人が知らない制約に縛られていたりするらしい。




[私はバルの事は主人として渋々認めているわ。だけど、あなた達の指示には従わない!何故なら私は……サーモンプ『うるさい』リ……ちょっと!変なとこで横槍入れないでよ!]


「ほんとーに」


「喋ってる……」


 いつものようにマーキングをさせる為にドレッドノートを召喚した所……こいついきなりアリア達に向かって威嚇しだしたのだ。野良犬かな?主人である俺以外の命令は聞かないと宣言しているけど、ドレッドノートはメンタルがメダカレベルなのでどうせそのうち聞くようになると思う。自称姫なので一応えらそうにきゃんきゃん吼えてるだけだと思われる。


 薄々気付いてはいたけど、喋る使い魔というのはかなり珍しいようだ。

 思い返してみればメーティスのねずみもテイマーギルドのおっさんの獣魔も喋っていなかった。

 やはりこいつは普通な使い魔ではないようだ。


「うん、うちのホーくんも当然喋らないからね」


 ホーくんとはアリアの使い魔の名だ。

 森の賢者(フォレストマギ)という(ふくろう)型の使い魔で、アリアの頭に止まっている。

 身体はふわふわとした小さな梟だが、名前の通り強力な魔法の使い手でもあるらしい。

 その姿を見た時つい思ってしまった……なんてまともな使い魔なんだって。


[何か失礼な事考えてない?]


『気のせいだ』


 なんて無駄に鋭い魚類なんだ。

 いや、案外ホーくんも喋れたらこのぐらい感付くものなのかもしれないな。

 主人と使い魔は契約の魔法で繋がっているし、敏感な奴は違和感を感じ取れるのかも。



 少々もたついたがドレッドノートのマーキングを済ませて迷宮への道中を進んでいく。


 隊列は先頭がティア、真ん中にアリア、最後に俺だ。

 ティアが前方を警戒し、魔物が居たら切り込んでいく。

 アリアは前後を守られた状態で魔法を詠唱して魔法攻撃を仕掛ける。

 俺が後方を警戒する役目で、いざとなったらアリアをフォローする役割だ。


 本当は盾を持った俺が最前列の方が良い気がする。

 だけどティアが「私には前しか無理だよー」とか言ってたので仕方なくこうなっている。


 より万全を期すなら斥候ひとりと後ろから俯瞰して指示を出しつつ後方警戒が出来る奴が一人。

 それで俺も最前列に居た方がいい気もするけど……三人で組む以上それは無理だな。


 ドレッドノートは<防御>の技能と<銀壁>の魔法があるからこの後方警戒を変わって貰う事事態は可能だと思う。だけど、彼女には信頼がまだ無い。俺は信頼してるけど、ドレッドノートの力を知らない二人に「この鮭が後ろからの攻撃には対応するから大丈夫」なんて言われても安心出来る訳が無い。大きな盾を持った俺と何か喋る鮭。どっちに背中を任せたいかと言われたら間違いなく前者な筈だ。技能込みならドレッドノートの方が優れてるんだけどね。




 侵入口からしばらく進むと、迷宮の回廊部分に当たる部分が見えてきた。

 今までが普通の鍾乳洞のような見た目だったのに対し、迷宮区画は切り出した氷をレンガの様に敷き詰め床や壁を形成している。


 蛍火花のような迷宮内を照らす光は皆無で、ランタンや魔法による光源の確保は必須。今回はアリアの用意したランタンを彼女の使い魔であるホーくんが足で掴み、それをメインの光源として使う。ホーくんもアリアも周囲を照らせる魔法が使えるようだが、魔力を節約する意図もありこのような態勢で挑む事とする。


 回廊は馬車が余裕で通行出来そうなほど広い。

 高さは不明だ、ランタンの照らせる光量では天井を照らす事は難しいか。

 なかなかスケールの大きな回廊のようだ。


 この迷宮の特徴的な部分として迷宮内を風と雪が舞っている。

 冒険者ギルドの情報によるとこれは迷宮内に氷に属する魔力が漂っていて、その濃度は迷宮を下るにつれて増していく。要はこの風と雪は迷宮を下ると共に強まっていき、やがて迷宮内を吹雪が襲うような階層になっていくらしい。


 床板が氷によって形成されている為、回廊に本格的に侵入する前に靴にアイゼンを履く。

 アイゼンとは本来氷化した雪の上を歩く際に滑り止めとして靴底に装着する、金属製の爪がついた登山用具だ。紫氷竜の迷宮のように氷に属する魔力が漂う迷宮などでは冒険者でも装着して活用する事が多い。


「うーん、やっぱり普通に歩くのに比べて違和感があるよねー」


『それは仕方ないな。この迷宮はかなり長いらしいし、使い込んでるうちに少しずつ慣れてくるだろう』


「私は魔法使いだからまだマシかな、詠唱中はもともとあまり動かないもの」


 俺は最悪飛んでしまえば靴の問題は解消するけど、高速で駆け回って戦うティアにとってはアイゼンを装着した靴で戦う場合いつもより動きが悪くなってしまうようだ。これから迷宮を進むにつれてより環境は悪化していくはず、俺とアリアが魔法や奇跡で上手くフォローしていく必要が出てきそうだな。



 隊列を組み迷宮内を進んでいくと、この迷宮の代表的な魔物である氷鬼の群れに出会った。

 小さな鬼の氷像のような見た目で、象る氷の綺麗さに反して中々禍々しいデザインをしている。

 流星の特殊性能によって常人より優れた視力を持つ俺が誰よりも早く相手を見つけ先制を取る事に成功した。ティアが真っ先に突っ込んでいき氷鬼を次々と擦れ違い様に屠っていく。


 俺とアリアは魔法による援護だ。

 アリアは炎の矢を放ち、一体一体丁寧に処理していた。

 俺は雷槍で数体の氷鬼を纏めて貫いてその数を減らしていく。

 十五匹ほどの氷鬼の群れはあっと言う間に壊滅してしまった。


「いいねー、このぐらいの相手だったら楽勝かな?」


「まだ表層よ?ここでてこずっていたら三十五階層なんてとても潜れないわよ」


『そうだな、とりあえずしばらくは今みたいな感じで動いてみるか』


 氷鬼の魔石の部分のみ回収して先へ進む。

 氷鬼はその身体の大部分が氷であるため、魔石以外気にする必要が無く楽だ。

 わざわざそのまま魔法の袋に入れる必要も無い。


 その後は一日にひとつの階層を攻略していくのを目標にしつつ迷宮を下っていった。

 小規模迷宮に比べ中規模の迷宮は一階層当たりの広さがまるで違う。


 それでも無理をすればもう少し進めそうな気もするが、本来登山用とされているアイゼンを履いた状態で戦闘と探索を行っている為、普段より足にかなりの負担が掛かってしまう。


自分ではそこまで無理をしていないと思っていても、腰を下ろし休息を取るとどっと疲れが抜けていき、自分が本当は疲れていたんだという事を実感してしまった。


『少し様子が変わってきたな』


「うんうん、雪が大分積もってきたねー」


「情報だとここからイエティとワイバーンが出てくるのよね?」


『そうらしいな、ここからが本番か』


 紫氷竜の迷宮へ潜り始めてから九日、俺達は第十階層に辿り着いていた。


 ここまでは計画通り危険な場面も無く進めていたが、ここからはそうもいかないらしい。


 小規模の迷宮の場合はその限りではないのだが、中規模以上の迷宮だと何故か十階層毎にその環境が大きく変化する事が多いらしい。小規模迷宮の場合は一階層違うだけでがらりと変わる事も多く、非常に不安定なんだけど。大きな迷宮であればあるほどこの法則は強い傾向にあって、これを迷宮の拡大に伴なう安定化と呼ぶらしい。学者ならともかく冒険者である俺達にとっては細かい内容はどうでもいい。大き目の迷宮に挑む際は十の倍数階で何かが変わるかもなーと警戒すればいいだけだ。


 第十階層は道幅などの環境に大きな差異は無い様に思える。


 ただ、吹雪は無視出来ないレベルになっている。

 この中を飛ぶのは不可能ではないが少し難しそうだ。


 床に降り積もる雪の量も増えている、十階層未満の階層では靴底をかろうじて埋める程度の積もり具合だった。だけど今はアイゼンで多少嵩が増しているにも拘らず靴が丸々埋まる程度になっている。


 この増加量だと三十階層以下では膝丈まで雪で埋もれてしまいそうだ。

 水や火の魔法で足場を確保する必要も出てくるかもしれなかった。



 体高二メートルを越す毛むくじゃらの大猿、イエティの群れをティアが翻弄する。

 彼女がイエティの脇を縫うように駆けて行くと、その両脇に居たイエティの腹がいつの間にか裂けており、ピンク色の肉と赤黒い血が雪を染めた。


 毛玉のような見た目と裏腹に凄まじいキレのある飛行をしながらアリアの使い魔であるホーくんがワイバーンと熾烈な空中戦を繰り広げる。時折風の刃や氷の柱を魔法によって生み出しワイバーンを撃墜していく。ただ、ランタンを持ったままそんな事をしているのでその光を頼りに戦っている俺達は微妙に気が散ってしまう。ホーくんはこの戦いが終わったら待機してもらうようにアリアに頼んだほうが良いかな?


 アリアはホーくんとティアのフォローに回っていて、着実に相手の戦力を削っている。

 アリアは広範囲を巻き込む魔法が得意だと聞いているけど、今は細かく刻んで魔法を放つ立ち回りをしているみたいだ。


 俺はそんな前方の味方を時折気にしつつも後方から迫ってきていたイエティを処理していた。

 足元で魔力を爆発させて一気に加速、その勢いを殺さぬように八王竜の外套で飛行滑空、もしくは竜の腕を顕現し床を利用して更に速度を増していく。流星は期待通りの切れ味を発揮してイエティの首を刈っていく。しかしそれだけでは手が足りない、そこで流星の特殊性能によって強化された耳で敵の位置を補足して雷槍を次々と打ち込んでいく。


 第十階層から変わったのは環境や魔物の種類だけではない。

 一度に襲ってくる魔物の数も大幅に増えていた。

 気がついたときには周囲を数十匹の魔物の群れが囲んでいる事もあり、戦闘は熾烈さを増していった。


 そんな環境で戦ってくるうちに気付く事もあった。

 この迷宮に降り積もる雪、これは何も冒険者を拒む為だけのギミックではないのだと。


 この迷宮の中には様々な音が存在する。

 風の音や魔物の咆哮などのノイズは存在するが、俺の聴覚は流星の特殊性能によって強化されている。

 魔物が雪を踏み締める音から相手の位置を補足して攻撃する事も可能になっていた。


『邪魔だ!』


 八王竜の外套を竜の尾として顕現させ薙ぎ払う。

 巨躯を誇るイエティが数体纏めて弾き飛ばされていく。

 気付けば周囲には動ける魔物が居なくなっていた。


[<炎色斑紋>]


 周囲を光の奔流が飲み込んでいった。

 ドレッドノートがいつもの魔法を使い宙を舞うワイバーンとティアの倒し損ねていたイエティを焼き払っていく。今襲ってきた魔物の群れはとりあえず処理しきれたみたいだ。


「何度見ても摩訶不思議な魔法よね」


 アリアは最早嫉妬を通り越して呆れてるみたいだ。

 本職の魔法使いだからこそドレッドノートのおかしさが分かるんだと思う。

 どう見ても味方を巻き込んでしまうような規模の大魔法を敵のみを対象に当てていくからなあ。

 最初はティアとホーくんがすぐ脇を走る炎の波に混乱していた。

 当たり前だ、危機感を感じたティア達は間違いなく正常な感覚をしている。

 むしろ炎の波を脇目に淡々と魔法の袋で死骸を回収する俺の方こそ狂ってると思う。


『真似しようとか追いつこうって思わない方がいい、絶対ティアが死ぬから』


「うん、努力で追いつけるレベルじゃないし出来ないのが普通だから。私はあくまで人間の魔法使いの中で優秀であればかまわないわ」


 アリアはそう自分に言い聞かせるかのように呟いていた。


 迷宮を進むにつれて魔物の種類、そして数もどんどん強力になっていった。

 でもそれ以上に、共に困難に挑む過程で俺達のパーティーの動きも迷宮を進むたびにより洗練され、より優れた集団として変わりつつあった。

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