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23 シャウラ



『これがイーストエデンか……でかいな……』


 黒牙を倒した後、凱旋する兵達と共に歩き続けて四日、遂に俺の旅の目的地「イーストエデン」が見えてきた。上空に浮かんでいる王城区……この浮遊島が本来イーストエデンと呼ばれていた都市だが、長い安寧の時代を経てその下に城塞都市が築かれ、今ではこの城塞都市もイーストエデンと呼ばれる。


 イーストエデンはこの大陸に三つ存在する代理王都──他の王都の都市機能が危機的状況に追い込まれた際の避難場所として生み出された都市だ、だから空に浮かび危険な地から離れる事が可能という変わった形態を取っている。


 そもそも何故複数の王都が必要だったかというと、この大陸が魔大陸と呼ばれる由縁にもなった魔王と呼ばれる凶悪な魔物や災禍級と呼ばれる都市をも喰らう強大な魔物の襲来が昔は頻発していて、それから逃げ回る為にいくつもの代理都市が必要だったらしい。昔は大都市でも結構な頻度で滅びたから、王族や貴族も速やかに都市を捨てて他の大都市に避難し、そこで政務を行っていたんだね。


 俺はイーストエデン軍の兵達が胸を張り行進している最後尾を魔法使い達と一緒についていった。

 既に伝令の兵から話が通っていたのか街路の両端に人々が集まっていてパレードのような状態になっていた。もちろん手を振られたり声援が飛ぶのは凱旋した兵に対してなのだが、俺の鎧姿を見て兵士と勘違いしたのか、こちらに対してもたまに手を振る人々がいるので、気恥ずかしく思いながらも手を振り返す羽目になった。


 そのまま領主の所にまで連れてかれるのかとひやひやしたが、流石にそんな事は無かった。

 ムノー将軍が気を回してくれたのだ、この世界の貴族に対する礼儀など何一つ学んでいない俺にとって、この気遣いは何よりありがたかった。領主の館の前で暇を貰う事が出来た。


「あ、私は領主に今回の顛末について説明しないといけないから……明日以降この地図にある施設に来て貰えれば成功報酬と冒険者ギルドへの報告に付き添えるわ、あとおまけで冒険者が使いそうなお店がある場所も書いておいたから良かったら訪ねてみて」

『そうか、受けられる依頼次第だが出来るだけ早く訪ねよう』

「お願いね」


 魔法使いの女から地図を受け取り、早速冒険者ギルドを目指す事にした。

 地図が示すとおり進んでみれば問題なく到着する事が出来た、どうやら彼女の書いた地図は正確だったようだ。中に入ってみればベアヘッドと似たような俺の想像する通りの冒険者ギルドだった、しかし、大都市の支部だからかは分からないが、使われている木材の質や掃除の徹底っぷりはこちらの方が上なような気がする。なんというか、小奇麗過ぎてベアヘッドに比べると気安く立ち寄るという気があまり起きそうもなかった。


(なるほど、支部によって同じ冒険者ギルドでも案外雰囲気が違うんだな)

(都会にあるこちらの支部の方が洗練された雰囲気な分、少し職員と冒険者の距離に開きがあるような気もする)

(ティア達がベアヘッドを好んで拠点にしているのも、その当たりが関係しているのかもしれないな)


 とにかく、今日は冒険者ギルドに用件がいくつかある。

 ひとつひとつ確実にこなしていかなければならない。

 まずは受付カウンターに並んで拠点移動の報告をしなければいけない。

 ひとつの土地に居座らず、様々な土地を渡り歩く冒険者はそれなりに長く留まる土地でこの報告をする必要がある。冒険者は基本的に<依頼板検索>というエンブレムを使った魔法で依頼を受注するが、この大陸中の依頼を全て受注出来るわけではないし、どこでも報告していいというわけではないのだ。


 大陸の反対側で薬草の採取依頼を達成しましたなんて言われても、依頼主に届けるまでに余計な手間が掛かってしまうだろう。幻の薬草でどうしても遠方から取り寄せたいなんて依頼が絶対ないとは言い切れないが、そんなものは相当稀なはずだ。そういったトラブルを避ける為に冒険者は土地を渡り歩いた際は移動先の冒険者ギルドに自分が移動してきた事を報告し、近くでこなせる依頼を受注出来るようにエンブレムの登録を移す必要がある。


 列が進み、自分の番になり拠点移動についての報告はあっと言う間に終わった。

 受付嬢が腰から抜いた短杖で二言三言呪文を呟いた後にエンブレムを叩くとそれだけで終わってしまった。何とも呆気ないものだ、長々とやられても困ってしまうが。


(問題はこっちなんだよなぁ……どれだけ時間が掛かるか……)

『すまない、もうひとついいか?』

「はい、なんでしょうか」

『この書類を読んで貰えば用件は分かると思う、相談する為の個室も用意してくれ』


 俺はミザールから受け取った引継ぎ用の書類が入った封筒を受付嬢に渡す。

 一瞬怪訝そうな目で手紙を見た彼女だったが、書類の中身を確認して数秒で流し読みした後、驚愕の表情を浮かべ、慌てて席を立ち駆けて行った。個室を用意する為なのか上の人間を呼ぶためなのか分からないが、それからしばらく待ちぼうけを喰らう羽目になった。後ろからイライラした男達の空気を感じる、もう少し人の少ない時間帯を選ぶべきだったか……。




「大変お待たせしました、今回の件を担当させて頂くシャウラです。よろしくお願いします」

『よろしく頼みます』

「ベアヘッド支部の報告書で大まかな概要は把握しておりますが、確認の為エンブレムをお預かりしてもよろしいですか?」

『はい』


 あれからしばらく待った後、ようやく個室に案内されると、今回の件を担当してくれるという職員が待っていた。ピシッと冒険者ギルドの職員制服を着た茶髪ロングで眼鏡の似合う美しいお姉さんだ。恐ろしく長いまつげに潤った瑞々しい唇、スカートから覗くスラっとした足が目に入った瞬間つい凝視しかけてしまった。……いけないいけない、都会の本当に洗練された女性を見てついクラっと来てしまった、今日は重要な話し合いなのだ。気を引き締めないと。


 シャウラはエンブレムを丁寧に受け取ると銀杯の底に落とし、いつもの情報の読み取りを開始した。

 やっぱり綺麗な女性がうんうん呟いてる分には絵になるな、本人にはとても言えないが前回のミザール副ギルド長のうんうん言ってる様は正直きつい絵づらだったからな。おっさんと美人、どっちの顔を見ながら時間を潰したいかと言われたら、残念ながら圧倒的に後者なんだよなあ。シャウラの瞳石の読み取りはかなり長かった、何か気になる事でもあったのだろうか?


「確かに、お話の通りの内容ですね。気になる点がいくつかありましたが」

『気になる点ですか?』

「今回のお話に直接関係ない話ではあるんですが……軍が討伐したと宣伝している黒牙や黒毛を倒したり、人狼を倒している場面が映っておりましたので」

『人狼については既にベアヘッドで報告済みです。黒いコボルドに関しては直接依頼人から依頼を受けました、後日改めて冒険者ギルドに報告に来るつもりです』

「そうですか、ギルドを通す予定なら私が言える事は何もない……ですね……」


 シャウラは顎に手を当て、何かを伝えるべきか悩むような仕草をしたが、結局本題を進めることにしたのか未発見迷宮の報酬についての話に移っていった。未発見の迷宮を発見した場合、その迷宮で産出される資源や石箱の質、そして迷宮の危険度などを査定した後にその有用性に応じて報奨金が発見者に与えられる。


 迷宮内で手に入れた宝や素材に関してはそれぞれの専門家を呼んでその価値を調査した後、発見者本人が売却しないと決めた物を除いた全てを冒険者ギルドが買い取り、税や仲介料を差し引いた物が俺に渡される。


 また、冒険者ギルドと専門家だけでなく、商業ギルドや迷宮研究ギルドも金額の選定に立ち会う事によって不正な価格での買い取りを防ぐ取り組みもされる為、不公平な取引は決して行われないらしい。


「今回は品物の点数が点数ですので、現金化するには相応の時間が掛かりそうですね」

『具体的にはどれぐらい掛かりそうですか?』

「……正直点数の把握すら困難な程の量ですからね、しかも<識別>で読み取れない未知のお宝も含まれているようですから、ひとつひとつ専門家が調べる必要があります。まず、一月二月では終わらないでしょうね」

『そうですか』

「ですので、魔物の素材と迷宮の査定を先に済まし、宝の売却については後日改めて現金化の処理をするのがベターだと思います」

『それでお願いします』

「かしこまりました、それでは専門家の選定が終わり次第連絡をしたいので、定宿が決まり次第連絡を下さい……今日はこんな所でしょうか」

『そうですね、今後ともよろしくお願いします』

「はい、よろしくお願いします」


 シャウラと社交辞令を交わしながら握手をした後退室した。

 正直滅茶苦茶疲れる、迷宮に潜るのとはまた別の疲れ方だ。

 個室から職員用通路を通りギルドのホールへ出ると、冷たい空気が頬を撫で安らいだ。

 自分が思った以上に集中して話を聞いていたせいか体温が上がっていたみたいだ、それとも風通しの無い個室だったから暑かっただけだろうか?


(とりあえず、宿を決めて)

(迷宮に挑むか)


 イーストエデンには迷宮探索の拠点にする為にやってきたのだ、さっさと迷宮に潜りたい。

 俺はぐだぐだとギルド職員と話し合いする為に冒険者になった訳じゃないのだ。

 ハンドブックを開いて目星をつけていた迷宮を再確認した、やはり迷宮について考えていると楽しい。

 迷宮に潜る為の拠点とする宿をどこにしようか、しばし考えたが。


(ちょっと待てよ?)

(本当に宿なんて探す必要があるのか?)

(寝床なんて迷宮だろうが街道だろうが、結界を張って寝袋にでも包まれれば十分じゃないか)

(宿を探して右往左往する事に時間を割くなんて馬鹿のする事だ)

(依頼を確認し、迷宮でこなせる物があれば必要な物を買い揃え、すぐにでも迷宮に旅たとう)


 迷宮について考え始めると、迷宮へ挑みたいという欲求がむくむくと沸いて来てしまった。

 こういう時は欲望のままに足を進めるべきだ、未発見迷宮での経験が俺にそう囁いた。

 俺は<依頼板検索>でいくつかの依頼を受けると、必要な道具を手に入れる為に道具屋へと足を向けるのだった。

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