21 ベアヘッド②
夕食までの僅かの時間、折角誰にも邪魔されない状況で暇を得たので魔法の練習をする事にした。
俺の手の中に握り締めたボール状に雑に固めた空き袋へ魔力を注ぎ込む。
ボールは魔力を受けて僅かに震えるが──それ以上の反応は起きなそうだ、やはりまだ呪文を唱えずに発動する事は出来無さそうだな。
(我が手の平で踊るに踊れ……やっぱりだめか)
(我が手の平で踊るに踊れ──あっちへ行け)
手の中に握り締められていたボールが一瞬にして消え失せ、壁際の空中に突然現われた後カサッと微かな音を立てながら床に着地した。
この魔法は<悪霊の手>と言う、剣の特殊性能で得た知識によって学んだ悪魔の使う魔法群──支配魔法の中のひとつだ。
指定した物、あるいは人物を目的の場所に強制的に移動させる恐るべき魔法。
本来は詠唱無しで使えるはずだが、今の俺では詠唱どころかどのように転移させるかを追加で唱えないと使えないみたいだ。とはいえ、まだ知識として得たばかりの魔法なのでコツコツと経験を積んで技術を洗練させていくしかない。魔力の込め方や唱え方に変化を与えながら虱潰しに良い具合を探していく。
ぷえーっというまぬけな音が唐突に室内に響き渡る。
音のする方へ目を向けていると先程見かけた金髪妖精が二人の仲間を引き連れて机に腰掛けていた。
恐らくは開け放たれている窓から中に入ってきたのだろう、俺は魔法の練習に集中するあまり、気付けなかったみたいだ。金髪妖精は先程見かけた時は手に持ってなかった筒状の草を持っている、妖精の楽器なのかな?
俺が金髪妖精を見つめていると楽器から口を離し、無邪気な笑顔でこちらに手を振ってきた。
先程と同じ様に手を振り返すと何が面白いのか両隣に腰掛ける二人と一緒にキャッキャと笑い転げていた。
金髪妖精と一緒に来たくすんだオレンジ色の髪をしている妖精がボールの所へ飛んでいく。
何度も消えては俺の手と壁際を行き来するボールを見て、遊びたくなったのかな?
粗末なお手製ボールを妖精がよいしょと持ち上げると掲げたボールが一瞬にして消え──もうひとりの茶色い髪の妖精の目の前に現われた、恐ろしい事に先程俺がやっていた魔法の練習をチラッと見ただけで模倣したのか。オレンジ髪妖精のやりたい事を即座に理解したのか、茶髪妖精も魔法を模倣しボールを返した。
そこからはお互いに魔法を繰り出しボールを押し付けあう、その速度は返し合う度に早くなっていく。
(意外と注ぐ魔力の量は多くない、対象の全体を包み込むように魔力を込める必要は無いのか……むしろ草を軽く摘む時の様に、一部にそっと添えた後にタイミング良くスッと更に込める感じか)
自分でやるのと他人がやっている所を見るのとでは全然違う。
客観的にどのように魔力を込めているのか見られるだけでも得る物がある、自分より上手に使いこなしている達人の技なら尚更だ。思いがけず可愛らしい師匠を得てしまったようだ、本人達にその自覚は無さそうだけどね。
妖精達は速さ比べに飽きたのかボールを奇妙な軌道で動かしながら相手に届けるゲームをし始めた。
瞬間的に対象を別の場所に移動させるのではなく、コントロールを保ったままくるりと空中で回転させたりしながらだ。
実は先程の限定的転移を強制させる魔法<悪霊の手>の発展形がこれなのだが……妖精達は勝手に気付き、勝手に遊び始めたようだ。
一見限定的転移より単純な移動の方が、難易度が低く活用する場面が少なそうに見えるが──相手の身体を宙へ浮かせ壁や床に叩き付ける等の凶悪な使い方が出来るので実際はこちらの方がエグいらしい。
そもそもこの魔法は本来「支配」なんて名前を冠する魔法群の一種な時点で察しがつくと思うが、継続的に相手の身体の動きを支配し一方的に蹂躙する魔法だ、転移させて「はい、おしまい」なんていうのは全く使いこなせてない状態なのだ。
眺めている間に妖精達は魔法でボールの支配権の奪い合いを始めたようだ。
両者の力は拮抗しているのか二人の中間地点でボールは止まっている。
いや、良く見ると二人の強力な魔法の使い手に干渉されて、プルプルと震えているか。
金髪妖精は必死に魔法のひっぱりっこをしている二人を無視して、俺の太ももの上にふらりと飛んで来たかと思うと、足をパタパタさせながら楽器をぷえーっと鳴らし二人を応援し始めた。結局二人の勝負は、お手製ボールが形を保てずくしゃりとただの空き袋に戻ると同時に引き分けで終わったようだ。妖精三人衆は満足したのか楽器を鳴らしながら湖の方へ帰っていった、気まぐれな所が本当に冒険譚に出てくる妖精そのままって感じだなぁ。
先程妖精達の見せてくれたお手本を参考に再び魔法の練習をしていると鈴の音が聞こえてきた。
ティアが声を上げながら玄関の方へ走っていったので、もしかしたら中居さんが夕食を運んで来たのかも知れない。
割り当てられた部屋から居間へ出て少し様子を覗いてみると、ちょうど宿屋の中居さんがカートに乗せた料理を配膳しているところだった。その様子は真剣そのもので、彼女達の邪魔をしてはいけないし、未完成の状態を見てはいけない気がして、俺は部屋へ戻りハンドブックを読み返し時間を潰した。
『おおっ……、これはすごいなあ!』
「ふふっ、でしょ?」
「一度これを味わっちゃうとねー、他の宿が物足りなくなっちゃうんだよねー」
『そりゃあ……そうだろうなぁ……』
テーブルの上にはランタンがひとつ、それ以外の余計な照明は落とされている。
そして部屋中を妖精を模した光が飛び交っている、恐らく何らかのマジックアイテムの効果かな?
よくよく魔力を辿ってみればどこに発生源があるかどうか特定する事も可能に思えたが、それはあまりにも無粋なのでやめておいた。そして、その妖精を模した光に誘われたのか本物の妖精もやってきている、手を広げて光の妖精と追いかけっこをしたり手を振ったりしていて楽しそうだ。
テーブルの上の料理に目を向けてみれば、俺が今まで食べてきた宿の料理とは何だったのかと思えるような洗練された料理の数々が並べられていた。横長の四角い皿に芸術的に盛り付けられたハムやチーズ、そして見た事のない野菜の数々、これはそのまま食べるのかパンに挟んで食べるのかも俺には分からなかった、さり気なく二人の食事風景を観察して確認しなければならないだろう。
とろりと濃厚そうなスープと全員で取り分けて食べるのか大きな皿に肉料理がいくつか、ここの湖で取れた物なのか大きな海老と魚の揚げた物なんかもあった。そして如何にも私は高級ワインですと自己主張しているボトルが透明な容器の中に入った状態で配置されていた、微かに冷気を感じるのでこの容器もマジックアイテムだと思われる。
恐ろしい程の場違い感を感じつつも俺は席に座った。
正直、あの角付き竜と戦った時に近いほどの強い緊張が俺を襲う。
しかし、この様な料理を女性と食べる為のノウハウなど欠片ほども持ち合わせていない上に、奇跡や魔法どころか秘蹟すら役に立たない絶望的な状況だ、俎上の魚とは今の俺の状態を指す為に生まれた言葉なんじゃないかとすら思えるほどだ。あまりの緊張に頬を汗が伝う、俺は貴族っぽい食事に対して憧れを持っていたが、まだ俺はその高みに足をかけるには経験も度量も足りな過ぎたようだ。
「ちょっとちょっと、そんなに緊張しなくていいんだよ?」
「そうよ、私達しかいないんだし、楽しまないと損よ?」
『そ、そうだな』
これだけの料理を前にしても、いつもと変わらない余裕のある態度な二人に大して軽く嫉妬と憎しみが沸いたが……よく考えればこれは普通の夕食であって、緊張する必要なんて全くない。
昨日までは普通に会話をしながら食事を共にしていただろ、二人がいいって言ってるんだからいいんだ、落ち着け、ここでいつまでも動揺している方が無様だ、知らない事はどれだけ考え抜いても分からない、この二人の人間性なら聞いたら素直に答えてくれるだろう、この宿について詳しい先輩が目の前に二人いるのだ、師匠に教えを請う弟子の様に余計なプライドはかなぐり捨てて学びを得るべきだ。
「じゃあ、今回の冒険の成功と新しい出会いを祝して~」
「『乾杯!』」
……始まる前は緊張したが、実際始めてしまえば何て事は無かった。
当たり前だ、そもそもマナーを気にするような席でも無いし、目の前の二人はちょっとした贅沢の好きな普通の女の子で、一緒に冒険した男にわざわざ難癖をつけて場の雰囲気を悪くするような嫌な子達じゃなかったのだ。時折嫌味を言い合い、顔には出さずにテーブルの下で蹴り合いをしたりしている様子を礼儀知らずな俺の感覚が捉えてしまったが、この程度は冒険者社会では良くあることだろう、多分。
「それでバルくーん、私達にその身を捧げる覚悟は出来たかなー?」
「ちょっとぉ!わざわざ誤解を生むような訊き方するのやめなさいよ!完全にバルが引いてるじゃない!」
「……アリアちゃんがそれ言っても説得力がなー」
「こ、今回は大人しくしてたでしょ?」
「どう思う~?バルくん」
『……ん?ああ、良くして貰ったよ、短い間だが楽しい旅路だった』
「ほらー!ちゃんと出来てたでしょ!」
「猫被ってるだけなんだけどねー、流石にこの期間の短さじゃーボロが出なかったねー」
「なによー」
「まあ、アリアちゃんも頑張ったよ……いつもこうなら尊敬出来る仲間だったんだけどね」
「というかッッ!!私の評価はどんだけティアの中で落ちているのよ!いつも魔法で頑張ってるでしょ!」
「そーだねー、アリアちゃんえらいえらい」
「ぐぅ……」
『……』
先程注いだ朱色のワインを軽く口に含んでみる。
ふむ、なるほどなるほど。
よく分かった、俺に高い酒と安い酒の繊細な違いなど到底理解出来ないという事が。
確かに味が濃厚だったり香りが心地良かったりするけど、凄まじい差異は俺には分からなかったな。
ワインの値段の高低というより、単純に今日出された料理との親和性が高い気がする、濃厚なソースの掛かったステーキを頬張った後にワインを口に流し込むと……うーん、美味い!美味いけどどう美味いか説明しろって言われると難しい、俺は料理人や評論家、あと貴族にはなれなそうだな。
「えー、こほんこほん。それでね、バル」
『どうした?』
アリアが咳払いし、喉を整え姿勢も正した。
……大体何を言われるか察していたが、答えは変わらないのだ。
「まあ、大体雰囲気で察していると思うんだけど」
『……ああ』
「やっぱりこういうのはきちんと言葉にしないとだから」
『……』
ティアは何も言わない。
アリアに任せると事前に話し合いでもしていたのだろうか?
酔いを感じさせない真剣な目でアリアを見つめている。
……場の空気が変わった。
静まり返る室内、妖精たちもなんだなんだと首を傾げこちらを見つめて来る。
見世物じゃないぞ。妖精らしく普段通り遊んでいなさい。
「私とティア!今日はどっちと寝るの?!選んで!」
「あはは、アリアちゃん……死んで?」
『じゃあ、両方で』
「やったあああああ!今夜は酒池肉り……ガハァ!!」
「だめだよーバルくん、悪乗りしちゃ。ここは結構真面目な話だから、ね?」
拳を振り上げ歓喜の声を叫んだアリアの顎へ、剣の鍛錬を欠かさない現役剣士少女の痛烈な拳が突き刺さった。俺に対しては若干困ったような笑顔を向けているが、その拳に込められた破壊力から鑑みて相当キレているのだろう。よくよく目を凝らさずともその拳が震えているのが分かった。
「本当に……よりによってここでやらかしちゃうかー、流石に私も本気で見損なったよ」
ティアはアリアを見下ろしながらそう呟くが、アリアは立ち上がってこなかった。
というか意識を刈り取られたのかもしれない、自業自得ではあるんだけど。
『まあ、アリアも場を和ませようとしたんじゃないか?あんな空気で本題を切り出されても上手く行かないと判断してさ』
「う~ん、どうかなー。そうだったらいいんだけど……」
ティアは納得行かない様子だ。
確かに、折角信頼して仕事を任せたのにあのザマでは怒るのは当然かもしれないけどね。
「えっと、もう察しは付いちゃってると思うけど──バルくん、私達のパーティーに参加しませんか?」
『誘ってくれるのは嬉しいけど、何で俺なんだ?』
「……私とアリアって、正直あんまり相性良くないんだよね」
「人としてって意味じゃないよ?冒険者としてって事。私は走り回って敵を翻弄して切りかかるのが本来の戦い方だし、アリアちゃんは足を止めて強力な魔法を放つ広範囲殲滅型魔法使いなの。ちょっと噛み合せが悪いよね」
『そうだろうな』
「……だから、盾を扱えるからアリアちゃんを守れるし、万が一傷を負っても治せるバルくんがいると物凄く心強いんだよね!相性抜群でしょ!」
『そう思うか』
「それにね!それに……やっぱり二人だけだと色々限界が見えてきてたんだよ」
「つい先日もアリアちゃんが死に掛けたばかりだし、もしかしたら私だって……人狼にやられてたかもしれないよ……あの時は生きた心地がしなかったなあ」
「あとは、女の子二人だと生活に張りが無いというか、お洒落してても見せる相手が居ないし、頼れる男の子の仲間が欲しいな~~って……どうかな?」
ティアが不安そうな顔でこちらを見上げてくる。
本当はきっと、俺の答えなんて態度で察しがついているだろうに。
その縋るような目は、男につい態度を軟化させてしまいそうな蠱惑的な色気を秘めていて、俺は思わず一瞬視線を逸らしてしまうほどだった。
部屋が静寂に包まれる。
答えは決まっているはずなのに、俺は別に悪い事をしている訳でもないのに。
何故こんなにも心苦しい気持ちになってしまうのか。
様々な問題を抱えた少女二人の冒険者パーティー。
少し賑やか過ぎるところはあるが、明るく元気で人柄も良く、関わっているだけで元気になってしまうような、とても魅力的な二人組みだと思う。短い付き合いとはいえ心の底から本気でそう思えた。
出来れば助けてあげたい。
そう思う気持ちもある。
だけど。
『悪いけど、それは出来ない』
「……なんで?やっぱりアリアちゃんが鬱陶しかった?」
『そうじゃないよ』
「……」
『理由はいくつかあるけど、まず第一に俺はパーティーをまだ誰とも本格的に組む気がないんだ』
「なんで?冒険者として命懸けの戦いをするなら仲間は必須じゃない?」
『パーティーを組めば、どうしても自分の意見が通らない事も出てくるだろ?好き勝手に冒険なんて出来なくなる……俺にとって、自由っていうのは……』
目を閉じ、一瞬過去に思いを馳せる。
目をきちんと開き、ティアを正面から見据えてはっきりと宣言する。
『俺にとって自由ってのは命の危険を冒すに値するんだよ、リスクを負ってでも勝ち取りたい、手放せない重いもんなんだよ。俺だって身の程を弁えてる、一生独りで冒険者なんてやっていけない、いつかは頼れる仲間を見つけてパーティーを組まないと挑めない敵、又は迷宮が現われるって分かってるよ!』
『でも!それは今じゃねえ!!俺はまだまだ自由を諦められない!!!!』
他人からすれば滑稽に思えるだろう。
もしかしたら、軽蔑されるかもしれない。
子供染みた理由だと、笑われてしまうのかもしれない。
でもそれでも、俺はようやく手に入れた自由を手放せないんだ。
『あと、ティアの提案は俺に対する要求ばかりで俺に旨味がまるでないのも問題だ。アレが欲しい、これが欲しいと要求ばっかりで俺に提示出来る物が何もない』
『そもそも、先日の戦いは戦う前に方針をすり合わせておかなかったから起こった必然的危機ってアリアに言われてただろ?さっきの口ぶりだと反省が見られないし、そんな人達に振り回されたくない、頼り無さ過ぎる』
「……」
細かい事を挙げ始めれば他にもいくらでも問題点はあるが──ティアの顔を見たらそれ以上はとても言い出す気が起きなかった。悔しげに口を歪め目に大粒の涙を浮かべ、服の袖で必死にそれを隠しているその姿は……俺の心に重い罪悪感を抱かせるには充分過ぎた。
「あはは、まったく、バルくんはほんとーになまいきな後輩くんだなー……そこまで言う?ふつう」
『変に濁した言い方をするより、後腐れがなくなると思って』
「そっかぁ……フラれちゃったなあ……」
「うー、正直めちゃくちゃ期待してたから、えっと、その」
「ごめんね、私これ以上喋ってると、嫌な事しか言えなくなっちゃいそうなの、夜が明けたらちゃんとするから……ちょっとだけ先に休ませてもらうね?おやすみ、バルくん」
『……おやすみ、ティア』
ティアは少し腫れてしまった目をしていたものの、頑張って俺に微笑んだ後に自分の部屋へ戻っていった。その背中はいつもの明るく元気な少女の物ではなく、どこか小さく頼りなさ気に見えた。
(呑み直すか……)
朱色のワインに口をつける。
ワインの渋みが口の中に広がっていく。
苦い……さっきより遙かに鈍く、そして重く苦い。
美味しい苦さではない、口の中にいつまでも不快に残る、嫌な苦さだ。
さっきまであんなに美味しく思えた料理が、味気なく感じる。
気付けば口へ運ぶ気も起きなくなって、濁った意識の中ぼんやりとハムをフォークで弄んでいた。
どう答えるかは、冒険者ギルドで仄めかされた時から考えていた。
俺は加入を断った側で、自分の考えていた通りの結果を得た筈なのに、落ち込む権利なんて無いのに。
どうしようもなく気分が晴れないのは何故なんだろうな。
自然とグラスを煽り、酒を喉に流し込んだ。
意識が次第に鈍くなり出した、明日は二日酔いになるかもしれないな。
「辛そうだね、お姉さんが慰めてあげ……ぶっ」
机の下を通り俺の股の間から顔を出したアリアに反射的に手の平を突き出してしまった。
ていうかこの人何やってんの?何言ってるの?馬鹿なの?馬鹿だったわ。
『アリア……流石にそれはどうかと思うわ』
「だって、バルが何か弱ってるみたいだったし……ここで手を出さなかったら女じゃないでしょ!!」
『本当に最低……そりゃ追放されるわ』
「やめて!そんな目で見られたら新しい性癖に目覚めちゃう!!」
『……』
「ごほん、まあ、じょ、冗談だよ?冗談。嫌な気分、ちょっとは晴れたでしょ?あはは」
『アリアって見た目かわいい上に積極的なのに何故モテないのか不思議だったけど、何となく分かってきちゃったわ』
「やめてぇ!!冷静に私のモテなさを分析するのはやめて!泣くぞ?本当に!!辛いんだぞ!」
俺がとても残念な物を見る目で凝視していると、アリアは少し困ったような顔をしながら提案してきた。
「少しバルコニーで話さない?ゆっくりお酒でも呑みながら」
『まあ、いいけど』
「もう、いつまでも拗ねてないの……行こう?」
バルコニーに出ると、優しい風が俺の頬を撫でた。
地下なのになんで風があるんだろう、魔法なのか自然の神秘なのか。
正解は妖精が遊んでいるからだった、何人かの妖精が起こした風に流されてキャーキャー言いながら騒いでいた。無邪気な光景に思わず頬が緩んでしまった。
『ちょっと近くないか?』
「落ち込んでいる時に人肌に触れると、ちょっと落ち着くよね、エッチな意味じゃなくて、これは結構本気の話ね」
アリアが俺の肩にもたれかかりながらそう呟く。
先程とは違って、態度に愛情があるというか、落ち着いた声音で話しかけてきてくれている。
『そういうものかな』
「本当は抱き合ったりすると尚良いらしいんだけど、流石にこれ以上男の子から軽蔑されると流石の私も心が折れそうになるから、今日は辞めとく」
『今日はって、次なんてあるのか?』
「あのね、ここまで関係を築いて「はい、さようなら」で一生会わない気?どんだけ遠くに行くつもりなのよ……」
『とりあえず、イーストエデンかな』
「めちゃくちゃ近いじゃないの!その気になったら月に2・3回は会えるレベルじゃない」
『そんな、恋人でもないんだから』
「でも」
アリアは俺の顔を見上げながら、とても良い笑顔で問いかけてくる。
「私達、何度も寝食を共にしたお友達でしょ?会いに行ったって、別にいいでしょ?」
『それは……まあ、ここまで良くしてもらったし、歓迎すると思うよ』
「ありがとっ、遊びに行くね。あとね」
一呼吸挟んだ後、アリアは目を爛々と光らせ──俺に宣戦布告を言い渡してきた。
「私は、私達は一度断られたぐらいで諦めるほど良い子じゃないの。何度でも挑み、欲しい物を手に入れる。それが私達なりの冒険者としての流儀よ、覚悟しておきなさい、次は必ず口説き落として見せるわ」




