19 アリアとティア
星明りがさんさんと降り注ぐ中、夜の森を少女二人と歩いていく。
獣人と戦った広場は血の匂いに満ちていて、すぐにその匂いに導かれて他の獣が寄ってくる可能性があった為に夜にも拘らず移動する事になった。
夜の森と言うのは危険だ、夜行性の動物が跳梁跋扈し鼻をひくつかせながら獲物を捜し求めている。
また、視界も人間からすれば昼間より確保しにくい為、獣の接近に気付き辛い。
俺は剣の特殊性能によってそんな中でも周囲がはっきりと見えているが同行している少女達はそうはいかない。赤髪の少女はランタンを左手に掲げながら不安そうに周囲を警戒している。
俺は盾を魔法の袋に収納していまだに目を覚まさない黒髪少女を抱えながら赤髪少女の後ろを付いていっている。ハルさんは魔法の袋に収納されるのが嫌だったのか散歩に出かけていった、自由な居候だ。
黒髪少女は呪いも解け傷も癒えている筈なので、今寝ているのは単純に戦闘後の疲れから寝てしまっているだけだろう。それに関しては心配していないがいつまでも寝ていられると正直困る。赤髪少女もまた疲労からか動きの精細さに欠けている様に見えるからだ、今の彼女に外敵からの対応をずっと任せきりにするのは正直不安だ。
遠くの方からは獣の咆哮が響いてくる、噂のコボルトなのかそれともただの狼の遠吠えなのか、今の俺にはまだ聞き分けがつかない。見知らぬ虫の奏でる鳴き声ひとつでも赤髪少女は過敏に反応する、常に気を張っていて魔物に出会う前に疲れてしまいそうだ。
(やっぱり俺が前に出て周囲の警戒をした方がいい気がする)
(でもやっぱり自分の手が塞がり見知らぬ男が武装した状態なのは落ち着かないようだったしな)
実は森を歩き始めてから既に何度か提案しているのだ。
だが赤髪少女は苦笑いをしながら「大丈夫です、任せてください!」と言って聞かないのだ。
……自分も将来的にパーティーを組んだら他人に何かを任せる事が多くなると思われるが、何と言うか難しいよな、他人に何かを任せるって言うのは。
時折遠くに魔女虫や獣の眼光を見かけながらも森の中の探索行は意外にも順調に進んでいく。
道中で襲い掛かってきた狼などの獣も、こちらが武装していると気付くやいなや悔しそうに去っていった。獣というのは案外賢い、武装し迎え撃つ準備が整っている相手に無策に突っ込んでくるような愚か者はあまりいないようだ。しばらく周囲からこちらの隙を窺っている場合もあったが、視線が合い気付かれていると悟ると次の獲物を探しに森の暗闇へ消えていった。
「わはぁーっ、街道だー!」
『何とか夜が明け切る前に辿り着いたな』
永遠の様に続いた夜の探索行は夜が明け空が白み始める頃にようやく終わりを迎えた。
森を抜けると朝靄に包まれた丘と草原、そして切り開かれ石畳の敷かれた街道が見えた。
俺達は以前この街道を利用した人々の野営跡と思われる空き地にテントと結界を設営して休息を取る事にした、黒髪少女が目覚めるぐらいまでは恐らくここに留まる事になるだろう。
今回は俺ではなく赤髪少女が結界を張っていたのだが、よく見ると結界石を直接地面に置くのではなく器のようなものに入れて地面に置いていた。それは何か?と聞いてみるとこの器は魔力を込めると地面に吸着して結界石がズレたり動かない様にする為の物らしい。確かに、地面に石を直置きするのは短期間ならともかく長期間の休憩だと危ないのかもしれない。俺の場合はドレッドノートと自分だけだからさほど問題が無いかもしれないが、人数が増えてくると石につまづいたり何かの拍子に石に触れてしまう事もあるかもしれない。安定を取るならそういった魔導具も併用すべきだろう。
火をおこし、鍋をかけ適当にスープを作った。
食材は俺が出した、本来は赤髪少女が食材を提供したかったようだが彼女達の荷物は黒髪少女の空間魔法で収納されている為取り出せないらしい。空間魔法、自在に空間を生み出す高位の魔法、存在は知っているが俺の居た世界では使える者はほとんど居なかった筈だ。この黒髪の少女はもしかしたら見た目に反して相当な使い手なのかもしれない、俺の中で彼女達に対しての警戒具合を一段階上げた。
黙々と二人で食事をしていたが食べ終わった後に問題が発生した。
彼女達の荷物は空間魔法内にあり、当然ながら彼女達のテント等の野営道具も空間魔法内にあるのだ。
つまり、彼女達の寝床がないのだ。ここでも一悶着あったが結局やや短い間隔で交代にテント内で寝る事になった。俺としては目を覚まさないまま安らかに寝ているとはいえ、見知らぬ少女とテント内で二人きりになるというのは逆に疲労が溜まりそうになるシチュエーションだった。そして目が覚めたドレッドノートはすっかり元気になって虫を狩りに行くとテントを飛び出していった、恐らく念願のカブトムシを探しに行ったのだろう。
俺と赤髪少女が交互に睡眠を取り日もそれなりに昇ってきた頃にようやく黒髪少女が目を覚ました。
目覚めた当初はそれなりに混乱していたようだが赤髪少女の姿を確認するとその手を逆手に握り締め、捻り込むように赤髪少女の鳩尾に打ち出した……え?何やってんのこの人?と呆然と眺めていると黒髪少女が腹を抱えて崩れ落ちる赤髪少女に対して顔を真っ赤にしながら罵倒し始めた。
「あんたねぇ……あれほど魔法使いを無視して前に突っ込むなっていつもいつもいつも口を酸っぱくして注意してたのに!なんで何度も繰り返すのよ!死に掛けたじゃない!」
「え、だって、剣士は前に出るものだし?」
「状況を考えなさいよ!というかあの人数差で何で倒しにいくのよ!普通は撤退するか逃げながら徐々に数を減らしつつ機を見て反転するでしょ!」
「まったく、そういう作戦なら最初から言ってくれればいいのに。そういうのは後ろから俯瞰して戦場を見れる後衛の仕事でしょ?」
「伝える前に先に突っ込んで行ったんでしょ!このお馬鹿!」
「えぇ~?私は悪くないよね?」
そこに来て俺に振るのかよ!
赤髪少女は期待に満ちた目で俺を見つめて来る。
そこでようやく黒髪少女も俺の存在に気付いたのか俺を見つめてきた。
だが今の少ないやり取りで俺の答えははっきり決まっている。
『いや、仲間を無視して独断先行したならお前が悪いに決まってるだろ』
「裏切り者~!一緒に夜の森を踏破した仲間だと信じてたのに!」
「いや、誰だってそう答えるに決まってるじゃない……というかこの方は誰?」
「何か助けてくれた人!バシっと敵をやっつけて貰いました!」
「助けて貰っちゃったのかよ!……失礼しました、私の名前はアリア、赤石級の冒険者にして暴走猪とペアを組んで仕事をしている者です」
「あ、私も名乗り忘れてた!私は赤石級の天才剣士のティアです!よろしくね!」
「名前すら名乗ってないなんて……あんたほんとに常識知らずね!」
「えー、でも私も名前聞いてないもん!おあいこだよ!」
『俺は青石級のバルだ、短い間だと思うがよろしく頼む』
「「え?青石?」」
アリアとティアがこちらの外套に輝くエンブレムを注視して確認してくる。
そこには山羊のエンブレムに青く輝く瞳石が輝いている。
「おー!青石なのにあんなに強いなんて!天才仲間だねー!」
「……このバカの妄言は置いておいて、その階級でその武装って昔何かやってたの?」
『これは迷宮で手に入れた物だ、買った訳じゃない』
「青石でそんなマジックアイテムが手に入るような迷宮に?青だと下級迷宮までしか潜れないんじゃ?」
「こら、あんまり詮索し過ぎるな。本当にウチの馬鹿がすいません」
『そう考えるのは当然だと思うし気にしていないよ』
「ふむ……」
アリアはそこで顎に手を当てこちらを見てくる。
何か気になるところでもあったのだろうか?
「鎧姿だから分かり辛かったけど……中身は若いな」
「……アリアちゃん?流石に命の恩人に手を出そうとしたら私も怒るからね?」
「別にそんなんじゃないし!というか顔も見てない出会ったばかりの男にアプローチするほど軽くないし!」
「気をつけてね、バルくん。アリアちゃんは一見まともそうに見えるし実力も確かな魔法使いだけど男に対しては本当にだらしないの。しかも相手に女がいようがお構いなしだから前のパーティー蹴られたんだよ~ざまぁみろぉ!」
「お前だって女の先輩冒険者と口論になって一緒に蹴られただろうが!」
「男の子とも女の子とも仲良くしてたのに、理不尽だよね~?」
「そうだね、仲良かったよね、彼女持ちの男の先輩とも平等にね」
「仲がいい事は良い事だよー!明るく楽しく冒険がモットーです!」
「結局女性メンバーからは白い目で見られてたし全然仲良くなれてなかったんだよなあ」
「理不尽だよね!一緒に夜におやつを食べた仲なのに!」
「先輩はおやつどころか彼氏も食べられると思ったんじゃないカナー?」
「食べないよ~……私からはね」
「地獄に落ちろ!」
どうやらこの二人は元居たパーティーから蹴られた者同士の問題児ペアだったらしい。
にしても某賢者といい、この二人といい、この世界にはまともな女はいないのか?
それとも世間の女性とはこんなものなのだろうか?
以前居た世界では女性との関わりなんて仕事以外では全く無く、世間話も皆無だった。
あるとすれば本当に幼い頃に母親と話した程度か、その母親のせいで俺の半生は悲惨な物になったが。
やはり俺の女運というものは終っているのだろうか?
だがしかし、折角自由に生きられるようになったのだから、いつかは男としての喜び、家庭を築くというのも目指して生きたい。そう考えるといつまでも女性と言う存在から目を背けて生きていくのは非建設的だ。奇跡、魔法、剣もそうだが実戦に勝る研鑽はない。女性との関わりから目を背けていて女性との交友、そして恋愛の腕を上げるのは不可能だ。そう考えると今回の出会いは俺にとって都合がいい、彼女達とはどうせ次の街までの付き合いだ、ここで何らかの失敗をしてもどうせ別れて二度と会う事は無い。練習には持って来いの相手だろう。
俺が考え事をしている間に二人の喧嘩は口論から掴み合いに発展していた。
お互いの肩を掴み合い足で蹴り合いをしている。その様子は子供の頃に読んだカンガルーという獣の喧嘩を連想させた。醜い女同士の喧嘩は陰湿な脛蹴りを重ねたアリアの勝利で終わったらしい、ティアはうずくまり足にふーっふーっと息を吹きかけている。
「ああああ、本当に痛い!こういう喧嘩でムキになるなんて!だから男が出来ないんだよ!」
「お前もいないだろうが!」
「私はまだ運命の人に出会ってないだけだから、必死になって男を物色してるアリアちゃんとは違うもん」
「ぐう……そうやって余裕の態度を取っていられるのも今のうちだけなんだからね!あんたも周りの女が何歳で結婚してるかきちんと把握すれば私がなんで焦ってるか分かるわよ!」
『流石にそろそろ街に向けて出発したいんだけど……』
「ああ!ごめんなさい!つい、いつものノリで無様な喧嘩を」
「ふぅ~、全くアリアちゃんに付き合うのは疲れるよ~」
「……あんた、本当覚えてなさいよ?」
テントを片付け、アリアが空間魔法で取り出した食材で遅めの昼食を取った。
物語などでは女性は料理の腕に長けているという描写があったが、それはこの二人にも当てはまるらしい。テキパキと野菜を刻み肉を切り麺を茹でてあっと言う間に美味しそうなパスタが出来上がった。瑞々しい野菜のシャキシャキ感と程よく焼かれた肉の旨味、そしていつの間にか作られていたトロリととろける白いソースの塩味が最高だ。こんなおいしい物を旅先でまで作って食べているのか、昨日までの貧相な自分の食事を振り返ると少し悲しくなるな。
『ご馳走様でした、美味しかったです』
「お粗末様でした~!美味しいって言ってもらえて良かった~!」
「そうね、私達料理してる時だけは息が合うものね」
「そう?私がフォローしてるだけだけど?」
「このっ……!いけない、挑発に乗るな、私はいつだって冷静だから!」
「あはは、冗談だよー!冗談!」
この子達は毎秒喧嘩をしないと気が済まないのか?
いや、ティアはじゃれてるだけで本気で怒ってるのはアリアだけなのか?
喧嘩するほど仲がいいとはよく言うがこの場合はどうなんだろうな?
ピーピーギャーギャー喧嘩をする二人を無視して街道に沿って街を目指していく。
本当は街道は避けたかったが同行者が居る以上わがままも言っていられない。
女性と言うのはそういう物なのか俺に比べて歩幅が狭く足を繰り出す速度も遅い。
自然とその歩幅を意識し引き離さないように意識しながら歩く事になった。
周囲には草原と丘、そして遠くに森が見える。
草原には見慣れない草を食む鹿のような獣が群れをなして歩いている。
そしてそこからやや遠く離れた位置には狼の出来損ないのような肉食獣らしき獣が木陰で欠伸をしていた、彼らは夜行性か何かなのかな?魔物ならともかく一般的な獣に関しての知識はまだ乏しいな、街に着いたら調べてみるのも良いかも知れない。
途中で何度か馬車と擦れ違う事があった。
馬車には2つほどの武装した冒険者の集団と恰幅の良い商人らしき男性、そして大量の商品と思われる荷物が積み込まれていた。商人はやや緊張した様子で周囲をきょろきょろと警戒している、ここ最近のこの街道の噂をきちんと掴んでいるのだろう。
冒険者達はそれに比べて平然としている、だが決して油断している訳ではないのだろう。自然体でありながらもいつでも剣や杖を抜けるようにしているように見えた、その胸元には金色の瞳石が嵌めこまれたエンブレムをつけている。金石級──つまり俺より二つ上の階級に達した先輩達か。
俺達はそんな先輩方と擦れ違った際に無言で頭を下げ道を譲った、一応こうするのがマナーらしい。冒険者も縦社会なのだ、先輩を蔑ろにすると白い目で見られたりするらしいし。先輩達は俺が頭を下げた際一瞬訝しげにしていたが、俺の胸元のエンブレムを見て納得したのか何も言わず去っていった。俺の今の見た目は、全身鎧を身に纏い大きな盾を手に持っていて背と腰には剣を佩いている完全武装の状態だからそもそも冒険者と言うより騎士に見えたりしたのかもしれないな。
そんなこんなで途中何度か野営を挟みつつ2日ほどかけて目的の街に辿り着いた。
思ったより時間は掛かったがそもそも何かの期日に迫られている訳でもない、むしろ青石級になるまでは色々焦って頑張っていたから今回の旅は気分転換に丁度良かったぐらいだな。
今回立ち寄った街の名前は「ベアヘッド」という名前の街だ。
名前の由来は一目瞭然、熊の頭のような不思議な形をした丘の上に街があるのだ。
丘の上には3メートルほどの外壁とその更に外周に防御円が引かれている、物理的にも魔術的にも外敵が街へ侵入するのを防ぐ為の最低限の備えがされていた。
街へ入る為の街門には門番がいて、中に入る人間の身分を検めている。
俺達の番になった際に門番の男性が申し訳無さそうに声をかけてきた。
「そこの騎士様、見慣れぬ鎧を身に纏っておられますがどちらの国の所属ですか?」
『俺は冒険者だ、国には属していないよ』
「え、ああ!確かに胸にエンブレムをつけてますね。それではエンブレムが本物か検めさせて頂きます、あと一応お顔を拝見させて頂いてもよろしいですか?」
『もちろん』
俺は兜を脱いで門番に顔を見せた。
門番は何らかの書類と俺の顔を見比べて何かを確認すると「はい、問題ないですね。ようこそベアヘッドへ!我々はあなたを歓迎します!」と言って街門を通してくれた。アリアとティアが来るまでしばし時間を潰し、俺達三人は揃ってベアヘッドの冒険者ギルドへ向かう事になった。
『これだよなぁ、やっぱり冒険者ギルドって言ったらこれだよ!』
「ん~?普通の冒険者ギルドじゃない?」
「そうね、何の変哲も無い冒険者ギルドに見えるわ」
既にこの街に来た事があるティアとアリアに連れられてやって来た冒険者ギルドは俺の想像する通りの冒険者ギルドだった。壁や床は普通に木製で、入って左手に二階への階段と依頼相談カウンター、右手には冒険者が椅子に座り何らかの賭け事をしながらジョッキを交わしていた、どうやら素材の買取を待つ間はここで飲み食いをしたり遊んだりしつつ暇を潰しているようだ。そして正面のカウンターにはテキパキと冒険者の報告を捌く受付嬢のお姉さんが笑顔を保ったまま冒険者と受け答えをしている、すごいな表情筋。
俺の思い描いた理想の冒険者ギルドがそこにあった。
やっぱりフロンテラの冒険者ギルドがへんてこだったのだ。
普通の冒険者ギルドはあの神殿の出来損ないのような作りにはなっていないのだ。
謎の感動を覚えてしばらく呆然としていたが普通に通行の邪魔だったようで後ろから押し出されるように正面のカウンターに並ぶ列に加わる。今回はティア達の依頼の報告と俺が助太刀した件についての報告をする為、そして俺も別件で用事があったのでまず冒険者ギルドに立ち寄る事になったのだ。
「はい、大変お待たせ致しました~次の方どうぞ!おぉ~、ティアちゃんとアリアちゃんお帰りなさい!そして……あら?山羊のエンブレムの新人さん?新しいパーティーメンバーの方かしら?」
どうやらようやく俺たちの番になったようだ。
受付嬢はどうやらティア達と知り合いらしい、とりあえず誤解を解こうか。
『いや、俺は』
「バルくんは期待の新人くんだけどまだ勧誘はしてないよ~、今回の依頼で手伝ってもらったから報酬を分配する為に連れてきたんだよ~」
まだ?
という事はティアは俺を勧誘するつもりだったのか?
俺はまだしばらく一人で迷宮を探索したりする予定なのでパーティーを組むつもりは全くないんだけど。
「そうなんですか~、とりあえずエンブレムを預からせていただきますね~」
受付嬢はティアからエンブレムを受け取るとフロンテラの受付嬢同様、杯のようなマジックアイテムで瞳石の記録を見つつ、うんうんと唸りながらその中身を確認していく。
今更な話だがティアの持っているエンブレムは俺の持っているエンブレムとは別の動物を象っているんだな、口を閉じ前を見据える竜を象ったエンブレムだ。
エンブレムのデザインは最初に所属を決めた冒険者ギルドによって違う、冒険者は遠く離れた地にあっても最初に冒険者として認められた地の名前と誇りを背負って各地を冒険するのだ。竜のエンブレムはどこの所属だったかな?冒険者ギルドは各地に点在していてそのエンブレムの種類も中々多い、俺は竜のエンブレムが何処の物だったかすぐには思い出せなかった。
「はぁ~、コボルドに続いて人狼ですか。ここに映っている個体以外にも居そうでしたか?」
ん?人狼?
ティア達はあのコボルド以外にも人狼とも戦っていたのか?
「うーん、それはまだ分からないから引き続き確認していかないとダメかな」
「はぁ~、これはしばらくここのギルドも忙しくなりそうですね。」
「そうね、しばらくはあの森を重点的に調べた方がいいかも」
どうやら俺が何気なく通った森は俺の想定していた以上に危険な状態だったらしい。
事前に調べていてもトラブルと言うのは起こり得るものなんだなー。
「それではこちらが今回の調査依頼報酬、80万ポッチになります。危険度も鑑みて少し色を付けさせていただきました~」
「80万ポッチか~、今回は大物だったからもうちょっと行くと思ってたよー」
「こら、ごねないの!本当にいつもごめんなさい」
「いえいえ~、そう言いたくなる気持ちも分かるんですが私にはこれ以上の権限は無いので、申し訳ないです」
一回の依頼で80万ポッチ?!
赤石級ってそんなにすごいのか、俺が黄石級だった時はあんなに薬草依頼をたくさん受けても半分ちょっとだったのに!これが本物の冒険者が雇われる際の報酬なのかな……。
ティアは報酬を受け取るとおもむろに半分に分け始めた。
何をしているんだ?と思ったらその半分を俺に差し出してきた。
「はい、これが今回の助太刀とアリアちゃんの治療費の40万ポッチです!」
『そんなに貰っていいのか?』
「むしろアリアちゃんの命に比べたら安いぐらいだよー、っとっと、あとバルくんのエンブレムにも依頼に参加した旨を報告してもらわないと!昇格が遠退いちゃうよ?」
『……そうだな、ありがとう。俺のエンブレムにも報告御願いします』
「はいさ~、すぐ終わりますからねー」
「あ、私の分も御願い」
「アリアちゃんはちょっと待ってくださいねー、順番ですよー」
「あ、うん」
そんなこんなでドタバタしながらも無事全員分のエンブレムに依頼達成の旨を報告して貰った。
あとは俺の用事を済ませるだけか。
「あ~、安心したらお腹が空いてきた!ご飯食べようよ!ご飯!」
「そうね、私も流石に旅の疲れが出て自炊する気起きないもん、ここで食べていきましょう?」
『悪い、俺はちょっと相談所に寄って来たいんだが』
「そうなの?じゃあ私達もついて行くよー」
『出来れば今回は独りで相談したい』
「そう、じゃあそこで軽く軽食でもつまみながら待ってるわ。行きましょ?ティア」
「何にしようかなーサンドイッチとかポテトフライとか?」
「私はお茶とクッキーぐらいにしておくわ、後でがっつり食べたいし」
「ふーん、あ、すいませーん!注文いいですかー?」
軽食を食べに行ったティア達の声が聞こえる中俺は反対側の依頼相談カウンターへ向かう。
カウンターには眠そうな目をした女性の受付が座っていた、依頼が殺到する朝の時間を過ぎて暇なのだろうか。俺がカウンターに立つとキリッと表情が引き締まり仕事モードに切り替わっていく。
「こちらは依頼相談カウンターです、青石級……という事は何らかのご相談でしょうか?」
『ああ』
俺はカウンターの方に一歩深く踏み入り、ささやくように受付嬢に伝えた。
『出来れば個室で話したい、部屋を用意してもらえるか?』