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12 旅立ち



『ふふふ、思ったより早く達成したな』


 俺は先程まで何度も数え、確認していた硬貨をしまいながらニヤリと笑った。

 水とかげの迷宮の迷宮主、通称ボスとかげ先生の素材六体分を買取って貰った事によって、ついに目標金額である百万ポッチに到達したのだ。


『とりあえず、金貨は貯金として使わず残しておいて』


 金貨=百万ポッチ、万が一の時の備えとして確保しておく金額だ。


『この残りの大銀貨達で必要な買い物をしよう、今まで節約していたから贅沢もしてみたいな』


 今までは宿での宿泊・食事以外は依頼に必要な細々とした小道具の購入ぐらいしかしてこなかった。酒もこの地に来てから一度しか飲んでいない、美味しそうな酒場の食べ物の匂いに抵抗するのはかなりの気力が必要だった。


『そう言えば変なティーポット型のマジックアイテムがあったな、効果を検証するためにも茶葉と……あと水を買わないと。どんな水を買えばいいんだろうな』


 宿にいつまでも根を張っていても用事は片付かないので、とりあえず都へくりだす事にした。

 今日のフロンテラは快晴だ、既に昼前と言う事で多くの人々で溢れている。


(人が多すぎて鬱陶しいな、脇道から行くか)


 俺は薄暗い脇道へ入り雑貨屋や露天商の並ぶ通りを目指す。

 子供達が石畳にラクガキをしたり追いかけっこをしている脇をスッと通り抜けると、あっと言う間に辿り着いた。フロンテラに来た当初に比べると、大分この都での生き方というものに慣れてきたな。


 いくつか店を回ると目的の茶葉を発見する事は出来た、出来たのだが……。


『高い……茶葉ってこんなにするのか』

「そりゃーにいちゃんの見てるのは貴族用の高級茶葉だからな、御貴族様からしたら高価な茶葉も仕事道具みたいなもんさ、そりゃー高くもなる」


 店に並ぶ茶葉を見ると、金貨1枚から安くても大銀貨3枚ぐらいの値段がした。

 買えなくは無いが、マジックアイテムの性能を知るために使う値段としては高過ぎる。


『もっと庶民に優しい値段の茶葉ってないか?』

「あるぞ、こっちだ」


 店員に案内された先にあるのは「薬用」と書かれている棚だった。


「茶っていうのは元々は薬用の商品なんだよ、っていっても今そんじょそこらで飲まれてる茶とは大分見た目が違うけどな」

『ふーん』


 棚には緑や青、紫色のフレーク状になった葉が置かれていた。

 値段は……一種類、スプーン一杯毎に大銅貨五枚と書かれている、つまり五千ポッチか、宿より高いが薬を買う感覚で考えれば高くもないのかな?


 俺はとりあえず四種類の茶葉を買った、水も買おうと思ったんだが店を回っても普通の飲用水しか売ってなかった、それなら俺が魔法で生み出した水でも良さそうだなって感じて買うのを辞めた。


 ドレッドノート向けの餌、今後の依頼に必要なものを雑に買い集めた結果銀貨三枚、三万ポッチほどの出費になった。これらは今後絶対必要になるものだ、魔法の袋にしっかりとしまい宿へ戻った。


『それじゃあ茶を沸かすか、そういえばこれって火で熱する必要ってあるのか?』


 ティーポットの説明には水と草を入れれば茶が出来ると書いてあった。

 俺はティーポットに適当な茶葉を入れ水を魔法で生み出し適当にゆすった。


『さすがにこれじゃ出来ないか……おっ?』


 ティーポットが薄く光った後湯気が立ち上った。

 どうやら火で熱する必要すらなく茶を沸いたらしい。


『それじゃあこの買ってきたコップに注いで……<識別>』


 エンブレムに手を当てコップの中の茶を識別する。

 これでこの茶に秘められた効果が分かるはずだ。


 名前:マジカルメイズブルーティー

【説明】

 迷宮に咲く青い花「メイズブルー」をプロセラルムのティーポットで淹れたモノ。

 青と白で彩られたその見た目は遠浅の海のようで、とても迷宮産のハーブから生まれたとは思えない鮮やかな色合いをしている。薬用的な意味では疲労回復の効果があり、特に肩や腰の疲れに効果的。

 またプロセラルムのティーポットの効果によって飲用した人間は永続的に膂力が少しだけ上がる。


 なるほど、膂力、つまり筋力がちょっとだけ上がる力があるのか。

 飲むだけでお手軽に筋力が増すのなら飲まない手は無い、迷宮に生えている事もあるそうだから見かけたら摘み取るよう気をつけないと。


 コップを手に取ると柔らかく甘い匂いが感じ取れた。

 そっと口に含むとほのかな甘みとわずかな渋みが口の中に広がる、結構飲みやすい茶だな。

 味は本当に繊細で、どちらかというと匂いを楽しむタイプのお茶なのかもしれない。



 ん?



 飲んだ後お腹に違和感を感じた。

 カップ一杯分の茶を飲み干した直後にお腹にずしりとした感触を感じたのだ。


『なんだろう、お腹がいっぱいになったな』


 どういうわけかたった一杯のお茶を飲んだだけでお腹が膨れてしまった。

 識別で判別し切れなかった隠れた効果でもあったのだろうか?


『残りの茶葉は、また今度検証するか』


 お腹が膨れてしまったものは仕方が無い、残り三種の検証は後回しにする事にした。

 その日は結局夕飯の時間になっても腹は空かなかった、翌日何をするべきかを軽く整理した後に床についた。



◆◆◆◆◆



 茶葉について検証した翌日、ギルドが開くと同時に資料室へ入った。

 青石級からは新しい棚を覗く権利が得られている筈だ。

 今後の冒険の指針を決める為にまずは知識を得るべきだろう。


 黄石級では一番手前の棚しか覗く事が出来なかった。

 青石級は手前から三段先までの本が閲覧可能だ。

 黄石級の時は読める物全てを読んだが今回は膨大な量の本を読む権利がある。

 取捨選択して必要な本だけを読む必要があるだろう。


 今回選んだのは地理と魔物、そして鉱石と依頼でよく要求される草花の本だ。

 護衛依頼や貴族と接する際のマナー関連の本、虫や魚の収集についての本などは省いた。


 司書に頼んで青石級の冒険者。

 その中でも迷宮探索に重きを置く冒険者に必要な本をリスト化してもらい、特に重要なモノについてはサインをつけて貰った。ひたすら読み込み、必要であればハンドブックへ情報を写し書きしていく。


 この聖都フロンテラが存在する大陸は通称「魔大陸」と呼ばれ、かつては魔王と呼ばれる恐ろしい魔族が異世界よりやってきて人々の存在を脅かしていたらしい、まあこれはどうでもいい話なんだ。


 形としてはやや(いびつ)な◎のような形をしていて、フロンテラはその二重丸の最外周の南端に存在している。この二重丸の形をした大陸の西へ向かえば向かうほど規模が大きく強大な魔物が生息する迷宮が多いらしい。



 ──なので、俺はまず東の方の街へ行く事に決めた。


 フロンテラの周囲には青石級で潜れる迷宮が少ない。

 だから思い切って拠点を移そうと考えていた。


 俺はまだ青石級で中規模以上の迷宮へ潜る権利が無い、実力もまだ自信が持てるレベルではない。

 まずは東の方の小規模迷宮群で自分自身の実力と流星の力を蓄えてから、他の地域の迷宮へ挑む方が良いだろう。


 ざっくりとした方針が決まった後は東の迷宮群でよく見られる魔物、依頼される採取物について細かく見ていく。どうやら東の方は、迷宮でも森や山でもコボルトとよばれる犬の顔をした人型の魔物がたくさん生息しているようだ。人型の魔物は知恵があり、武器や罠を携え、独自の文化や能力を持っている。


 魔物と戦うというよりも、感覚的には異なる人種の部族と戦うみたいな感じみたいだ。


 子鬼(ゴブリン)のように独自の凶悪な魔法群を持つ種族でこそ無いものの、その優れた体躯と闘争心で人間と熾烈な領土争いを行っているようだ。紛争地帯みたいな感じなんだろうか?



 四日ほどかけて自分なりに必要な情報を整理した。

 司書と相談して、この程度の知識があれば東へ向かっても大丈夫そうか意見を交換し合う。

 数項目指摘され、司書とマンツーマンでそれを確認し資料室でやるべき事は済ませた。



 夜。

 司書に紹介された情報屋の兄さんと酒場で会い、情報を買った。

 司書に強く勧められたからだ。

 本の知識は非常に有用だが鮮度に欠ける、だから今、この瞬間、これから旅立つ地ではどんな噂が飛び交っているかもきちんと把握するべきなんだとか。


 ……本では学べない多くの事柄を知る事が出来た、俺は情報屋に少し多く払い宿へ戻った。

 そして寝て忘れる前に得た情報をハンドブックに正確に記載した。



 翌日、俺はいよいよ聖都フロンテラを旅立つ事にした。

 お世話になった司書に別れの挨拶をして北門から外へ出る、これから二つの迷宮に立ち寄りながら東の街「イーストエデン」へ向かう。とりあえずはそこの街を拠点に迷宮を攻略していくつもりだ。

プロローグの聖都フロンテラ編終了です。

ご覧頂きありがとうございました!

引き続き次章も読んで頂けると嬉しいです。

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