11 石箱
迷宮主の肉体と箱との接合部分を丁寧に切り離す。
箱の表面にこびりついた血を魔法で洗浄すれば──銀色だ、銀色の手の平サイズの石箱だと分かる。
迷宮の主の魔石のすぐ傍に生成されるこの不思議な箱は、その色によってかなり大まかではあるが価値が分かる。白<銅<銀<金<青<赤<虹色の順でその箱の中身の希少さを察する事が出来ると言われている。
また、難易度の高い迷宮ほど高等の石箱が出やすい傾向にあると言われていた。
銀色は下から三つ目の等級だ、二階層しかない迷宮でこの等級というのは……運がいいのかな?
聞きかじった知識しかないのでイマイチ判然としないが、まあ多分いいほうだろう。
『さて、気になるお宝開封の時間だ~!』
[まあ、精々役に立つものが出るといいわね]
石箱を二枚貝の様に上下へ開いた、すると中から──白い陶器製のティーポットが現れた。
え?
『ティーポット……、ティーポットかあ……』
箱のサイズを完全に無視して現れたティーポットを前につい呆然としてしまう。
石箱の中身って言ったらやっぱり、空を飛べるようになる靴とか呪いや魔法に耐性を得られる指輪とか!
もっと色々あったでしょ!俺を強化するのに適したマジックアイテムが!
『ともあれ、どんなマジックアイテムなのか見てみるか』
外套の胸元に刺したギルドエンブレムに手を当て呪文を唱える。
『<識別>』
エンブレムが輝くと同時に、目の前のティーポットの情報が頭の中に浮かんでくる。
効果や使い道の分からない道具や素材の情報を識別し理解出来るようになる魔法。
これが青石級の瞳石で使えるようになる魔法なんだ。
名前:プロセラルムのティーポット
【説明】
水と草を入れれば問答無用で茶を入れることが出来るティーポット。
蒸らしがどうとか、小賢しいテクニックを完全に無視して上質な茶を沸かす事が出来る茶道を愛する者に全力で喧嘩を売る能力を持つ。
雑草や泥水でさえそれなりの茶にしてしまうマジックアイテムだが、茶を入れるのに適した葉や水を入れる事によって不思議な力を与える茶を淹れる事が可能になる。
なるほど、そういう能力のマジックアイテムなのか。
適した葉や水を入れると不思議な力を与える……かあ、具体的にどうなるかは要検証だな。
おっと、忘れるところだった。
剣の方はどうなったんだ?無事迷宮攻略回数が稼げているだろうか?
剣を掲げ、剣の能力が見たいと祈った。
名前『流星』
【迷宮攻略歴】
迷宮攻略総階層:七階層
迷宮攻略回数:三回
【性能】
鋭さ:B
重さ:D
頑丈:A
【特殊性能】
・その剣は生きている <ランク:なし>
・その剣は壊れる事を知らない <ランク:なし>
・その剣は所有者に身体強化・猫を与える <ランク:2>
そうなるのか……!
迷宮攻略回数とこの迷宮で得た特殊性能のランクが上がっている。
つまり、この迷宮を何回か周回すればこの特殊性能のランクを上げ続けられるのか?
だけどまだ判断材料が足りないな、1から2へは低ランク帯だからすぐ上がったのかもしれない。
周回数とランクが必ずしもイコールになるかどうかは分からないね。
それに、別の迷宮を攻略した際にはこのランクの変動は起こるのだろうか?
これを検証するには別の迷宮にも潜る必要があるな。
しかし、その前に俺達には検証すべきことがあるのだ。
迷宮主の死体を丁寧に解体し、魔法の袋に収めた。
さあ、更なる検証に移るぞ!
結論から言おう。
この剣はチョロい。
二度言おう──この剣はガチでチョロい!!
今回行った検証は「迷宮攻略回数って迷宮主を出待ちして稼ぐ事が出来るのか?」
「その際に特殊性能のランクは変動するのか?」の二点だ。
結果がこうだ。
名前『流星』
【迷宮攻略歴】
迷宮攻略総階層:十七階層
迷宮攻略回数:八回
【性能】
鋭さ:B
重さ:D
頑丈:A
【特殊性能】
・その剣は生きている <ランク:なし>
・その剣は壊れる事を知らない <ランク:なし>
・その剣は所有者に不可視の存在を見通す力を与える <ランク:なし>
・その剣は所有者に身体強化・猫を与える <ランク:7>
今回は迷宮主が部屋に出現すると同時に五回倒してみた。
迷宮主を倒すと、何故か総階層数まで全フロア分加算されるようだ、チョロい。
あと攻略総階層数が十を越えた際に特殊性能がひとつ生えた、このまま十の倍数で特殊性能が生えるかどうかが今後の焦点か。
【特殊性能・詳細解説】
・その剣は所有者に不可視の存在を見通す力を与える <ランク:なし>
【詳細】
特殊性能「その剣は生きている」によって迷宮総階層数が十に到達した際に得た特殊性能。
その力は、本来所有者の能力では視認する事が出来ない存在を視認する事が出来るようになる力。
この力を得た事によって精霊や悪霊、又は魔法の効果によって姿を消している存在を見る事が可能。
もしかしたら、不思議な存在と縁を結ぶきっかけとなるかもしれませんね。執筆担当:ローズ 92歳
とりあえず、ここですべき事は全て終えた。
「暇だから」と言ってトンボを狩りに地上に先に帰還したドレッドノートを召喚して、魔法で聖都に帰ろう。
──来い!ドレッドノート!!
目の前の空間が揺らぎ……バッタを頬張っている相棒が現れた。
今日はバッタの気分だったのか、口からバッタの足が生えてるぞ。
『もう迷宮から出るから前に話してたアレを使ってくれ』
[ん]
適当な相槌を打った跡にドレッドノートが魔法の詠唱を開始した。
魔力が彼女を中心に渦巻き、流れる。今回は俺もその魔力の波に包まれていく。
[大いなる母川よ、我らは宿願を果たし再びその御許へと回帰す]
渦巻いていた魔力がいっそう激しく猛り狂う。
まるで突然渦潮に飲み込まれたかのようだ、ザバァっという水の流れる音が耳元に届いた気がした。
[母川回帰]
身体が宙へ浮き、次の瞬間吹き飛ばされた。
周囲を見渡してみれば──川だ、光の川、何も見えぬ暗闇に光り輝く川が広がっている。
吹き飛ばされていると認識していたが、よく見ればドレッドノートが先行し俺を導いているみたいだ。
その姿は重荷を引き吊りながらも母なる川への帰還を果たそうとする一匹のサーモン。
やがて暗闇の先に光が見え、そこに達すると星々が輝く夜空が見えた。
迷宮の外へ無事出られたみたいだ、すぐ傍に迷宮へと続く大穴がパックリと開いている。
ドレッドノートはいつもより元気が無い様子だ、どうやらリターナーは魔力はもちろん体力も消費するみたいだ。スフレの使った転移みたいなのを想像してたから、正直予想外でびっくりした。
『……おつかれさま、今日はもう疲れたろう?宿へ戻るか?』
[うん]
俺はドレッドノートを外套のフード部分に寝かせた。
どうやらここがお気に入りのようなんだ。
『それじゃあ帰るか』
俺は星光を浴びながら聖都への道をゆっくり歩いていった。
「気をつけてね」
何かが、俺に向かってそうささやいた気がした。




