エピローグ
※二日に一話ペースを目指します。私の妄想の文章化なのでご了承願います。
初めまして。”刃森弘人”と言う者だ。唐突だが俺は、とある出来事を境にこの”魔法”が存在するという訳の分からない異世界に転移され・・・立ち向かう敵を倒し、戦い抜いていくという運命を背負わされたのである。
さて、まあここまではほんの序章に過ぎない。本題はここからだ。実は・・・
俺は既に、この異世界を”クリア”しちゃってるのだ。
これから俺の転移モノの冒険譚でも始まるのかと思ったなら謝る。早くこんな世界から抜け出したくて、数々の無駄イベントを全てスルーし・・・立ち向かう美少女との恋愛フラグを全てなぎ倒しながら戦いに専念していたらもう一年足らずで終わってた。あんなもん無ければ、チート無しでも異世界攻略なんて楽勝だ。よくある転移系主人公のキサマら。恋を捨てろ。好奇心を捨てろ。チートに頼るな。脳筋こそが世界を制するのだ。
「しっかし....こうして終わってみると、案外物悲しいかもな....」
俺は、この世界における”終焉の地”の果て、・・・禍々しく、そして闇のような瘴気を纏う”レヴェラー龍山”と呼ばれる山嶽の頂上にいた。ちなみに、ここがラスボスがいた場所である。
・・・勿論そのラスボスも数分前に倒してる。だから先程”クリアした”と述べたのだ。
人間の体躯とは比べ物にならないほど巨大で、漆黒に鈍く輝く美しい翼を持つ飛龍。今やその龍も、だらしなく舌を垂らしながら白目を向いて俺の隣で永眠している訳だが。・・・しかし考えてみると・・・猛毒塗ったレイピアで盾チク撃破は流石に外道だったか!?だが魔法も使わず盾チクで倒せる龍も龍だろ!?魔法も一応最強レベルまでは使えるが・・・なにせ魔術ではなく己の腕力を信じ、杖よりも棍棒を重んじてきたからな・・・ラスボスらしく究極魔法とかで撃破すれば良かった・・・。
「これからどうしようか....あ~あ..........」
こうしてクリア後に自分のこの異世界での軌跡を辿っていると・・・やはりもう少し主人公っぽくしてれば良かったという後悔の念が押し寄せる。
「ま、別にいいか!これでようやく元の世界に帰れるんだし・・・!」
俺は傍らで死んでいる飛龍の、琥珀色で顔面サイズの左眼を両手で思い切り掴み・・・そして、意を決して抜き出した。
瞬間、肉片が擦れる不快な音と、粘液のようなモノで覆われた目玉が顔を出す。思わず嗚咽してしまった。
「これが....灰燼龍のオーブってやつか....うげっグロいなぁ....でも本当に使えるのか?」
話は変わるが・・・どうやら、この異世界のような別次元は他にも多数存在するらしい。
そして古来より伝わる伝記によると、終焉の地に君臨する龍の左目は、特別な力を秘めるという。
その力と言うのが、多数の異世界の内の二つの世界を繋げる・・・というものだ。だがこれを扱うには強大な魔力が必要であり、使用回数も一度だけ。そして俺はこのオーブを使い、この世界と・・・俺が生まれ育った元の世界を繋げて凱旋する腹積もりだ。
「厨二くせぇから魔法とか嫌なんだけど....この際しょうがないか」
俺はオーブを眼前に翳し・・・両目を閉じる。そして脳内で詠唱を開始した。
軽く数万を越える魔法の中で唯一、誰一人として発動した事がない魔法・・・それが『フィロソフィ・オーブ』と呼ばれるものだ。文字通り、灰燼龍のオーブが無ければ発動は出来ない。
「っし...じゃあ行くか....!元の世界へ!」
遂に・・・遂に帰れるんだ・・・!こんな訳のわからん場所で二年近く冒険させられて、いつの間にか完全な脳筋になっちまって・・・。だがそんな柵に満ちた世界からもう直ぐ解放される!
詠唱を終えた後、手に持ったオーブを天高く持ち上げた俺は・・・曇天の中激しく咆哮した。
「次元を紡げ・・・”フィロソフィ・オーブ”!!!!」
周囲に人がいれば100人中98人は『痛い子』認識するであろう厨二全開の叫びを上げた直後、
その琥珀色のオーブは突如、禍々しい漆黒の閃光を、耳を劈くような轟音と共に放ち始める。
見た目は半端なく神々しい。しかし、俺は次の瞬間異変に気付く。この魔法はオーブと術者の魔力を結集冴えて発動するが故に、双方の魔力の均衡が重要なのだが・・・
「どう考えても・・・オーブの方が魔力・・・圧倒的に弱いよな・・!!?」
さすが盾チク飛龍。オーブの方も見掛け倒しだな・・・。
いやふざけてる場合じゃない!これは非常にヤバイ状況だろ!!オーブならともかく、術者の力が勝っているとなると・・・この魔法が”強化”されてしまうんじゃないか!?そうなると・・・色々面倒な事になりそうな予感が・・・!
「あの雑魚龍!!こんな山に鎮座してんならレベル上げくらいやっとけよおおおぉぉおお!!!!」
もう止められない。オーブの閃光は益々広がり、今やこの山嶽を飲み込む程である。嵐のような強風も相まって、やはりこの魔法が俺の有り余った魔力により強化されている事が理解できた。
「止まれ!止まれっての!!!止まれえええええええぇぇぇええええええ!!!!!」
だが俺の願い虚しく・・・フィロソフィ・オーブは、元より遥かに強い効力を秘めたまま・・・発動してしまうのであった・・・。
◇
まるで天変地異が起きたかのように、この山嶽の地表は俺の足場を除いて深く抉られ、あれだけ空を覆っていた曇天も、オーブから放たれた強大な衝撃波により跡形もなく消えていた。
「あれ!?何も・・・起きてないぞ!?どういう事だ!?
あれだけ大げさなエフェクトを披露しておいて・・・。今ままでの旅の苦労は!?
・・・開けた空。こちらを嘲笑するかのように昇る太陽は、俺の手に乗るオーブを妖しく照らす。それを見た俺は、驚愕した。
「嘘・・・だろ!?こ、これってまさか・・・・!!」
次の瞬間、背後で女性の可愛らしい声がした。
「とうとう・・・・発動してくれたのね・・・!”刃森弘人”!」
強化された魔法は、しっかりと発動していた。
照らされた大きな龍の瞳の中には・・・”他の異世界へと繋がるゲート”が・・・・
無数に映っていたのである。