後期リーグ戦第7戦:天王山①
C1リーグ戦第六戦終了時順位。
1位 クレギオン 前期8勝1分 後期6勝 総合勝ち点43点
2位 ラウドテック 前期8勝1敗 後期4勝1敗1分 総合勝ち点37点
3位 エルネスト 前期6勝3敗 後期5勝1敗 総合勝ち点33点
リーグ戦のポイント配分は勝ちで3ポイント、引き分けで1ポイント。残り試合は3つで第7戦でクレギオンが勝てば優勝は決定する。2位ラウドテックが残り全勝してクレギオンが残り2試合落とせばポイントは並ぶが、ポイントが同値の場合は直接対決の結果での勝負になりその戦績はクレギオンが2戦とも勝利しているので確定だ。
まぁそもそもクレギオンの残りの対戦相手はいずれも中位以下で試合を取りこぼすとは思えないので、事実上すでにクレギオンの優勝は決定しているようなものといえた。
なので、C1リーグを追っているような好事家の連中の今節の注目は俺達の試合に集まっている。
2位ラウドテック対3位エルネスト。
ラウドテックが勝利すれば勝ち点差が7になり、残り2試合を残して2位以上が確定、B2への入れ替え戦へ進むことができる。
エルネストが勝利しても順位が変動することはないがポイントは1点差と極わずかになる。ラウドテックは4位との対戦も残している為、可能性は高くないにしても入れ替え戦への希望は残る。
まさに両チームにとって正念場の試合だった。
「前期シーズンの借りを返すって意味でも、負けられないッスね」
通信機からレオの声が響く。
試合開始数分前。通常駆動による待機状態の精霊機装の操縦席の中で、俺はその言葉に頷いた。
「前期は割といいところなしで負けたからな」
前期のラウドテックとの戦績は3-0という完敗だった。
能力的に格上で数もこちらより多かったクレギオンと違い、ラウドテックは3機編成で実力的にも総合的に多少あちらが上くらいでそこまで大差はない。なのにそこまで大差で負けたのは前期の彼らとの衝突が2戦目とかなり早いタイミングだったせいだ。
うちのチームは前期チームの前衛の要だったグェンが移籍により離脱。代わりにレオを獲得したわけだが、いくら豊富な霊力を持つとはいえ、レオはまだDランクから移籍してきたばかりでチーム戦術どころかCランクの試合にも慣れていない状況だった。更にはレオは実戦経験がDランクでの1シーズンのみというほぼ実質ルーキーな状態。
あちらさんは試合開始と同時にレオを中距離からの射撃で足止めしつつ、ミズホを集中攻撃。俺からの射撃によるダメージは必要経費と考えていたのかいくらかの攻撃は当たるに任せて強行。流石に実力的には同等、もしくは上の3機からの猛攻には耐え切れずまず早々にミズホが脱落した。ついで近接戦を得意とする1機がレオの相手として残り、2機が俺の方へ突撃。俺は逃走しながら反撃をしたがクレギオン戦の時と同様俺は2機相手に距離を詰められるとどうしたってジリ貧となってしまう。結果ある程度はダメージを与えたものの俺も脱落。最後は3機がかりでレオが削り倒されて試合終了。
ダメージ自体は結構与えたもののこちら側は結局1機も落とせない惨敗となった。
敗因は包み隠さず言えばレオの動きの稚拙さだ。機体の操作ではなく位置取りや、こちらの指示に対する反応の悪さなどの。尤もこれに関しては経験が殆どない状態だったから仕方ない、それはレオ自身も分かっていただろうが、理解と納得は別だ。いつも通りの調子で発したレオの言葉は、だが明らかに力がこもっていた。
「気合いを入れるのはいいが、力みすぎんなよ。今のお前なら充分相手になるんだから」
「ういっス」
相変わらず自己判断での動きは甘い所があるが、指示に対する反応や精度は前回対戦時とは比べ物にならないほどアップしている。そして上手く位置取りさえできればレオの霊力は間違いなく相手を封じることができ、そうすればこちらの勝てる確率は格段にアップする。そのためにもレオには平常心で動いてもらうことが重要だった。
「あちらさん、前回と同じでアタシ狙いかしらねぇ」
「まぁそうなるだろうな」
大抵のチームはまず最初にミズホを落としに来る。近接特化でタフなレオと、近距離から中距離までこなすが霊力はそれほどではないミズホ。どっちを先に狙うかは明白だ。戦場次第な所ではあるが、
「今日の戦場を考えるとなぁ」
俺はモニターに映る景色を眺める。
ARによる遮蔽物がまだ表示されていない戦場は、だが見通しはあまりよろしくない。地形の起伏が激しいのだ。
ARで表示されている遮蔽であれば敵の姿が見えなくとも攻撃はできるが、実際の地形による遮蔽では攻撃を通す事はできない。そうなると遠隔射撃タイプの俺は狙いがつけづらく脅威度が落ちる為、ほぼ確実にミズホ狙いとなるだろう。
「乱暴な敵さんからちゃぁーんと守ってねっ」
「はいはい」
「任せるっスよ!」
おどけて言うミズホの言葉に、俺は雑に、レオは気合いを入れた返事を返す。
──開始まで残り30秒。
視界に仮想のビルや森などが出現してゆき、簡素だった景色は緑の多い市街地へと姿を変える。
「さて、最終確認だ。二人とも切り札の位置は明確に頭に入ってるな?」
「問題ないっス」
「勿論。有効に使って頂戴よ」
「初めての使用だし相手次第だから過剰な期待をされてもな」
「ダメでーす。無駄にしたらおねーさんユージンちゃんに悪戯します」
「なんでだよ!? 大体俺の方が年上だろ!」
「ユージンちゃんがおねーさんに悪戯するでも可」
「いやそういう話でもなく」
「それする時は事務所でお願いするっス。俺がいる時で」
「やらねえよ!? おいミズホ……」
「はい10秒前でーす。集中集中」
集中を切らすような事言ってきたのお前だろ! そう言い返したくなったが確かにもうアホなやり取りをしている時間はない。俺は意識をモニターの向こうの景色に切替ながら、相棒へ声をかける。
「タマモ、精霊駆動」
ただ立ち尽くすだけだった鋼鉄の巨兵に力が浸透していき、機体が揺れる。
5秒前。
4、3、2,1、
『試合開始』
通信機からレオでもミズホでもない声が流れると同時、それに合わせて飛び出してゆくレオとミズホ。その二人のゲージがほんの少しだけ減った。それこそ1ドット分程度の減り方だ、通常では気づくことがないだろう。だが今は試合開始直後、フルゲージ状態からだからもしかしたら向こうも何かをしたことに気づくかもしれない。だがこれは今まで一度も使った事がない手段だ、何かをするかもとは気づけても、何をするかを向こう側が気づくことはまずないハズ。ならば後は向こうの出方と俺が上手くやれるかどうかだ。
俺は先行した二人を追って機体を進める。
速度としては二人の半分ほどの速度だ。前線が衝突した時にあまりその場所に近づきすぎないように。
今回の地形と相手の実力を考えるといつものように充分な距離をとった状態では前線を支援しきれない。かといって前線に近づきすぎれば俺が集中的に狙われる。相手の動きを見極めて距離を詰める必要がある。
可能であれば俺が支援しやすい位置を抑えたいが、あちらさんは2機が中距離も行けるので難しいだろう。
さて、間もなく接敵だが──
さすがに今回はレオを事実上無視するのは無理と判断したか、レオに向って一機。
そしてミズホの方へ向けて二機。
やっぱりこれで来たかという感じだ。もっとも想定していたケースなので、こっちも当初の作戦通りに動く。
俺は機体を更に前に進めた。いつもの俺の得意な距離ではない。
リスクを背負った中距離戦闘距離だ。




