異世界生活の終わり
「……ジン……ユージン……」
「……うゆ」
耳元で名を呼ばれるのを感じて、意識がゆっくりと浮上する。闇に包まれていた視界に光が差し込んできて、そしてこちらを覗き込んでいる見慣れた瞳と視線が合った。
「あはよう、ユージン」
「……ん……おあよ、ミズホ」
掛けられた言葉に返事を返しながら、目をこすりつつゆっくりと体を起こすと、体から何かがずり落ちる。──毛布だった。
寝ようとした記憶がないから、多分疲労から寝落ちした後に誰かが駆けてくれたのかな。
寝ぼけ状態だった頭の方が覚醒して周囲をはっきりと認識できてくると、こちらを覗き込んでいるのがミズホだけじゃない事に気が付く。正面に立っていたのがミズホで、左右からはエリーさんとサヤカが同じように覗き込んでいた。ちなみにユキ江さんとマオさんは離れたところでお茶を飲んでた。レオとヴォルクさんは、えっと……
「ねぇねぇサヤカちゃん、この子うゆって言ったわよ。うゆって」
「言ったな」
「もう何回言ったかわからないけど、やっぱりこの子が元成人男性って何かの間違いだって、集団幻覚か記憶の改ざんを受けてるって。成人男性はうゆなんて言わないわ」
「私があったときはユージンはこの姿だったから、私に言われても答えられないんだが……」
……エリーさんはその説を頑なに諦めようとしないよね。記憶の改ざんなんて出来るわけ……ないといえなのがアレなんだけど、ちゃんと映像データとかも残ってるっていってるでしょうに。というか、うゆは確かに成人男性は口にしない言葉だけど。俺の体がどうにかなっちゃっているので出るのも仕方ない。(今更否定できない事実)。
「……おはよ、サヤカ、エリーさん」
「ああ、うん、おはよ、ユージンちゃん」
「おはようだ、ユージン」
「とりあえず顔洗うね」
不毛な説には特に介入する事はせずに二人に挨拶だけしてから立ち上がり、顔を洗えば寝る前の記憶もはっきりする。
まず、神の遺骸は完全に消失していたことを確認した。遺骸消失後は俺が浄化した場所が再度汚染されることもなかったので、まぁ役目は果たしたのは間違いないだろう。その後エリーさんから更に【貴方に力を】を貰って周囲の雑魚敵の一掃と、やれる範囲の大地の浄化が済んだ辺りでユキノさんから連絡が入った。この世界の神とのコンタクトが取れ、目的を達成したとのこと。なので合流することとなった。
で、俺達が途中で放棄してきたトレーラーの位置で合流しようという話になった。この世界に置きっぱなしにしていくわけにもいかないしね。距離的には俺達の方が近かったので、
そうして到着した後、ユキノさん達が戻ってくる間に寝ちゃったってわけだな。ちなみにレオとヴォルクさんは精霊機装に搭乗して見張りをしてくれているハズだ。一応見える範囲にいる雑魚共は全部吹っ飛ばしてきたけど、多分全部は一掃できてないから念のためね。ちなみに男性陣二人が担当しているのは休憩はレディーファーストとかそういう話ではなく、単純に消耗度合の問題だ。ユキ江さん、サヤカさん、マオさんはほぼ魔術を展開しっぱなしだったし、殆どの霊力絞り出して浄化を行った俺は論外、燃料切れになる俺にあの後更にもう一回【貴方に力を】を使ったエリーさん、元々霊力少な目な上にやはり魔術を継続使用していたミズホも同様だ。
ヴォルクさんは今回殆ど魔術を使用していないし、レオはそれなりに使っていたものの俺に一回だけ使った【祝福の運び手】以外は派手な使い方をしていなかったので消耗はそこまでじゃなかったので率先して受け持ってくれたわけだ。
で、お言葉に甘えて速攻寝落ちした俺がいたということである。寝てたのは大体2時間くらい? そろそろユキノさん達が到着するということで起こしてくれたらしい。寝起きすぐだとぱぱっと動けないしね。
そうして俺が起きてから10分程、俺達はユキノさん達と合流した。
◇◆
合流した俺達は、さっそくアキツへと帰還──とはいかなかった。
帰って来たユキノさんは早速神とのコンタクトの結果を話してくれた。
神との接触は成功し、神の遺骸の消滅を確認した事によりこちらの世界の神も俺に与えた力の回収を認めてくれたらしい。
ただ……どうやら力を与えられていた俺はこの世界の神と一時的に経路が繋がっているような状態になっていたらしい。その経路自体は切断されたらしいんだけど、神の力が完全に体から抜けるのはアキツ側の時間換算で一昼夜程掛かるらしい。
まぁここまで待ったら一晩位は今更だ。仮眠取ったとはいえ霊力使いまくったから体はまだ疲れてるし、後は寝てまてばいい。帰ったら溜まってる仕事処理しないといけないしね今のウチに寝ておかないと。
「んーっ、何にしろようやくアキツに帰れるってわけだ」
一通り話を聴き終え、俺は手を上に伸ばして大きく背伸びをする。こっちの世界と一日にかかる時間が違うから感覚狂っているけど、1週間を軽く超える時間をこっちの世界で過ごしているからな……最近はアキツの滞在時間も増えているから、すごく離れていたような感じがする。まぁこっちの世界の過ごし方がアレだったのもあるけど。
「ユージン、帰ったらまず何したい?」
「お風呂」
ミズホの問いには即答した。このトレーラーのおかげでシャワーは浴びれてはいたけれど、やはり生粋の日本人としては湯舟にゆっくりつかりたいのである。
そんな俺の答えにミズホとその横にいたサヤカはそろってにっこりと笑い
「そうだな。ここのシャワーでは一人でしか入れないものな?」
「それは関係ないよ?」
「帰ったら体の隅々まで洗ってあげるわね」
「頼んでないからね!?」
『風呂は……さすがに見せてくださいとはいえないッスねぇ』
「当たり前だ」
「本当に仲いいわよね、貴女達」
じゃれあうように会話する俺達を生暖かい視線で眺めながら、エリさんがそう言ってくる。
「チームメイトですからね」
「チームメイトにしてもかなり仲いい方だと思うけど」
そもそも同棲してるし、ミズホやサヤカとはチームメイト以上の関係だし……いや、この言い方ならレオもそうではあるんだけど。
「いいなぁ、私も一緒にお風呂入りにいっていい?」
「さすがにウチのお風呂に4人は無理だと思いますよ?」
「そういう問題か?」
エリーさんと一緒に風呂自体は以前に経験済みだけど、この話の流れだとあまり俺にとっていい流れにならない気がする。さすがに3人がかりで洗われるのは御免被りたい。まあミズホの言う通りいくらミズホの部屋の風呂は広めとはいえ3人でもわりと限界の広さだし、さすがにエリーさんも俺達と風呂に入るためだけにはこないだろう──と思ったら別の所から想定外の攻撃が飛んできた。
「でしたら、 論理解析局の浴場を使いますか?」
「へ? 論理解析局の?」
「ええ」
問い返した俺の言葉に、ユキノさんは少し申し訳なさそうな顔をしつつ言葉を続ける。
「向こうに戻ってからですが、一度解析局に戻って検査を受けて頂きます」
あー……冷静に考えればそりゃそうか。曲がりなりにも異世界からの長期滞在からの帰還なわけで、防疫とかの観点から考えてもそういった検査は必要になるよね。
「検査を受けてから分析が終わるまで少しまっていただく必要がありますので、その間に局の浴場を使っていただいても」
「あー、だったらボクもその時はご相伴に預からせてもらおっかな?」
ああうん、それはいいと思うんだけどなんでそんなにやぁと笑って俺の方を見るんですか? マオさん?
「アタシもひとっ風呂浴びさせてもらうとするかねぇ」
あ、ユキ江さんも一緒に入ります? だったらコイツらが暴走しそうになったら止めてくれたりしないかな? ……無理そうだな、笑いながら傍観してそう。
……お風呂の件はおいておいて。翌日アキツへと帰還した俺達は論理解析局で検査を受けた。その検査で俺に関して面倒なことが発覚したんだけど……それは後日に話すとしよう。




