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あとがき + 没になった1話

 本作は“あったかもふゆ企画”という企画用に書き下ろした作品です。企画参加者が出し合った設定を用いて、それぞれが好きなように書く、ゆるーいシェアワールドな企画です。


 で、本作は料理をテーマにして、恋愛を絡めてコミカルな味付けを行った(……コミカル?)作品と相成りました。はい、バトルなんかほとんど無かったでしょ!?


 後書きといっても語ることはあんまり無いんですが、前例にならい僕も反省点を列挙していきたいと思います。


 反省点1.ストーリーが結構ダイジェスト


 可能な限り分量を減らしたかったので、物語の中盤にあたるシーンから始めて一気にストーリーを動かしました。設定なんかも地の文でがっつり書いて、とにかく高速で物語を動かすことを意識した結果、相当駆け足な印象になってしまった!

 まぁ丁寧に書いていたらそれこそ30万字くらい必要なお話なので、こうするしかなかったのですが。

 で、一番の反省点というか弊害は、物語中盤から始めたせいでいきなり重苦しい過去編に突入しちゃったこと。これで初見の読者がたくさん離れたことでしょう(笑)。


 反省点2.タイトル詐欺


 日常なんて無かった!


 反省点3.バトル


 い、一万字は少ない方やから……(震え声)。


 もちろん、収穫も多かったです。恋愛らしき物語も書けましたし、コミカルな場面や変態キャラも好きなように書くことが出来ました。

 とにかくフローラ! このキャラがいたことが本当に救いだった。ヒスイとジェイドだけではきっと、もっともっとシリアスな物語になっていたことでしょう。さすがは深窓の令嬢。


 ちなみに本作は初稿を一万字ほど全部ボツにして一から書き直したので連載開始時期に間に合わせるのが大変でした。今回は後書きということで、名残惜しいので初稿の第1話を最後に掲載しておきます。お時間ある方はちらっと読んでみて下さいね。


 それでは、短い後書きはこれにて終了!

 本作を気に入って頂けた方、是非とも他の作品も読んでみて下さいね!

 どの作品にも色んな変態が登場しますよー!

 よろしくお願いします!


 では!!




 “没版の第1話”



 かつて、強大な闇の力で世界を支配しようとした邪神を滅ぼした英雄がいた。

 彼はその生を終える時、自らの力を剣に封じて、それを大地に突き刺した。

 やがて剣は大地に根を張り神木となった。


 聖剣樹ブレドラシル、いつしかそう呼ばれるようになった大樹の根本には、朽ちかけた古臭い木製の看板が立っていた。長年風雨に晒され続けてきたのだろう、表面の文字はかすれ、ほとんど読み取れなくなっている。ちなみに看板には、こう記されていた。


 “この地に再び邪悪がはびこる時、神木は自らが選んだ者に、聖なる剣を与える。

 彼の者こそ、次代の勇者である。”



 伝説の聖剣は包丁じゃありませんっ!~聖女で勇者な少女ヒスイは世界最高の料理人を目指して冒険に恋に邁進中~



 快晴の冬空の下、2人と1匹の冒険者パーティーが長閑な田園風景の中を歩いていた。


 先頭を行くのは肩にかかるほどの長さの癖の強いブロンドヘアを揺らしながらスキップするように歩く緑の瞳の少女だった。ヒスイ・イシヅキ。16歳、職業は一応冒険者。そして一応、聖女などと呼ばれている。ちょっとした魔法が使えるから、生まれ故郷ではそうやってチヤホヤされていたのだ。


 そしてヒスイの肩にちょこんと乗っかっている毛むくじゃらの塊。こげ茶色の毛並の中に二つの丸い目がある。これは精霊スピリットの一種で本来は土属性を司る土霊ノームに連なる存在だったものだ。“だった”と過去形なのは、現在は精霊などという高尚な存在ではなくヒスイの単なるペットと化しているからである。人との関わりが強くなると精霊もその本来の性質から変化することがある。ヌーク、とヒスイは呼んでいた。触ると土霊の体温でぬくぬくしてくるからである。


 ヒスイの吐き出す吐息が白く濁っている。周囲の気温は寒い。この地域は湿度が高いから冬は重たい雪が降る。厳冬は間もなく始まろうとしてるのだが、この少女にはそんなことなど関係がないようだ。ニコニコしながら大きく手を振って行進する少女は底抜けに明るい笑みを浮かべながら、後ろを振り返る。


「もうすぐ、目的地だね」


「うむ」


 シブいバリトンボイスで返事をする筋骨隆々の巨漢。彼はマッツォ・バルクスキー。32歳。ヒスイとは数か月前に知り合ったばかりの冒険者である。ちなみにいかにも脳筋な見た目とは裏腹に彼はヒスイより幾分立派な魔法使いだ。この世界で男性の魔法使いというのは珍しい。魔法適性は女性の方が高いというのが一般的な認識だからだ。


 ヒスイとヌークとマッツォ。魔法使いが2人とペットが1匹。小規模でチグハグなパーティー編成だ。ヒスイは自分がパーティーのリーダーだと思っているが、年齢が倍も違うマッツォの方が落ち着いているし戦闘時も的確な判断が出来るので客観的に見ると彼がリーダー的である。マッツォ自身はおてんば娘に振り回されるのも特に気にしていないようで概ね、パーティーはうまく機能していた。


「ぬぅー」


 ヌークが目をパチパチさせながら鳴いた。実は口も鼻も耳もあるのだが毛深すぎてパッと見ではわからない。


「ヌークもお腹すいたよね」


 右肩の上でプルプルしているヌークを軽く撫でて、ヒスイはたすき掛けにしたベルトの穴に縛り付けた麻の小袋を1つ、つまみ上げた。中には乾燥させたトレント・プラム。それをヌークの口元へ近付けると、ヌークは勢いよく吸い込んでしまった。


「ぬぅー!」


「それだけで我慢してね。新しいのは街に着いてからね」


 目的地は独立都市国家マノー。周辺の国々から武力によって独立を保っている精強な新興都市国家だ。聞くところによると強力なレジェンドクラスの魔法使いが王として統治しているらしい。その翁があまりにも強大であるため、領地に誰も手出しが出来ないそうだ。


 同じ魔法使いとして、それ程の大人物なら一度くらい会ってみたいとヒスイは思っていた。今回の旅の目的とはまた別だが、どうせマノーへ立ち寄るのなら王に謁見してみるのもいいかな、などと大層なことを、この天真爛漫な少女は考えている。


「どっわああぁっ!!!?」


 足下を全然見ていなかったヒスイ・イシヅキは、地面から木の根が露出していることに全く気が付かなかった。ちょうどそこに輪っかのようになって顔を覗かせていた根に足を取られて盛大に転倒した拍子に、土煙を上げて何かが飛び出して空に舞いあがった。


「えっ、何あれ!?」


 それはくるくると回転しながらヒスイの目の前で地面に突き刺さった。


「……剣、だよね?」


 長年土の中に埋まっていたのだろう。酷く錆びているがそれはどう見ても剣だ。


「誰かの、忘れ物かな?」


 興味本意で柄を握ってみた。するとその古びた剣は呆気なく抜けた。まるで重さを感じない。鉄製ならもっとズシリとした重量感があるものだが。


「うーん、これは使い物にならなそう」


 と、手にかすかな振動を感じた。同時に脳内へ直接流れ込んでくる、誰かの声。


 “次代の勇者よ、今こそ我が聖剣を手に、邪神の力で暗黒の世界を生み出さんと企む魔王を討伐すべし”


「えっ? 待って、何何? 聖剣? 勇者!?」


 混乱するヒスイ。剣は振幅を強めその度に、錆がポロポロと剥がれ落ちて行く。


「ちょ、ちょっと! 待って待って何これー!?」


 あっという間に、剣は本来の姿を現していた。黄金に輝く柄、宝石がちりばめられた鍔、刀身は銀色の鋭い光を放ち、しかも、剣全体から虹色のオーラが立ち上っている。


「うわぁ……すごーい」


 思わず感嘆する。ヒスイに剣の心得は無い。けれど一目で、これが相当な業物であると理解した。


 まるでオーダーメイド品のように手に馴染む。聖剣を軽く振ってみる。信じられないことだが全く重くない。まるで羽根のように軽い。


 “次代の勇者よ、聖剣は汝の意志のままにその形を変えられる”

 “さぁ、イメージするのだ、汝の持つべき武器の姿を”


「え、じゃあ、包丁で!」


 “……包丁?”


「うん、だって私、料理人だし」


 “もう一度、言うぞ?”

 “さぁ、イメージするのだ、汝の持つべき武器の姿を”


「包丁! ファイナルアンサー!」


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― 新着の感想 ―
[一言] おー、幻の一話! 私はこの始まり方好きですね。料理にスポットが当たっているし、その包丁を使いながら料理をしたりモンスター捌いたりするんだろうなってストーリーが目に浮かびます。 執筆お疲れま…
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