勇者ゴーホーム
俺の名前はガーランド・イノーウェ。
辺境の領主であるギルハイト・フォン・ショタ……ん?シュタだっけ?まぁいいや、忘れた。ともかくそのギルハイトなんとか様にお仕えする兵士だ。
領主様は今、領内からかき集めた魔導士達を使って一大儀式に取り組んでいる真っ最中である。
無駄にだだっ広い謁見の間の中心には複雑に書き込まれた魔法陣。
それを取り囲むようにして魔導士達が一生懸命詠唱を続けている。
俺は魔法についてはからっきしの門外漢だが、今行われているものが何であるかは子供でも解る。
召喚魔法。それも、最大級の秘術に相当する大魔法だ。
「いよいよだ、我が野望が成就する時が来た!」
うわぁ~、すっごい嬉しそうな顔してるよギルハイトさん。ご禁制の召喚魔法を用意するのに大層な苦労をしたんだろう。田舎の領主にはちょっと荷が重かったのかもしれないな。
魔法陣に満ちた魔力が火花を散らし、ドンッと音を立てて光の柱が立ち上る。
天井ブチ抜いちゃってますけど。
「成功だ!勇者の召喚は成ったぞ!」
おおっ~!と、どよめきが起こる。ギルハイトさんや魔導士達はもちろん、兵士からメイドまで皆が一様に興奮の最中、俺一人が欠伸を嚙み殺している。
まぁ、最初は興奮するよな。何せ未知の世界から人間を召喚しようっていうんだから。俺も最初の数回はドキドキしたもんだ。いやぁ、懐かしい。
魔法陣から光の柱が消えると、そこには一人の少年が立っていた。
「あれ!?ここは!?何で?今たしか、トラックに轢かれそうになって……」
あ~、またトラック系か。今年に入って3人目だぞ。トラックさん仕事し過ぎですよ。異世界人は働くのが大好きらしいからな。どれ、俺も見習ってそろそろ仕事をしますかね。
「おおっ!よくぞ参られた勇者よ!私はこの付近を収める領主、ギルハイト・ヴァン・シェタルフである。其方を召喚したのは私だ」
「え?何?勇者って僕が!?マジで!!?ええ~~~~!!?ここって異世界なのォ!?」
少年は驚いた様子で周囲をキョロキョロ見渡していたが、ようやく事態を飲み込めたのか、やがて頬を紅潮させて嬉しそうにガッツポーズを取った。
相変わらず異世界人は順応早いなぁ。領主の名前はギルハイト・ヴァン・シェタルフだな。うん、そんな名前だったな。危うく名前間違えちゃうところだったよ。
「うむ。勝手に呼び出して済まぬが、勇者よ。其方にはこの世界を脅かす魔王を――――」
ガシャーン。
俺が被っていたヘルムの金属音が床に響き渡り、領主の言葉が遮られた。思ったより大きい音がしてちょっと焦る。
「は~い、そこまで!領主ギルハイト・ヴァン・シェタルフ!異世界人召喚の現行犯で逮捕します」
「な、なんじゃと!?まさか……審問官だとっ!?」
「そそ。異世界召喚特別対策部隊隊長のガーラーンド・イノーウェっす」
「イノーウェ!?王族がなんでこんなところに!?」
王族っていっても現在の国王の遠い親戚で、没落寸前の貧乏貴族の五男坊なんですけどね。勝手に勘違いしてくれてるならやりやすくていいが。
慌てふためく領主を無視し、召喚された勇者を見る。どこにでも居そうな普通の少年だ。
「え~っと。突然のことで済まないが、ここは君が住んでいた世界とは異なる世界。君はこのオッサンに強引に召喚された勇者。ここまではオーケー?」
「は、はい」
「この世界の人間は世界の半分を支配している魔王の軍勢と日々闘っていて、その戦力として時々、勇者と呼ばれるチートな能力を持った存在が召喚されることがあるんだ」
「……チート能力。僕が……」
ごくりと唾を飲み込む少年。どうしよう、すごく嬉しそうな顔だ。
「まぁ、そんな訳で。大変申し訳ないんだが……」
「わかりました!僕がその魔王を倒して世界を平和に――――」
「わりぃけど、帰ってくんない?」
「へ?」
「いや、なんていうか……もう勇者とか間に合ってるんだわ。悪いけど」
「え?ええっ!!?」
「とある事件で異世界召喚の技術が世間に流出しちゃってさ。それ以来、もう次から次に勇者が呼ばれちゃって困ってるんだわ」
「で、でも折角来たのに……チート能力とか……」
「そうじゃ!まだ魔王は倒されておらん!私が呼び出した勇者こそが世界を救うのだ!」
ギルハイトのおっさんが口を挟んでくる。無視してたから怒っているのだろう。
「異世界人の召喚が国際条約で禁止されているのはご存知ですよね?辺境伯ギルハイト」
「うっ、うむ。じゃが、私は世界の平和の為に――」
「世界の平和?魔物の侵攻から最も遠く、世界の中心に位置するグランローエン帝国の田舎の領主様が?」
「い、田舎とかそういうことは関係ない!」
「大方、異世界人から未知の技術を手に入れて私腹を肥やし、あわよくば魔王を倒させて成り上がろうとしたってところだろ?」
「そ、そんなことは……」
「ま、どう言い逃れしたところで、犯罪は犯罪。やってることはただの誘拐だ。弁明は国王陛下にするんだな。大人しく連行されろ」
ギルハイトは肩を震わせ、少し逡巡した後、意を決したように声を張り上げた。
あ、これは面倒なパターンに入っちゃったか。
「ええい!斬れ!こやつは国家権力を語る詐欺師だ!勇者の召喚は失敗した!そこに居るのは魔界から現れた悪魔!二人まとめて消し炭にしろ!」
「ひえええ!?」
実家に伝わるおとぎ話の悪代官みたいなことを言い出した。可哀そうに勇者君が怯えてるじゃないか。バレたから証拠隠滅って、どんだけだよ。さっきまでの世界平和うんぬんはどこにいった。
兵士や魔導士達は戸惑いながらも、領主の言葉には逆らう訳にもいかず、俺と勇者を取り囲むようにして武器を構えだす。仕方ない、いっちょ暴れますか!
「サラさん!リンさん!懲らしめてやりなさい!」
俺の合図で領主の間の扉がバンと開け放たれ、二人の美少女が姿を現した。
「風雷暴」
「氷に覆われし世界」
暴風を伴った雷撃が兵士達を打ちのめし、魔導士達は一瞬にして氷漬けにされた。
瞬く間に領主の私兵の殆どが戦闘不能に陥った。
手加減はするように言ってあるから死人はいないはずだが、数十人を一瞬で無力化してしまう程の威力を持った大魔法。俺の部下、超怖い。
「なっ!?」
ギルハイトは尻餅をついて絶句している。
「ちょっと、リンデ!やり過ぎじゃないの?どうすんのよ、この凍った人達」
「そのうち勝手に溶けるじゃろ。サラファーユこそ、金属の鎧を着た兵士に雷撃とかえげつない」
「なによ、文句があるなら相手になるわよ」
「身の程知らずのハーフエルフが。誰に口を利いているか教えてくれるわ」
仲の悪い二人がいつも通り喧嘩を始める。呪文の詠唱も無しに大魔法をぶっ放したことから、恐らく扉の向こうで待機している時から揉めていたのだろう。実力が伯仲しているから大事にはならないだろうが、喧嘩に使うような魔法じゃないからな?
「というわけで、大人しくお縄に付けルパン」
「ルパン?なんじゃそれは」
「王家に伝わる逮捕時の決まり文句だ。気にするな」
取り出したロープで領主を縛り、足でゴシゴシと召喚の魔法陣を乱雑に消して一件落着。
事後処理は派遣されてくる国王配下の兵に任せよう。
「おーい、サラ~、リンデ~。帰るぞ~」
「了解」
「うむ。この連中はどうする?」
「ひとまず、領主の身柄を本国に引き渡す。勇者君からは事情聴取も兼ねて、いつもの酒場で一杯やりながら話を聞かせて貰おう。サラ、転移魔法を」
「はいは~い」
サラファーユのが呪文の詠唱を始めると、周囲に転移魔法陣が浮かび上がり淡い光を放ちだした。
「空間転移」
今日のお勤めはこれでおしまいだ。




