前へ
少女と男は並んで歩いていた。周りには、ジョギングをする人や、下校している学生の姿も見える。
「私には、好きな人はいないんです。」
少女は男に話す。
「いつも誰かの後ろに立ってふりかえってもらうのがメリーなんですけど、私にはふりかえるような人はいないんです。」少女は言う。
男はただ聞いていた。並んで歩きながら。
「・・・でも、もし私にもふりかえるような人がいたのなら。私のことを想ってくれる人がいたのなら・・・。」
男は最後の言葉を聞くことが出来なかった。なぜなら、今、二人が立っている場所は・・・。
「私はメリー。今あなたの隣に立っています。」
男は聞いていた。
「私はあなたのメリー。ずっと後ろからあなたを見ていました。」
少女は言う。
「私は・・・日常には戻れない。あなたとはいっしょにはいられない。」
少女は後ずさる。男はふりかえらない。その目は前方を見つめたままだ。
「・・・安心してね。もうあなたの後ろにはメリーはいないよ。私のわがままにつき合わせてごめんね。・・・さよなら。」
少女は後ろへと歩き出す。ふりかえることも無く。ただ前を見つめて歩き続ける。そのメリーの言葉には、嘘は無かった。
男はふりかえる。しかし、もうそこには少女の姿は無かった。・・・男も歩き出した。後ろではなく、前へと歩いていく。
もう二度と少女には出会えないだろう。そう思いはしたが歩き続けた。結局、人間の自分は前へと歩いていくしかないのだから。




